判例タイムズ1506号で紹介された裁判例です(大阪地裁令和4年3月24日判決)。
高齢者や児童虐待の事案において,行政が行った一時保護の措置の適法性が問われるケースという事案があり,本件もそのうちのひとつです。
児童養護施設に入所している児童と母親との面会の制限を行政指導により継続した措置の違法性 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)
自治体が行った高齢者虐待防止法に基づく一時保護措置等が違法ではないとされた事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)
本件は,児童について,病院から原告(児童の母親)の説明と児童が負った両側頭頂骨骨折,両側硬膜外血腫・皮下血腫・左前頭部くも膜下出血の怪我とが整合しないところがあるして児童相談所に通告がなされ,一時保護が開始され,児相は,法律上の期限である2か月を超えて引き続き保護するよう家裁に申立てを行い,その旨の審判を得た上で引き続き保護を継続したという事案で,原告が一時保護の開始及び継続が違法であったとして訴えたというものです。
裁判所は,保護の開始については違法な点はなかったとしましたが,その措置を継続したことについて,次のような説示をして違法性があるとしました。
・児童福祉法33条4項が定める,引き続いての一時保護の要件である「必要があると認めるとき」とは,児童の福祉の保障の観点から検討されることを必要とするが,他方で,一時保護は,一時保護がされる児童の自由等を制限するとともに保護者の権限をも制限する行為でもあるから,不必要に継続されるべきではなく,「必要があると認めるとき」の解釈を無限定に広く解釈すべきではないといえる。そうすると,児童相談所長は,同条に基づく一時保護を開始した後において,一時保護の必要性が失われたと判断すべき基礎となる事実を認識した場合,又は,必要な調査を尽くしていれば,当該事実を認識し得た場合には,速やかに一時保護を解除しなければならないと解するのが相当である。すなわち,児童相談所長が,一時保護の必要性が失われたと判断すべき基礎となる事実を認識した時点,又は認識し得た状態に至った時点から,社会通念上相当な期間が経過した後においては,もはや一時保護を継続することは許されず,上記裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものとして,上記の社会通念上相当な期間が経過した後における一時保護の継続は,国家賠償法1条1項の適用上違法であるというべきである。
・引き続きの保護を承認した家裁の審判においては,家裁の本件児童の受傷が事故によるものである可能性も含めて,本件鑑定書の内容の信用性を複数の医学的知見や本件児童の受傷前後の事実関係を踏まえて改めて検討するとともに,本件児童と原告との面会交流については早期に再開することが相当であると指摘がされていたところ,児相は,本件審判において中立公平な司法機関から具体的かつ合理的な根拠をもって本件鑑定書の内容の信用性について再検討する必要がある旨指摘されたにもかかわらず,その指摘を真摯に検討せず当初の方針を修正することもしないまま本件鑑定書に安易に依拠していたものといわざるを得ない。
・本件事故当時,原告が本件児童を片手で縦抱きにしていたことは,生後約1か月半であった本件児童に対する取扱いとして適切であったとはいい難いものの(このことは,原告も,本件事故直後から一貫して自らに不注意があったことを自認しているところである。),このような取扱いが直ちに「虐待」(児童福祉法28条1項,児童虐待防止法2条)に当たるものではないというべきであるし,その一事をもって,原告に本件児童を「監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合」(児童福祉法28条1項)に該当するということはできない。また,本件一時保護中の調査によっても原告に虐待傾向があるなどの問題は一切みられず,原告の本件児童に対する関わり方にも問題はみられず,原告は本件センターの調査にも協力してきたというのであるから,原告に対して適切な指導を行うことによって,同様の事故を防止することは十分可能であった。すなわち,一時保護や乳児院への入所による親子分離を継続した状態で原告に対して指導や再発防止策を講ずる必要性があったということはできない。そうすると,本件事故当時,原告が本件児童を片手で縦抱きにしていたことをもって,原告に本件児童を「監護させることが著しく当該児童の福祉を害する」ということはできなかったというべきであるから,「虐待」がなかったとしても本件児童を乳児院に入所させる必要があったとして,本件鑑定書の内容の信用性を再検討しなかったことを正当化することはできない。
・本件センターが,本件審判後,速やかに他の医師に鑑定や意見を求めていたならば,本件センターがG医師に鑑定を依頼して電話で速報として意見を聴取するまでの期間は3日程度であったこと(本件センター所長は,遅くとも,本件審判日の2週間後である同年4月2日には,他の医師の意見等を聴取した上で,原告の供述する事故態様と本件児童の受傷状況とが必ずしも矛盾しないことが明らかになり,本件一時保護の必要性がないと認識することができたというべきである。そして,仮に,本件センターが,同日から速やかに本件一時保護の解除に向けた手続を行っていたならば,本件センター所長は,遅くとも,同日から約2週間後(本件審判日の1か月後)である同月19日には,本件一時保護を解除することができたというべきである。