判例タイムズ1519号で紹介された裁判例です(福岡家裁令和5年6月14日審判)。

 

 

本件は、遺産分割審判において、被相続人の妻に、近時民法改正により新設された配偶者居住権をみとめたという審判例になります。

相続の当事者としては、被相続人の妻、子,被相続人の妻の子で,被相続人の養女・養子である本件審判申立人になります。

 

妻は,遺産である本件各建物(被相続人の生前,被相続人と同居していたものであり,現在も本件不動産に単身で居住している。)につき存続期間をその終身の間とする配偶者居住権を取得し,今後とも本件不動産に居住することを希望し、その子は,配偶者居住権が設定された本件各建物を取得することを了解し、申立人は,本件不動産の取得を希望しておらず,相続分を金銭で取得することを希望しているという状況でした。

 

 

審判において、被相続人の配偶者であり,相続開始の時に本件不動産に居住していたところ,本件各建物について配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出ており,その子は,配偶者居住権が設定された本件各建物の取得を了解していることから、子の受ける不利益の程度を考慮してもなお,被相続人の配偶者の生活を維持するために特に必要があると認められ、被相続人の妻に本件各建物につき存続期間を同人の終身の間とする配偶者居住権を取得させ,その子に本件不動産の所有権を取得させるのが相当であるとしています。

 

 

配偶者居住権についてはその評価が問題となりますが、本件では、当事者全員が配偶者居住権の評価について,次のとおりの簡易な評価方法により,188万6241円とすることを合意しており、同合意を不当と認める特段の事情はないと判断されています。
  (1)本件土地及び本件建物2の合計現在価額 356万4660円
  (2)負担付本件各建物所有権の価額 法定耐用年数超過により0円
  (3)負担付本件土地所有権の価額
 【本件土地の現在価額】225万5940円×【83歳女性の簡易生命表上の平均余命10年を存続期間とするライプニッツ係数】   

   0.744≒167万8419円(1円未満切捨て)
  (4)配偶者居住権の価額
  【上記(1)】356万4660円-(【上記(2)】0円+【上記(3)】167万8419円)=188万6241円

 

 

そして、被相続人の妻の取得分は1148万7683円(=【配偶者居住権】188万6241円+【本件預金】合計1442円+【本件現金】960万円)となり,その具体的取得分を357万7475円(=【取得分】1148万7683円-【具体的取得分】791万0208円)超過することになり,申立人に対し263万6737円,子に対し94万0738円{=【具体的取得分】263万6737円-【配偶者居住権控除後の本件不動産】(358万2240円-188万6241円)}の代償金を支払うことになるが,被相続人の妻は,本件現金を取得するので,代償金を支払う能力があると認められるとしています。

 

 

相続法改正 配偶者居住権の新設 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)