平成29年6月22日、72名の議員(参議院の総議員の4分の1以上)が、当時の安倍部内閣に対し、国会の臨時会の召集を決定することを要求したものの、招集が決定されたのが9月22日、実際に臨時会が開催されたのが9月28日となったことから、臨時会の召集を決定することの要求をした国会議員が、今後召集の要求があった場合には20日以内に召集の決定がされることを確認することを求めるとともに、予備的に、内閣による召集決定の遅滞を理由として国家賠償請求を求めたという事案です(なお、国会召集日の当日である9月28日、その冒頭で衆議院が解散され、参議院は同時に閉会となっています)。

 

 

憲法第53条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

 

最高裁第三小法廷令5年9月12日判決要旨(判例タイムズ1517号など)

(確認請求関係)

・本件各確認の訴えは、上告人が、個々の国会議員が臨時会召集要求に係る権利を有するという憲法53条後段の解釈を前提に、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして、上告人を含む参議院議員が同条後段の規定により上記権利を行使した場合に被上告人が上告人に対して負う法的義務又は上告人が被上告人との間で有する法律上の地位の確認を求める訴えであると解されるから、当事者間の具体的な権利義務又は法律関係の存否に関する紛争であって、法令の適用によって終局的に解決することができるものであるということができる。そうすると、本件各確認の訴えは、法律上の争訟に当たるというべきであり、これと異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。
・もっとも、本件各確認の訴えは、将来、上告人を含む参議院議員が憲法53条後段の規定により臨時会召集要求をした場合における臨時会召集決定の遅滞によって上告人自身に生ずる不利益を防止することを目的とする訴えであると解されるところ、将来、上告人を含む参議院の総議員の4分の1以上により臨時会召集要求がされるか否かや、それがされた場合に臨時会召集決定がいつされるかは現時点では明らかでないといわざるを得ない。
・そうすると、上告人に上記不利益が生ずる現実の危険があるとはいえず、本件各確認の訴えは、確認の利益を欠き、不適法であるというべきであるから、これを却下すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、原判決の結論に影響を及ぼさない事項についての違憲、違法をいうものにすぎず、採用することができない。

 

 

(国家賠償請求関係)

・憲法は、国会について会期制を採用し、内閣がその召集を実質的に決定する権限を有するものとした上で、52条、53条及び54条1項において、常会、臨時会及び特別会の召集時期等について規定している。そのうち憲法53条は、前段において、内閣は、臨時会召集決定をすることができると規定し、後段において、いずれかの議院の総議員の4分の1以上による臨時会召集要求があれば、内閣は、臨時会召集決定をしなければならない旨を規定している。これは、国会と内閣との間における権限の分配という観点から、内閣が臨時会召集決定をすることとしつつ、これがされない場合においても、国会の会期を開始して国会による国政の根幹に関わる広範な権能の行使を可能とするため、各議院を組織する一定数以上の議員に対して臨時会召集要求をする権限を付与するとともに、この臨時会召集要求がされた場合には、内閣が臨時会召集決定をする義務を負うこととしたものと解されるのであって、個々の国会議員の臨時会召集要求に係る権利又は利益を保障したものとは解されない。
・所論は、国会議員は、臨時会が召集されると、臨時会において議案の発議等の議員活動をすることができるというが、内閣は、憲法53条後段の規定による臨時会召集要求があった場合には、臨時会召集要求をした国会議員が予定している議員活動の内容にかかわらず、臨時会召集決定をする義務を負い、臨時会召集要求をした国会議員であるか否かによって召集後の臨時会において行使できる国会議員の権能に差異はない。そうすると、同条後段の規定上、臨時会の召集について各議院の少数派の議員の意思が反映され得ることを踏まえても、同条後段が、個々の国会議員に対し、召集後の臨時会において議員活動をすることができるようにするために臨時会召集要求に係る権利又は利益を保障したものとは解されず、同条後段の規定による臨時会召集決定の遅滞によって直ちに召集後の臨時会における個々の国会議員の議員活動に係る権利又は利益が侵害されるということもできない。

 

 

召集後の臨時会において議員活動をすることができるようにするために臨時会召集要求に係る権利又は利益の存否という点について、宇賀判事の反対意見はつぎのとおり述べています。

・当審は、既に最高裁平成30年(行ヒ)第417号令和2年11月25日大法廷判決・民集74巻8号2229頁において、個々の議員が、議事に参与して表決に加わることを議会の機関としての活動の問題としてではなく、個々の議員の権利行使の問題として捉え、出席停止処分取消訴訟が法律上の争訟に当たることを前提として、司法審査の対象となるとしたのである。そこで述べられたことは、国会議員にも同様にあてはまる。すなわち、個々の国会議員は、国会の審議に参画して表決に加わる権利を有するのであり、もし、国会議員が違法に一定期間の登院停止の懲罰を受けた場合、当該国会議員は、この権利の侵害として争うことができると考えられる。違法な臨時会の召集の遅延による場合であれ、違法な登院停止の懲罰による場合であれ、国会の審議に参画して表決に加わる権利の侵害である点で共通する。
・もっとも、一定期間の登院停止の場合には、当該懲罰を受けた特定の議員の権利を侵害することは明らかであるのに対して、臨時会の召集が遅延した場合には、臨時会召集要求に加わった議員のみならず、遅延期間において、全ての議員が審議に参画して表決に加わることができないことになるので、臨時会召集要求に加わった議員の法的に保護された利益が侵害されるならば、これに加わらなかった議員の法的に保護された利益も侵害されることになってしまうのではないか、そのような利益は法的に保護された利益といえるのかという疑問が生じ得る。しかし、臨時会召集要求に加わらなかった議員は、早期に臨時会で審議に加わることを欲していなかったと考えられるので、臨時会の召集が遅延したとしても、法的に保護された利益は侵害されたとはいえないのに対して、臨時会召集要求に加わった議員は、臨時会で審議に加わることを望んでいたにもかかわらず、それを妨げられたのであるから、その場合には、法的に保護された利益が侵害されたとして、両者を区別することには合理性があると考えられる。

