労働判例1297号で紹介された障害者雇用促進法が求める合理的配慮の義務の懈怠の成否が問題とされた事例です(岐阜地裁令和4月8月30日判決)。

 

 

本件の当事者は

・被告・・障害者雇用促進法44条に規定する特例子会社)

・原告・・交通事故による脳外傷が原因で高次脳機能障害を有するようになり、注意障害、遂行機能障害、言語障害、記憶障害などの症状が現れるようになっていた。また、強迫神経症を併発しており、これとは別にパニック障害もみられていた。被告と労働契約を締結していた。

 

 

原告は、障害のある労働者である原告に対して障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な援助をする措置を講じるべき義務があつのにこれに違反したと主張して損害賠償請求をしたものですが、具体的な内容としては、たとえば、服装の自由(原告は運動靴しか履けない、スーツやブラウスが着られない)を認めるべきであるのに、スーツやブラウス、革靴の着用を強制されたといったことを主張しました。

 

 

被告は、履物の着用については障害に関係しない身体的事情による要望であるとしてこの点は障害者雇用を理由とする法的な配慮義務の対象外であると主張しましたが、その他の原告が主張した配慮すべき事項の点については認めました。

 

 

判決は、履物について被告が原告に対し配慮すべき義務をを負っていたかどうかについて、原告が履き物について配慮を求めた理由である「腰を痛めている」という点は、原告が障害者として雇用される事情となった高次脳機能障害、強迫神経症によりもたらされたものではなく、直ちに障害者雇用促進法が求める合理的配慮の対象となるものではないとしつつ、本件においては、原告が履歴書に履物つにいての配慮を求めること(運動靴しか履けない)を記載し、被告もこれを認識して原告を雇用していたことから、同法に定める合理的配慮に準じるものとして扱うとしました。

 

 

それでは、本件において、原告が配慮を希望していたことに対して、被告の行為に合理的配慮義務違反が成立するかという点については、判決はいずれも否定しています。

判決は、「全て事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであつて、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理並びに職業能力の開発及び向上に関する措置を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない。」と規定している法5条の事業主の責務などからすると、被告が、障がい者である原告に対し自立した業務遂行ができるように相応の支援、指導を行うことが許容されているというへぎであり、原告はそのような支援、指導があった場合には、業務遂行能力の向上のために努力すべき立場にあったといえるとし、被告が原告の業務能力拡大のために資すると考えて提案(支援、指導)した場合については、その提案(支援、指導)が、配慮が求められている事項と抵触する場合であっても、形式的に配慮を求められている事項と抵触することのみをもって配慮義務に違反すると判断することは相当ではなく、その提案の目的や提案内容が原告に与える影響などを総合考慮して、配慮義務に違反するかどうかを判断すべきとしています。

 

 

その上で、たとえば、ブラウスやスーツ、革靴に使い外観の靴の着用を被告が勧めたことについて、ブラウスやスーツ、革靴に近いガン缶の靴の着用により社会人(職業人)としての業務遂行能力の向上(就労機会の拡大)につながるものといえ、被告が、原告にブラウスの着用を勧めたというだけで強要まではしていないことから、配慮義務違反には当たらないとしています。

 

 

 

従業員による知的障害者に対する暴言等と使用者責任の有無について判断した一事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)