判例時報2586号で紹介された裁判例です(津地裁令和5年3月16日判決)。

 

 

争点

有期労働契約を締結していた労働者に、無期労働契約を締結していた労働者には認められていた通勤手当、扶養手当、リフレッシュ休暇、賞与及び賃金、年次有給休暇(日数及び半日休暇の可否)、特別休暇及び福利厚生等に相違があったことは労働契約法に違反する不合理な取り扱いか。

 

 

裁判所の判断

(1)通勤手当を支給しないことの不合理性)について・・・否定
・正社員は正社員就業規則によりその支給がされるが、有期雇用契約社員にはその規定がなく、実際に支給されていなかったことから、この相違は労働契約の期間の定めの有無によるものと認められる。
・通勤手当は、正社員就業規則の定めによれば、公共交通機関を利用できず自家用車等で通勤する者に対して、その費用をてん補する趣旨のものと認められる。そして、この趣旨については、正社員だけではなく、有期雇用契約社員にも妥当するものといえる。しかし、前記⑴認定事実ウによれば、被告において、通勤バスを手配し、その経路についても有期雇用契約社員にある程度配慮した上で決定されており、通勤手当を支給しない代わりの代替手段が存在し、十分に機能していたものといえる。そして、通勤手当を支給しない代わりに通勤バスがあることについて、原告らが被告との間で締結した「有期契約社員労働契約」6条に明記されていること(甲5の1~5)からすると、原告らもこれに了承した上で被告において労働しているものといえる。
・したがって、通勤バスという代替手段があったことは労働契約法20条所定の「その他の事情」として考慮すべきであり、通勤手当の相違が、不合理であるとは認められない。


⑵扶養手当を支給しないことの不合理性・・・肯定
・前提事実⑸アによれば、扶養手当は、正社員賃金規則所定の条件を満たせば扶養手当が支給される一方で、有期雇用契約社員らにはその規定がなく、実際に支給されていなかったから、この相違は労働契約の期間の定めの有無によるものと認められる。
・被告の正社員に対して扶養手当が支給されているのは、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。このように、継続的な勤務が見込まれる労働者に扶養手当を支給するものとすることは、使用者の経営判断として尊重し得るものであるが、上記目的に照らせば、有期雇用契約社員らにおいても、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は同様に妥当するというべきである。そして、被告において、有期雇用契約社員らは、契約期間が6か月以内又は1年以内とされており、実際に被告においても、通常の勤務態度であれば契約の更新をするという運用をしており、原告らは、長期にわたり更新を繰り返して勤務していた。このことからすれば、前記3⑵で示した原告らと原告らが比較すべきとする正社員との職務の内容等につき相応の相違があること等を考慮しても、正社員と原告らのように長期にわたって勤務している有期雇用契約社員らとの間に扶養手当に係る労働条件の相違があることは、不合理であると認められる。
 

 

(3)リフレッシュ休暇制度がないことの不合理性)について・・・肯定
・前提事実⑸エによれば、リフレッシュ休暇制度は、就業規則等の定めにはないものの、正社員には、無期転換準社員について創設される前からあった制度であるから、この相違は期間の定めの有無によるものと認められる。
・リフレッシュ休暇制度は、職員の勤続年数に着目して、一定の年数に達した者に対して休暇及び旅行券等を支給するものであるから、長期間の勤続年数に達した者に対する報償の目的によるものと考えられる。そして、この目的によれば、このリフレッシュ休暇制度は、有期雇用契約社員らであっても、長期間にわたって勤務した者には、その趣旨が妥当するというべきである。そして、原告らのような実際に長期にわたって雇用となり、リフレッシュ休暇制度の対象となる10年単位の年次まで勤務している者には、上記趣旨が妥当するから、有期雇用契約社員らであっても、職務の内容等に相違があったことをしんしゃくしても、リフレッシュ休暇制度について有期雇用契約社員らに適用しなかったことは不合理であると認められる。
 したがって、リフレッシュ休暇制度に関する正社員と有期雇用契約社員らとの労働条件の相違は、労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」であると認められる。
 

 

