今年の7月6日成立の相続分野の法改正において,配偶者居住権なるものが新設されました。

これには二つの類型があり,一つは遺産分割の終了時までなど居住建物について生存配偶者の使用収益権を無償で認める「短期配偶者居住権」と遺産分割等により生存配偶者が終身又は一定期間,居住建物に継続して居住することができる「配偶者居住権」の2つです。後者については,結果として短期になるものもあるため,特に「長期」配偶者居住権という名称にはされませんでした。

 

 

改正民法1028条1項では,相続開始時に生存配偶者が遺産である建物に居住していた場合において,遺産分割又は遺贈により,配偶者居住権を認めることができるとされています。

 

 

 改正民法第1028条1項 

被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。

一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。

二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。

 

 

このような法改正がされた経緯の一つとして,従来,生存配偶者がそれまで同様建物に住み続けるためには,建物自体の所有権を取得するか建物所有権を相続する他の相続人との間で使用貸借や賃貸借契約を締結して住み続けるしかありませんでしたが,建物の所有権自体を相続してしまうとその分だけ預貯金の取り分が少なくなってしまい生活費に困ってしまったりすることがあり,この点,配偶者居住権の金額評価としては建物の所有権よりも低く設定されることになるので,生存配偶者としては建物に住み続けることができる上に預貯金も多く相続できるということになり,従来の取り扱いよりも改善されるということになっています。なお,建物所有権を取得する相続人は,配偶者居住権という制限付きの所有権を取得することになるので,こちらについてもその分評価額は低減されることになります。

例えば,1000万円の価値のある建物と1000万円の預金が遺産であった場合に,相続人が配偶者と子一人という場合(法定相続分2分の1づつ),従来,配偶者が建物を相続すれば預貯金の取り分はなしということになってしまっていましたが,仮に配偶者居住権の価値が500万円ということになれば預金についても500万円相続できることになるということになります(子については,制限が付いた建物所有権500万円と預金500万円を相続する)。

 

 

遺贈の場合はよいとしても,遺産分割の場合は相続人全員が合意しないと配偶者居住権が設定できないということになってしまいますので,家庭裁判所の審判によっても配偶者居住権の設定ができることとされています(改正民法1029条)。

 

 

改正民法第1029条 遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。

一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。

二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く。)

 

 

配偶者居住権が認められた場合は,遺産分割協議,遺贈,審判で定められていなければ,終身の間,居住権が認められることとされています(改正民法1030条)。

 

 

なお,配偶者居住権を第三者に対抗するためには,不動産登記を要することとなっています(改正民法1031条2項,民法605条)。

 

 

配偶者居住権の終了事由については改正民法1036条が民法597条のうち1項と3項を準用しており,期間が定められているときはその期間満了により,終身の場合には生存配偶者の死亡により終了するということになります。

 

 

民法第597条 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。
2 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
3 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。

 

民法597条2項については準用されていないことから,例えば,終身の配偶者居住権が認められている場合において,生存配偶者が重度の認知症等にり患したため,施設に移ることになり自宅に戻る見込みが全くなくなったとしても,居住の目的が達せられたとして終了するということにはならないものと考えます。