労働判例1305号で紹介された裁判例です(奈良地裁葛城支部令和4年7月15日判決)。

 

 

本件は、平成9年に交通事故により右足関節機能障害となり後遺障害が残り、平成10年には同障害による身体障害者手帳(5級)の交付も受けていた市職員(原告)が、市の安全配慮義務違反等(原告の右足首の障害に配慮せずに業務に就かせたことなど)を主張して慰謝料の請求をしたという事案です。

原告の担当職務は数回変わっていますが、平成17年から23年までの6年間に担当していた生活保護のケースワーカーの職務は、仕事柄、庁舎外の自宅訪問が多く、正座して話を聞くなど、前記の障害を抱えた原告にとってはつらく、右愛の疼痛などを覚えることがややくなり、その間、上司は当該職務は難しいということを人事課に伝えたり、原告自身も職務替えを希望するなどしていたという経緯がありました。

 

 

 

裁判所は、以下のとおり判示したうえで原告の訴えを認めて、慰謝料300万円を認容しました。

 

【判旨】

・使用者は,労働者の生命・健康が損なわれないよう安全を確保するための措置を講ずべき義務を負っている。したがって,労働者が現に健康を害し,そのため当該業務にそのまま従事するときには,健康を保持する上で問題があり,あるいは健康を悪化させるおそれがあるときには,速やかに労働者を当該業務から離脱させ,又は他の業務に配転させるなどの措置を取るべき義務を負うと解するべきである。

・生活保護の担当課に配属させた後の原告の右足は,家庭訪問の業務が大きな負担となるような状態にあったのであり,市もその事実については,自己申告書や身体障害者手帳のコピーで原告の身体障害を把握するとともに,上司や同僚を通じて実情を容易に知り得る状態にあったと認められる。そうすると,市としては,原告の状況を把握した上,その業務負担を軽減する措置を取り,あるいは担当業務を変更するなどの措置を講じる義務を負っていたというべきである。

・市は,平成17年以降,原告を生活保護の担当課から異動させず,多数回の家庭訪問に従事させたのであるから,市には安全配慮義務違反があるというべきである。

 

 

障害者雇用促進法が求める合理的配慮の義務の懈怠の成否が問題とされた事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)