(4) 賞与の不支給その他の大幅な賃金格差の不合理性・・・否定
・被告の正社員に対する賞与は、正社員賃金規則において、賞与支給基準を別に定め、賞与額及び支給日等の細目についてはその都度決定すると定められ、賞与支給基準としては、営業利益、正社員が所属する労働組合の人数、景気動向等を考慮し、正社員の1.5か月分の基準内賃金を加えた上で、総支給額を定めるのみであり、個別の分配については、その都度被告において決定するものである。そして、業績にある程度連動はするものの、最低でも正社員の基準内賃金の1.5か月分は保障されていることや平均して賃金5か月分が支給されていることに照らすと、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を踏まえたものと認められる。そして、正社員の基本給については、勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされており、勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格も有するものといえ、業務の内容や難度、責任の程度が高く、人材の育成や活用を目的とした人事異動又は人員配置が行われていたものである。このような正社員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば、被告は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正社員に対して賞与を支給することとしたものといえる。
・前記3⑵で判断した各考慮要素によれば、正社員と有期雇用契約社員らとの間では、職務の内容だけではなく、人事異動や人員配置においても大きな差異があったといえ、これらの差異は、正社員に対する役割の期待からくるものであって、賞与の目的もこれに応じて支給されるものであることからすれば、有期雇用契約社員に賞与を支給せず、また、準社員に正社員よりも大幅に低い一時金しか支払わないことも、直ちに不合理であるとは認められない。

 

(5)年次有給休暇の半日単位の取得ができないことの不合理性・・・肯定
・前提事実⑸アによれば、正社員は、正社員就業規則において、半日単位で年次有給休暇を行使できるとされる一方で、有期雇用契約社員にはその規定がなく、実際に行使できなかったことから、この相違は労働契約の期間の定めの有無によるものと認められる。
・被告の正社員に対して、年次有給休暇の半日単位の取得を認める趣旨は、柔軟に年次有給休暇を取得できるようにすることで、有効に活用できるようにすることを目的とするものである。この目的からすれば、前記3⑵で示した原告らと正社員との職務の内容等につき相応の違いがあるとしても、この違いは重要ではなく、被告において、正社員と同程度の所定労働時間の定めがある有期雇用契約社員であった原告らにおいても同様に妥当するものといえる。そうすると、原告らと正社員との間に半日休暇に係る労働条件の相違があることは、不合理であると認められる。

 


(6) 年次有給休暇付与日数が少ないことの不合理性・・・否定
・前提事実⑸アによれば、有期雇用契約社員らは、正社員より年次有給休暇付与日数が少ないことは、適用される就業規則によりその差が生じているものであり、期間の定めの有無による相違ということができる。
・年次有給休暇は、労働者に対して、休日の他に一定程度の日数の休暇を有給で保障するものであり、その趣旨は、有期雇用契約社員らにも妥当するようにもみえる。しかし、有期雇用契約社員らについては、正社員と比べて年次有給休暇の日数が少ないものの、労働基準法39条1項及び2項の基準を満たしており、その付与日数についても、有期雇用契約社員らに対して6年目となった時点で、正社員に対して5年目となった時点で付与されている最大日数である20日となる(前提事実⑷ア(エ)、エ(オ)、オ(オ))。そして、有期雇用契約社員らの契約期間が更新された後の6年目という、今後の長期の雇用が現実的に想定されることとなった時点において、有期雇用契約社員らの年次有給休暇の日数が正社員と同じとなることからすれば、上記相違は、有期雇用契約社員らについては採用から5年以内においては未だ長期にわたって働き続けることが明らかとはいえない一方で、正社員については採用時点において長期にわたって働き続けることが想定されているため、当初から手厚く付与するものと考えられる。なお、国家公務員については、人事院規則により常勤職員と非常勤職員とで年次有給休暇の日数は異なり、1年目から5年目までの間において差がある(人事院規則15-14第18~20条、人事院規則15-15第3条等)ことを参照しても、正社員と有期雇用契約社員らとで、年次有給休暇を採用初期から同一にすべきとまでいえるものではない。
 したがって、1年目から5年目までの有期雇用契約社員らと正社員との日数の差についても、正社員と有期雇用契約社員らとの相違は、不合理であるとまではいえない。


 

(7) 特別休暇がない又は少ないことの不合理性・・・肯定
・有期雇用契約社員は、特別休暇がなく、準社員は、特別休暇が正社員より少ないことは、それぞれに適用される就業規則に定めるとおりであるから、労働期間の定めの有無による相違と認められる。
・特別休暇制度は、冠婚葬祭等の特別の事情が生じた場合、特別に、その事情に応じた日数の有給休暇を従業員に付与するものである。このことからすれば、この制度は、冠婚葬祭等の特別の事情に準備又は対応をする期間を確保することを目的とすることによると考えられる。このことからすれば、特別休暇制度は、職務の内容等を考慮したものではないから、有期雇用契約社員らにもその目的は妥当するものといえる。また、準社員について正社員よりも特別休暇の日数が少ないことについて、冠婚葬祭等の準備又は対応に要する期間の違いが職務の内容等により生じるものとはいえず、これを覆すに足りる証拠もない。
 したがって、特別休暇制度に関する正社員と有期雇用契約社員らとの間の労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
 

 

 

寒冷地手当の支給につき正社員と時給制契約社員で差異をつけることの適法性 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

ハマキョウレックス事件最高裁判決 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)