判例タイムズ1518号で紹介された裁判例です(東京地裁令和5年7月20日判決)。

 

 

本件の争点は、郵便事業会社につき、寒冷地手当の支給につき正社員と時給制契約社員で差異をつけることが労働契約法上、不合理な労働条件の相違に当たるか否かです。

 

 

この論点については、ハマキョウレックス事件の最高裁判決に判断基準が示されています。

「有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。また、ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合もあり得るところ、そのような事情も、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり考慮されることになるものと解される」

 

 

ハマキョウレックス事件最高裁判決 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

 

本判決もこの基準に照らしながら、次のように説示して、結論として、正社員、とりわけ郵便の業務を担当する新一般職と郵便の業務を担当する時給制契約社員との間には職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲につき相応の共通点があることを考慮しても、正社員に対して寒冷地手当を支給する一方で、時給制契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価できるものではないとしています。

 

・正社員の基本給は、①担当する職務の内容による分類(職群、又はコース・役割グループ)、②職務の複雑困難性及び責任の度合による区分、又は社員に期待される役割による区分(職務の級、又は役割等級)並びに③前年度の勤務成績が良好であることを必要条件として上位に変更され得る賃金階層(号俸)によって定められており、勤務地域による差異は設けられていない。
 

・そして、寒冷地手当は、正社員が毎年11月から翌年3月までの各月1日という冬期の基準日に所定の寒冷地域に在勤することを条件として支給され、その額は、地域の寒冷及び積雪の度による区分並びに世帯主か否か及び扶養家族の有無による区分に応じて定められている。
 

・そうすると、寒冷地手当は、正社員の基本給が上記①から③までの要素によってのみ決定され、勤務地域による差異が設けられていないところ、寒冷地域に在勤する正社員は、他の地域に在勤する正社員と比較して、寒冷地域であることに起因して暖房用燃料費等に係る生計費が増加することから、寒冷地域に在勤する正社員に対し、寒冷地域であることに起因して増加する暖房用燃料費等に係る生計費をその増加が見込まれる程度に応じて補助することによって、勤務地域を異にすることによって増加する生計費の負担を緩和し、正社員間の公平を図る趣旨で支給されているものと解される。
 

・これに対し、時給制契約社員の基本賃金は、所属長によって地域ごとに定められるものであり、その一部を構成する基本給は、その勤務地域における地域別最低賃金に相当する額に所定の加算をしたものを下限額とし、募集環境を考慮して、既達予算の範囲内で定めることができるものであり、勤務地域ごとに異なる水準で決定されている。

そして、基本給の下限額の基礎となる地域別最低賃金は、「地域における労働者の生計費」が考慮要素の一つとされ(最低賃金法9条2項)、これを決定する過程において、各都道府県の人事委員会が定める標準生計費が参照されていれる。

 

・このように、時給制契約社員の基本賃金は、勤務地域ごとに必要とされる生計費も考慮された上で、勤務地域ごとに定められているのであるから、勤務地域を異にする者の間に、基本賃金に勤務地域による差異がないことに起因する不公平が生じているとはいえず、寒冷地手当の支給により公平を図る趣旨が妥当するとはいえない。
 

 

 

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