金融商事判例1622号などで紹介された最高裁判例です(最高裁令和3年4月14日決定)。

 

 

弁護士法25条1号は,相手方の協議を受けて賛助し又は依頼を承諾した事件については弁護士はその職務を行い得ないと規定しています。

分かりにくてい゛すが,AB間の紛争において,先にAの相談を受けた弁護士は,後になってBから依頼を受けてはいけないということです。当たり前ですが,Aからすれば,弁護士を信頼して不利なことも話したのに,後になって対立する紛争の相手方であるBにその弁護士が付いたとすると,Aの利益が失われるばかりか,弁護士制度に対する信頼も無くってしまうからです。

弁護士法25条1号に違反して訴訟行為が行われた場合,相手方が異議を述べると,その訴訟行為は無効となるものとされています(判例)。

 

弁護士法

(職務を行い得ない事件)

第25条 弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。

 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

 

上記の規定は当該弁護士を基準としたものですが,日弁連の職務基本規程では,これをさらに拡大して,同じ法律事務所の所属弁護士同士についても,職務を行ってはならないものと規定しています。

先ほどの例でいえば,Aから相談を受けていた甲弁護士がBの依頼を受けてはならないのはもちろんのこと,同じ法律事務所に所属する乙弁護士もこの職務基本規程に抵触し得るということになります。なお,規程中の27条1号というのが弁護士法25条1号と同じ規定です。

 

 

弁護士職務基本規程

第57条 所属弁護士は、他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む )が、第27条又は第28条の規定により職務を行 い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。

 

本件は企業間の特許侵害訴訟において,原告側企業の企業内弁護士が当該事案について法的助言をするなどした後,法律事務所に移籍し,当該法律事務所の別の弁護士がその事案の相手方企業の委任を受けて訴訟代理人となったという事案につき,原告企業側が,被告企業訴訟代理人の訴訟行為につき異議を申し立てその行為の排除を求めたというものです。

 

 

第一審,抗告審(知財高裁)とも,職務基本規程57条に違反する行為についてもその訴訟行為の排除を求めることはできるということを前提として(申立権あり),具体的に本件において規定違反があったかどうかということについて結論が分かれていました(第一審は移籍した弁護士がわずかな期間しか在籍していなかったことや,訴訟に関する情報漏えいを防ぐための措置が取られていたことなどから規定違反を否定,知財行為は逆に,当該弁護士は社内で様々な情報を知り得る立場にあった推認され,事務所内での情報遮断措置も十分とは認められないなどして規定違反を認定し訴訟行為の排除を肯定)。

 

 

最高裁は,規程違反については,弁護士法と異なり法律上の違反行為ではないことを重視して,そもそも,規程57条違反については訴訟行為の排除を求めることができないと判断しました(申立権の否定)。

 

 

もっとも,規程違反は規定違反ということになりかねないわけで,草間裁判官の補足意見では,当該弁護士の採用を見合わせることなく本件訴訟を受任したことが弁護士の行動として適切であったということを含意するものではないとしています。

 

 

コンフリクト(利害相反)が生じないように個々の弁護士の取扱い案件を逐一チェックするというのは大変そうです。私などは一人ですのでコンフリチェックも完璧ですが(笑),大きな事務所はそれなりに大変ですね。

 

 

仲裁人である弁護士に仲裁法上求められるコンフリクトチェックの合理的な範囲の調査の程度 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)