判例タイムズ1514号で紹介された事例です(名古屋高裁令和4年11月15日判決)。

 

 

下記の事例についての控訴審判決であり,第一審判決と同じく保佐等の開始を欠格事由と定めていた警備業法の規定について憲法違反であると判断した上で慰謝料額を第一審判決から増額して50万円としたものです。

 

 

「欠格条項」で仕事失った男性 国に賠償求め提訴へ | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

 

具体的には,職業選択の自由を定めた憲法22条1項,法の下の平等を定めた憲法14条1項に反するものであり,成年後見制度研究会が平成22年7月に研究成果を発表するまでの間の警備業法の改正とその経緯、平成5年3月の障害者施策推進本部による新長期計画の策定、平成11年整備法の制定とその際の附帯決議、平成19年9月に障害者権利条約に署名していることなどからすると、遅くとも平成22年7月頃には、本件規定が被保佐人の職業選択の自由を合理的な理由なく制約していることが国会にとっても明白であったというべきであったとして,その立法不作為を違法であると判断しています。

 

 

・憲法22条1項関係説示(用紙)

本件規定は、欠格事由を定めるものであり、欠格事由とされたところに該当する者を排除し、その業務を行うことができなくするもので、業者に対しても、これに違反して該当者を業務に従事させた場合に、指示処分や営業停止命令の対象とすることで、これを強く強制するものである。いったん保佐開始の審判がされると、これが取り消されない限り、いかなる努力を行っても欠格事由に該当して警備業務から排除される状態から脱することはできないのであって、このように職業選択の自由を制限して強力な排除の効果を生じさせる欠格事由を定めるについては、厳格な検討が行われる必要があり、あまねく当該事由に該当する者であれば、当該業務に従事することが相当でないといえるか否かを具体的な根拠をもって専門的見地から検討すべきものである。しかし、本件規定について、あまねく被保佐人であれば、警備業務に従事することが相当でないといえるだけの根拠は見当たらない。被保佐人は、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者(民法11条)であるが、保佐の制度は、民法の第1編第2章第3節の行為能力の規定として定められており、被保佐人に重大な影響を及ぼす同法13条1項が定める重要な行為等について、保佐人の同意等を得なければならないものとし、これを得ないでした行為を取り消すことができるものとして(同条4項)、被保佐人を保護するためのものである。そして、被保佐人は、同条1項が定める重要な行為等を除けば、保佐人の同意を得ずに、自ら単独で行うことができるのであって、例えば、不動産その他重要な財産に関するもの(同項3号)でなければ、権利の得喪を目的とする行為を行うことができるのである(以上の点は、平成11年法律第149号による改正前民法の準禁治産者においても同様である。)。また、成年被後見人と同様に、日用品の購入その他日常生活に関する行為を完全に有効な行為として行うことができることはいうまでもない(同項ただし書)。すなわち、保佐の制度は、本人の財産上の利益を他者から保護する目的で定められているものであって、適切に警備業務を遂行することができない者がこれを行って他者の生命、身体、財産等に危害が生じないようにするという警備業法が欠格事由を定める目的とは全く異なる目的で定められているものである。そうすると、この両者はそもそも制度の目的が異なるものであるし、被保佐人は、不動産その他重要な財産に関するもの(同項3号)でなければ、権利の得喪を目的とする行為を行うことができる者なのであるから、被保佐人が、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者であるからといって、あまねく適切に警備業務を遂行することができない者であり、その具体的な状態によっても、警備業務を行うと他者の生命、身体、財産等に危害が生じる恐れがあるなどといえるものでないことは、明らかというべきである。しかも、警備業務には、多種の業務があるが、これらに要する能力が一律のものであるとも認め難い。

 

 

・憲法14条1項関係説示(要旨)

憲法14条1項は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解され、障害があるか否かや成年後見等の障害者を保護するための制度を利用するか否かといった、自らの意思や努力によっては変えることのできない事情による取扱いの区別が許されるか否かは、厳格な検討に基づいて判断されるべきところ、本件規定が事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものといえないことは、以上に述べたとおりであるし、本件規定は、同程度の判断能力であっても、保佐の制度の利用者のみを欠格事由ありとするものであるから、憲法14条1項に違反するものであることは明らかであって、控訴人の上記主張は理由がない(なお、障害者を保護するための制度の利用については、これを利用するか否かが障害者自身の判断による場合もあるが、その前提となる障害は自らの意思や努力によっては変えることのできないものであるし、障害者がこれを保護する制度を利用したことによって、利用しなかった場合より不利益な取扱いを受けるのでは、制度の趣旨に反することになってしまうから、制度の利用が障害者の判断による場合であっても、自らの意思や努力によって変えることのできない事情に該当しないということはできない。)。この点に関しては、障害者権利条約においても、3条で「無差別」(b)を同条約の原則とした上、5条で、締約国は、「全ての者が、法律の前に又は法律に基づいて平等であり、並びにいかなる差別もなしに法律による平等の保護及び利益を受ける権利を有することを認め」(1項)、「障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとし、いかなる理由による差別に対しても平等かつ効果的な法的保護を障害者に保証する」(2項)などとされているところである。