金融・商事判例1690号で紹介された事例です(東京高裁令和5年9月20日判決)。

 

 

令和4年3月24日の最高裁判決では、人傷社が被害者(人身傷害保険契約者)との間で自賠責保険金の請求と受領を一任し、人傷社が自賠責保険金から回収していたとしても、それは被害者が自賠責保険金を受領したものとは同視出来ないとし、被害者は人傷保険金を自らの過失分に先に充当したうえで、不足分は加害者に対し請求できるとしています。

 

 

人身傷害保険会社が被害者の同意を得てした自賠責保険金の回収を加害者による弁済と同視することの是非 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

 

 

話がややこしいのですが、人傷保険を締結していない場合で考えると、1000万円の損害額である場合に加害者と被害者の過失割合が6:4だとすると、被害者は600万円しか請求できないことになります。

被害者が自賠責保険から100万円を受け取っていれば600万円-100万円=500万円を加害者に対して請求できることになります。

人傷保険を締結しており、人傷社から(例えば)100万円受け取っていれば、その100万円は被害者の過失分にまず充てられますので、加害者に対してはなお600万円請求できることになります。人傷社が自賠責保険から100万円回収したとしてもこの点は変わりませんよというのが先の最高裁判決ということになります。

 

 

本件の人傷社の支払い基準は、人傷社の支払い基準と自賠責基準を比較して後者が上回る場合にはその金額を支払うとされており、本件ではそのようであったため、あたかも、人傷社から被害者に対し支払われたお金が自賠責の保険金のようにも見えるため、先の令和4年判決の射程外なのではないかということが争われました。

 

 

しかし、裁判所は結論としてこのような加害者側の主張を退けています。

・人傷一括支払い合意(自賠責保険金を含めて人傷社が支払うとの合意)がなされていたとしても、本件のように人傷社が給付義務を負うとされているのと同額を支払ったに過ぎないときは、他に特段の合意がない限り、被害者としては人傷保険金が支払われたと理解するのが通常である。

・本件で人傷一括払い合意に際して取り交わされた確認書その他の証拠を見ても、損害賠償額について人傷一括払いによっても満足を受けられない部分があり得ること、本件被害者が人傷社に優先して単独で行使できる権利について人傷社が行使することを承諾し、それにより被害者は権利行使するのではなく人傷社に対し追加支払いを求めることになること、人傷社はそのような追加払いに必ず応じることについて、十分に説明され理解したうえで人傷一括払いを選択し具体的に合意したとは認められない(加害者側は、本件において被害者と人傷社は、自賠責保険としてやり取りしていたのであり、上記のような被害者が自賠責保険を受け取ったのと同様に処理すべきで、被害者の過失部分については被害者と人傷社の間で処理すべき問題として令和4年判決の射程外であると主張していました)。