判例時報2585号で紹介された裁判例です(東京地裁令和5年5月18日判決)。

 

 

本件は、被告会社のウェブページ上に原告が著作権を有する写真が掲載されたことから、著作権侵害を理由てして損害賠償請求したというものです。

 

 

本件の特殊性としては、掲載された写真は、もともと被告会社が、他社から、そのプロジェクトのための販売促進のための小冊子の作成を受託し、これを作成するにあたり、この際、原告が、被告会社に対し、総額460万円の許諾料で、小冊子に本件各写真を掲載することを許可していたものでた(契約書の作成はしていなかった)。

本件写真は、被告会社の実績紹介のページで掲載されていたものでした。

 

 

本件の争点の一つは、被告会社の過去の広告作品の実績紹介を行うためであるから、当該掲載は、著作権法32条1項に定める引用に該当するとの被告会社の主張の成否でした。

 

 

著作権法

(引用)
第32条1項
 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

 

この点につき本判決は、つぎのとおり説示して、引用に当たることを否定し、約414万円の損害賠償を命じています。

⑴ 著作権法32条1項は、公表された著作物は、公正な慣行に合致し、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で引用して利用することができる旨規定するところ、公正な慣行に合致し、かつ、引用の目的上正当な範囲内であるかどうかは、社会通念に照らし、他人の著作物を利用する目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の程度などを総合考慮して判断されるべきである。
⑵ これを本件についてみると、本件各写真は、被告会社に対し、合計460万円で利用許諾されたものであり、商業的価値が高いものであるところ、本件各写真は、本件契約の許諾期間経過後に(被告会社が本件各写真を使用し得るのは、本件プロジェクトの期間に限られる)、本件ウェブページに掲載されたこと、本件ウェブページの右側には、画面の横幅半分以上を占める長方形の枠があり、その上部には横一列で本件各写真を含む写真が小さく表示されているところ、当該各写真のいずれか一つにカーソルを合わせると、その写真が上記長方形の枠内に拡大表示されること、当該長方形の枠の左側には、本件プロジェクトに係る新作たばこ「さくら」のデザインに込めたイメージのほか、煙草が喫われる情景を昭和初期の文士の世界に託して描いたという冊子のコンセプトが一文付されるなどの解説文が掲載されているところ、画面右側の拡大された写真の方が、画面左側の解説文よりも大きく表示されること、当該解説文は、いずれの写真が拡大表示されても同じ内容のものが掲載されており、画面右側の拡大された写真の下には、「P:A」として原告の名前が表示されていること、他方、被告会社は、本件各写真のデジタルデータに「透かし」を入れ又は写真家の名前を浮き彫りにするなどの無断複製防止措置をせずに、本件ウェブページに上記デジタルデータを掲載したところ、本件各写真のデジタルデータは、グーグルの検索サイトの画像欄その他のインターネット上に、原告の名前が付されずに相当広く複製等されるに至ったこと、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、本件各写真にカーソルを合わせた場合には、本件各写真は、左側の解説文よりも、画面右側に大きく拡大表示されており、解説文において本件各写真と関連性のある内容は、煙草が喫われる情景を昭和初期の文士の世界に託して描いたという冊子のコンセプトが一文付されるにすぎず、少なくとも商業的価値の高い本件各写真との関係上は、上記一文は本件各写真の添え物にとどまるものといえる。そして、上記認定事実によれば、本件各写真のデジタルデータには、無断複製防止措置がされず、同デジタルデータは、インターネット上に原告の名前が付されずに相当広く複製等されるに至ったことが認められる。
 これらの事情の下においては、本件ウェブページには、商業的価値が高い本件各写真がそれ自体独立して鑑賞の対象となる態様で大きく掲載されており、本件各写真のデジタルデータは、無断複製防止措置がされずインターネット上に相当広く複製等されていることからすると、本件各写真の著作権者である原告に及ぼす影響も重大であることが認められる。
 したがって、本件ウェブページにおける本件各写真の利用は、上記認定に係る本件各写真の性質、掲載態様、著作権者である原告に及ぼす影響の程度などを総合考慮すれば、公正な慣行に合致せず、かつ、引用の目的上正当な範囲内であるものと認めることはできない。

 

 

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