 

 

また、確認請求関係についてもつぎのとおり反対意見を述べて確認請求を認容すべきであるとしています。

・国会議員にとって、国会において国民の代表として質問、議案の発議、表決等を行うことは、最も重要な活動といえ、憲法上は召集されるはずであった臨時会で上記のような議員活動をすることができないことは極めて重大な不利益であり、事後的な損害賠償によって回復できるものではないので、憲法53条後段の規定による臨時会召集要求があったにもかかわらず臨時会召集決定がされないという事態を事前に防止するための法的手段が用意されていてしかるべきである。

・臨時会召集要求は、各議院の総議員の4分の1以上によらなければ、これを行うことはできない。しかし、記録によれば、令和2年から令和4年までの過去3年間は毎年、常会等の直前の国会の閉会後間もなく臨時会召集要求が行われており、また、令和4年度の臨時会召集要求に加わった5会派の現時点での参議院の所属議員数は合計71名であって、参議院の総議員248名の4分の1に当たる62名を超え、次の参議院議員選挙が行われる令和7年までは、現在の会派別所属議員数は変更しない可能性が極めて高い(なお、令和4年の臨時会召集要求に関する事実、現時点での参議院の会派別所属議員数及び次の参議院議員選挙の時期は公知の事実である。)。もとより、臨時会召集要求は、国会議員が必要であると認める場合に行われるものであるが、上記のとおり、過去3年間、連続して臨時会召集要求が行われていること等に鑑みると、令和5年ないし令和6年においても臨時会召集要求がされる蓋然性は相当に高いように思われる。
 また、記録によれば、憲法53条後段の規定による臨時会召集要求のうち20日以内に召集されたのは40回中5回しかなく、かつ、過去3年間をみても、臨時会召集決定は臨時会召集要求から20日を大きく超えてから行われている。このような事態が生じているのは、臨時会召集要求がされた場合、内閣として臨時会で審議すべき事項等も勘案して、召集時期を決定する裁量があるという認識があるからと思われ、そうである以上、令和5年ないし令和6年に臨時会召集要求がされても、20日以内に臨時会が召集されない蓋然性は相当に高いと思われる。したがって、即時確定の利益も認められると考えられる。

・いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、合理的期間内にその召集を決定する法的義務を負うところ、その例外は、常会又は特別会の開会が間近に迫っているので、臨時会を召集しなくても、常会又は特別会によって国会における議論の場が適時に確保され、憲法53条後段の趣旨が没却されない場合、又は天災地変や戦争により、臨時会の召集が物理的に不可能になった場合等の特段の事情がある場合に限られると思われる。

・憲法53条後段の規定による臨時会召集要求があった場合に、召集に必要とされる合理的期間はどのように考えたらよいであろうか。
 まず、憲法53条後段の眼目が少数派議員による国会での質問、議案の発議、表決等を可能にするという、いわゆる「少数派権」の尊重にあること、議員も一定の要件の下で議案を提出することができること(国会法56条1項)、委員会も、その所管に属する事項に関し法律案を提出することができること(同法50条の2第1項)に加え、行政監視も国会の重要な役割であり、臨時会召集要求の重要な動機になることが多いと考えられることに照らしても、内閣が法律案提出の準備を理由として憲法53条後段の規定による臨時会召集決定を遅延させることは許されないといえよう。
 そして、上記合理的期間について、憲法は定めていないが、20日あれば、十分と思われる。このことは、自由民主党の憲法改正草案において、憲法53条について、要求があった日から20日以内に臨時会を召集しなければならないと規定されていることからもうかがえる。また、同条後段と同趣旨の規定は、地方自治法101条3項に置かれているが、同条4項は、臨時会の招集の請求があった場合、普通地方公共団体の長は、請求のあった日から20日以内に臨時会を招集しなければならないと定めていることに照らしても(この期間が短すぎるという意見はなく、全国の地方公共団体で遵守されてきたことがうかがわれる。)、上記合理的期間を20日以内とすることは合理的と考えられる。さらに、憲法54条1項及び国会法2条の3第2項は、衆議院解散後の総選挙又は参議院議員の通常選挙により、衆議院又は参議院を構成する議員の入れ替わりがあり、新たな名札の作成等の準備に時間を要する場合であっても、総選挙の日又はその任期が始まる日から30日以内の国会召集を義務付けていることに鑑みても、かかる準備が不要な憲法53条後段の規定による臨時会召集要求の場合、20日以内に臨時会を召集する義務があると解することに無理はないと思われる(なお、臨時会の召集要求に当たり、たとえば、「10日以内に召集することを要求する」というように、上記合理的期間よりも短期の召集時期の指定があっても、内閣はそれに拘束されるわけではなく、上記合理的期間内に召集すれば足りると考えられる。)。
 したがって、上告人が次に憲法53条後段の規定による臨時会召集要求をした場合、特段の事情がない限り、内閣において、20日以内に臨時会が召集されるよう臨時会召集決定をする義務を負うと解されるから、原判決のうち本件各確認の訴えに係る部分を破棄し、本件各確認の訴えのうち主位的訴えに係る請求を上記の限度で認容すべきである。

 

 

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