判例時報2575号で紹介された裁判例です(知財高裁令和4年10月19日判決)。

 

 

本件は、ツイッター(X)で、プロのイラストレーターである原告の著作イラストを添付した上で、「トレス疑惑について① 横顔イラストと普段書かれているイラストとの画力の差があったため,既存の絵を検索し当て嵌めたところトレス疑惑が浮上。ラレとして検証に使用した絵は○さんの絵です。「横顔 イラスト」で画像検索すると上の方に出てきました。」といつた複数の文章を本文に投稿したといういう事案につき、原告が名誉毀損や著作権侵害を主張してツイッターに対して発信者情報の開示を求めたところ、第一審は請求を一部認めたのに対し、控訴審は開示を否定しました。

 

 

名誉毀損に関して、控訴審判決も、本件でなされた複数の投稿の記載が、原告が単にトレースに常習的に及んでいたことを断定的に記載するものであって、原告の名誉を毀損する投稿であることは肯定しています。

しかし、第一審判決と異なり、次のような理由から、違法性阻却事由がないということまで原告が立証したとまではいえないと判断されました。

・本件ツイート1-1は、被控訴人(原告)が、他人の著作物をトレースして作成したイラストを自己の作品として公表していることを指摘するものであって、著作権法上の問題がある可能性をうかがわせる内容であり、この指摘は、被控訴人がプロのイラストレーターであることに照らすと、被控訴人作成のイラストを購入しようとする需要者にとって重要な情報であるから、本件ツイート1-1を投稿する行為は、公共の利害に関する事実に係るもので、その目的が専ら公益を図ることにあるということができる。

・摘示した事実の真実性について検討するに、本件ツイート1-1が摘示する事実の重要な部分は、「本件原告イラスト1が、乙1の2イラストを、トレースして作成されたものである」というものであるが、本件被控訴人イラスト1のベースになったと被控訴人が主張する甲29・1 頁のイラストと乙1の2イラストを比較すると(乙54)、その構図が類似しており、横顔の輪郭部分は額から頚部に至るまでほぼ一致し、首の角度や耳の位置もほぼ一致していることが認められる。そうすると、その関係は、本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストとにおいても同様と認められるところ、これらの全てが偶然一致したものとは考え難い。乙1の2イラストは、平成29年9月1日に公開されたものであるから(乙14の1・2)、被控訴人が、女性の横顔のイラスト作成のきっかけとなった依頼を受けた平成30年2月頃(甲26)の時点で公開されており、被控訴人は、本件被控訴人イラスト1を作成するに当たり、乙1の2イラストを参照することが可能であった。以上を総合すると、「本件被控訴人イラスト1が、乙1の2イラストを、トレースして作成されたものである」という事実は真実である蓋然性が高い。

 

 

原告(被控訴人)作成のイラストを投稿したことについての著作権侵害に関して、ツイッター側(控訴人)は、著作権法32条1項の「引用」に当たり適法であると主張しました。

この点についても、控訴審判決は、第一審判決と異なり、次の通り説示して正当な引用にあたるものとしました。

・本件ツイート1-1をみると、前記(2)のとおり、乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像2枚とともに、「これどうだろうww」「ゆるーくトレス? 普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」との文言が投稿されており、これは、被控訴人作成の本件被控訴人イラスト1が、乙1の2イラストをトレースして作成されたものである旨を主張するものであって、本件被控訴人イラスト1を検証し、批評しようとするものであると認められるから、本件投稿者1が本件被控訴人イラスト1を用いた目的は、批評にあるといえる。
・次に、本件ツイート1-1における被控訴人のイラストの利用方法をみると、乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせて表示しているもの(本件投稿画像1-1-2、1-1-3)と、本件被控訴人イラスト1を含む複数の被控訴人作成イラストを並べて表示しているもの(本件投稿画像1-1-4)があり、これらの画像が、乙1の2イラストの画像(本件投稿画像1-1-1)とともに前記(ア)の文言に添付されている。タイムライン上においては、原判決別紙タイムライン表示目録記載1のとおり表示されるなどしており、上記4枚の画像データは、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様に応じて、その一部のみが表示されているが、各画像をクリックすると、本件投稿画像1-1-1~1-1-4のとおりの画像が表示される。
 本件投稿画像1-1-4は、被控訴人が作成した女性の横顔のイラストを2枚含むものであるが、この2枚のイラストのうち1枚は本件被控訴人イラスト1であり、もう一枚は本件被控訴人イラストと複製又は翻案の関係にあるものと認められるから、本件投稿画像1-1-4をそのまま、本件投稿画像1-1-1(乙1の2イラスト)とともに利用することは、イラストの類似性を検証するために必要であり、かつ、文章のみで表現するよりも客観性を担保できる態様で利用されているということができる。
 本件投稿画像1-1-2及び1-1-3は、乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像であるが、2枚のイラストないし画像の類似性を検討するに当たり、2枚のイラストを、それぞれのイラストが判別可能な態様で重ね合わせ表示するのは検証のために便宜でかつ客観性を担保できる態様で利用されているということができ、加えて、当該画像には下部分に各イラストの色の濃さを操作したことを示唆するアプリケーションの画面部分が記載されており、閲覧者をして、これらの画像が、2枚のイラストを重ね合わせたものであることや、色の濃さが操作されていることが分かるような態様で示されている。本件では、本件投稿画像1-1-2では乙1の2イラストの方を濃く表示し、本件投稿画像1-1-3では本件被控訴人イラスト2の方を濃く表示しているが、このような表示方法は、2枚のイラストを重ね合わせた画像において、それぞれのイラストを判別して比較するために資するといえる。
 そうすると、本件ツイート1-1の一般の読者にとって、本件ツイート1-1における被控訴人のイラストの利用態様は、記事の内容を吟味するために便宜でかつ客観性を担保することができるものであるということができる。

 

 

宗教上の教義を出版物に掲載した行為と著作権法32条1項にいう引用 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

 

また、原告(被控訴人)の作成したイラストの一部のみが表示されてしまっていたことについて著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)が成立するかについて、控訴審判決は、次の通り述べて、著作権法20条2項4号に該当するとして否定しています。
・①本件ツイート1-1に添付された画像のうち、本件投稿画像1-1-2及び1-1-3は、本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストを重ね合わせたものであり、また、②ツイッターのタイムライン上に表示された本件ツイート1-1における本件投稿画像1-1-2~1-1-4は、被控訴人作成のイラストの一部のみが表示されているから、それぞれ、被控訴人のイラストの改変又は切除に当たると解する余地がある。
・しかしながら、①については、著作物がイラストであって重ね合わせて用いることで、引用の目的である批評のために便宜でありかつ客観性が担保できることに加え、その利用の目的及び態様に照らすと、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たるといえる。

 

著作権法

(同一性保持権)
第20条 
著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
一 第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十三条の三第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
二 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
三 特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変
四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変