判例タイムズ1516号で紹介された裁判例です(大阪地裁令和5年2月27日判決)。

 

 

本件は交通死亡事故の損害賠償事案ですが,被害者が聴覚障害者であったことから(事故当時11歳の女性で、先天性の両側感音性難聴があり、本件事故当時、支援学校に通学していた),その逸失利益をどのように算定すべきかが争点の一つとなりました(被害者の両親である原告側は,障害者を取り巻く環境も改善していることなどから,その基礎収入については、賃金センサス全労働者平均賃金とすべきと主張し,被告側は労働能力喪失率92%と評価すべきと主張)。

 

 

 

判決は,被害者の育成歴,聴覚障害者の収入等,聴覚障害児に対する言語指導法の推移や進学率等,聴覚障害者の就労状況,聴覚障害者の就労環境等の変化などを具体的に指摘し,我が国は、平成19年9月28日、障害者権利条約に署名し,その後の障害者に関する立法の状況などを踏まえたうえで,原告側が主張した賃金センサス全労働者平均賃金の85%に相当する金額を基礎収入とするのが相当であると判断しました。
・原告らは、年少者の逸失利益について、賃金センサスの全労働者平均賃金を基礎収入として算定する実務が定着しており,被害者は、感音性難聴があったとしても、死亡時11歳の年少者で将来について様々な可能性を有していたこと等から、賃金センサスの全労働者平均賃金を基礎収入とすべきと主張する。
・不法行為により死亡した年少者の逸失利益については、将来の予測が困難であったとしても、あらゆる証拠資料に基づき、経験則と良識を活用して、できる限り蓋然性のある額を算出するように努めるべきである(最高裁判所昭和39年6月24日第3小法廷判決・民集18巻5号874頁参照)。
・被害者は、小学校入学時から本件事故当時まで、小学校の学年相応の教科書を用いて学習を進めており、評定も平均的であったことに照らせば、学習にとくに支障はなかったと認められる。また、原告X1及び原告X2が、被害者に対し、幼少期から様々な学習の機会を継続して設けていたこと、被害者自身も本件支援学校での学習に励んでいただけでなく、他の生徒と共に学習塾での学習にも取り組んでいたこと、加えて、被害者が、学業のみならず、学校行事や他者とのコミュニケーションにも積極的に取り組んでいたことに加え、被害者が本件支援学校を卒業した後、聴覚高等支援学校に進学していた蓋然性が高いといえることをも考慮すると、被害被害者には、勉学や他者との関わりに対する意欲と両親による支援が十分にあり、年齢相応の学力や思考力を身に付けていく蓋然性があったといえ、被害者には、将来様々な就労可能性があったということができる。
・他方、被害者には感音性難聴があったところ、聴力障害は、労災保険法施行規則や自賠法施行令別表第2においてその程度に応じて後遺障害の等級が定められ、労働能力喪失率が定められている。これは聴力障害によって就労の上で他者とのコミュニケーションが制限され、その結果、労働能力が制限されることを前提としたものと認められ、聴力障害によって労働能力喪失率表どおりに労働能力が制限されるとみるべきかは別としても、聴力障害が労働能力を制限し得る事実であること自体は否定することができない。
 これに対し、原告らは、被害者の補聴器を装着した状態の聴力は22.5dbであり、口話でコミュニケーションをとることが可能であった旨主張し、その聴力障害は労働能力に影響しないものであったという趣旨の主張と解される。
 しかし、被害者の聴力の具体的な程度等について、平成24年10月以降、3級の身体障害者手帳を受けていたこと、医療センターにおける平成29年11月の聴力検査では、右が100db、左が93.75db(補聴器装用時閾値が42.5db)であり、これは自賠法施行令別表第2では4級に該当する程度のものであったこと、他方で、被害者にとって慣れた環境である本件支援学校における検査では、平成29年度の聴力レベルは補聴器装用時閾値で右が25db、左が45dbであり、被害者が慣れた環境における慣れた相手との間においては口話でコミュニケーションをとることができたことも考慮すると、被害者の聴力障害は、慣れた環境においては、これがコミュニケーションに与える影響としては、医療センターにおける検査結果を前提とする自賠法施行令別表第2における4級に相当するものよりある程度軽いものであったと認められるものの、労働能力に影響がない程度のものであったということはできない。

 

 

後遺障害とは何ですか? | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)