判例タイムズ1504号などで紹介された最高裁判決です(最高裁令和4年7月14日判決)。

 

 

交通事故が第三者行為災害とされて被害者が労災給付を受けた場合,その労災給付分については国が加害者に対する損害賠償請求権を取得し,国は自賠責保険からその限度額において給付した分について回収することになります。

被害者が労災給付から被害全額を填補できるだけの給付を受けていれば,後は労災給付した国が自賠責などから回収を図ればよいので被害者特にの間の利害対立が特に問題になることはありません。

 

 

しかし,被害者の損害が労災給付だけでは填補しきれない場合には,被害者は自賠責保険に対して直接請求することもできるので,この場合,既に給付された分についての損害賠償請求権が移転した国との間で自賠責保険の取り合いになり得ますが(両社の請求額が自賠責の件ど額の範囲内に収まっていれば特に競合にはならない),この点については平成30年に最高裁判決が出て決着しており,被害者からの請求が優先ということになっています。

 

 

自賠責保険の被害者請求と労災保険給付により国に移転した請求権の競合 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

 

本件は,平成30年に最高裁判決が出されるまでの実務の運用であった被害者と国の請求額を按分して双方に支払うとしていた運用下において,国に対して支払われた自賠責保険からの弁済が有効かどうかという点が争いになりました。

 

 

第一審,控訴審はそのような弁済は平成30年の最高裁判決に照らして無効としましたが,最高裁は次のとおり説示して国に対する弁済は有効と判断しています。

「直接請求権は、被害者の被保険者(加害者)に対する自賠法3条の規定による損害賠償請求権と同額のものとして成立し、被害者に対する労災保険給付が行われた場合には、労災保険法12条の4第1項により上記労災保険給付の価額の限度で国に移転するものであって、国は上記価額の限度で直接請求権を取得することになる。被害者は、未塡補損害について直接請求権を行使する場合は、他方で同項により国に移転した直接請求権が行使され、上記各直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超えるときであっても、国に優先して自賠責保険の保険会社から自賠責保険金額の限度で損害賠償額の支払を受けることができるものであるが(前掲最高裁平成30年9月27日第一小法廷判決参照)、このことは、被害者又は国が上記各直接請求権に基づき損害賠償額の支払を受けるにつき、被害者と国との間に相対的な優先劣後関係があることを意味するにとどまり、自賠責保険の保険会社が国の上記直接請求権の行使を受けて国に対してした損害賠償額の支払について、弁済としての効力を否定する根拠となるものではないというべきである(なお、国が、上記支払を受けた場合に、その額のうち被害者が国に優先して支払を受けるべきであった未塡補損害の額に相当する部分につき、被害者に対し、不当利得として返還すべき義務を負うことは別論である。)。」

 

 

労働者災害補償保険法

第12条の4第1項 政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によつて生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。