判例時報2453号で紹介された事例です(大阪高裁平成31年3月11日決定)。

 

 

本件は,日本商事仲裁協会による,米国法人と日本法人・シンガポール法人との間の仲裁案件で,3人の仲裁人が行った仲裁判断につき,米国法人側から物言いが付けられたというものです(具体的には,仲裁法44条1項6号「仲裁廷の構成又は仲裁手続が、日本の法令(その法令の公の秩序に関しない規定に関する事項について当事者間に合意があるときは、当該合意)に違反するものであったこと。」に該当するとして裁判所に仲裁判断の取消しを求めた)。

 

 

仲裁手続きのどの点が問題とされたとかいうと,仲裁法18条1項2号に「仲裁人の公正性又は独立性を疑うに足りる相当な理由があるとき。」は当事者は仲裁人を忌避できると規定されています。

 

仲裁法

第18条1項 当事者は、仲裁人に次に掲げる事由があるときは、当該仲裁人を忌避することができる。

一 (略)

 仲裁人の公正性又は独立性を疑うに足りる相当な理由があるとき。

 

そして,仲裁人は,仲裁手続の進行中,自己の公正性等に疑いを生じさせる恐れがある事実の全部を開示しなければならないとされています(既に開示したものを除く)。

 

 仲裁人は、仲裁手続の進行中、当事者に対し、自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実(既に開示したものを除く。)の全部を遅滞なく開示しなければならない。

 

本件では,問題とされた仲裁人(シンガポールオフィスに所属)が所属する法律事務所の別の弁護士A(サンフランシスコオフィスに所属)が,当事者である日本法人と親会社を同じくする米国法人の訴訟代理人を務めていたという事実があり,この点の開示がされていなかったことが問題とされました。

ただ,仲裁人が選任された時点では,A弁護士は別の法律事務所に所属していたのですが,仲裁手続き中に仲裁人と同じ法律事務所に移籍してきた(但し所属するオフィスはそれぞれ異なる)という経緯がありました。

 

 

本件も随分と長く争われていて,もともと平成27年の大阪地裁の決定では取消事由がないと判断されたところ,大阪高裁では取消事由に該当すると判断されましたが,最高裁(平成29年12月12日決定)では,

・仲裁人が選任された際に抽象的に将来利益相反が起こる可能性を表明しただけでは,自己の公正性等に疑いを生じさせる恐れのある事実を「既に開示した」とはいえない。

・仲裁人は,仲裁手続きが終了するまでの間,当事者の要求に関わらず,当事者に対し法18条4項の事実の有無に関する合理的な範囲の調査により通常判明し得るものを開示すべき義務を負う

・仲裁人が法18条4項の義務に違反したかどうかは,仲裁手続き終了までの間に,仲裁人が当該事実を認識していたか,仲裁人が合理的な範囲の調査を行うことによって当該事実が通常判明し得たことが必要である

と判断し,コンフリクトチェック(利益相反の有無を確認する手続き)を行うことが可能であったことを指摘した上で本件の仲裁判断を取り消した高裁の判断を取り消して審理を差し戻していました。

 

 

最高裁が示した基準に照らして再度判断し直した差戻審が本件ですが,A弁護士が移籍した際に問題となった米国での訴訟の代理人は辞任となっていたと認識していたためにそもそもコンフリクトチェックシステムのデータベースに入力されていなかったという事情があり,当該法律事務所ではA弁護士が問題となった県の訴訟代理人を務めていたという事実が認識されていなかったこと(なお,この事実自体は法18条4項の開示すべき事実に該当するとされています),一般的な水準のコンフリクトチェックシステム体制が構築されており,これに従って行動している限り合理的な範囲の調査を行ったものと評価でき,A弁護士の辞任漏れ,さらには移籍先事務所への申告漏れという例外的事情が重なったものであり,仲裁人に開示義務違反は認められないと結論付けています。

 

 

私のように一人でのんびりやってる弁護士にはコンフリもくそも関係ないのですけれども(^^)