判例時報2481号で紹介された事例です(大阪地裁令和2年9月17日決定)。
事案の概要としては、新型コロナウィルスの感染拡大の影響により失業したXが、社会福祉協議会による生活福祉金の貸付制度を利用し、60万円が口座に振り込まれたものの、数日後、債権者によって当該口座につき差押をされてしまったことから、民事執行法153条1項に基づき、差押を取り消すように求めたというものです。
民事執行法
(差押禁止債権の範囲の変更)
第153条1項 執行裁判所は、申立てにより、債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して、差押命令の全部若しくは一部を取り消し、又は前条の規定により差し押さえてはならない債権の部分について差押命令を発することができる。
裁判所は、預金に口座に振り込まれた原資が差押禁止債権に該当するものであったとしても、口座に振り込まれた時点で単なる預金債権となるので、原則として当該預金債権に対する差押が直ちに差押禁止になるとはいえないが、差押禁止債権の範囲の変更の判断にあたっては預金債権の原資が差押禁止債権であることは重要な考慮要素となるとし、その原資が差押禁止債権である場合には他に生計を維持する財産や手段があるなどの特段の事情がない限りは当該差押命令を取り消すのが相当であるとしています。
もっとも、本件の社協による生活福祉貸付金は、法律上差押を禁止されたものではないところ、そのような場合であったとしても、当該債権が譲渡性のない債権であったり他人が代わって講師することができないような債権である場合には、その性質上当該債権を差し押さえることは許されないとし、本件の社協による生活福祉貸付金は、新型コロナウィルス特例として貸し付けられたもので、その目的は低所得者世帯等に対して生活再建までの間の必要な生活費を貸し付けることにあり、その貸付金は借受人に対して現実に支払われることを要するものであって、性質上の差押禁止債権に該当するとし、Xには月額10万円程度の収入しかなく、その他みるべき資産もないことから、本件の差押にかかる預金債権のうち60万円については差押をすることは許されないとして、その範囲についての差押を取り消しました。
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このように民事執行法153条1項は、差押えをされたとしてもこれに対抗するための債務者にとっての重要な手段といえるものですが、法律
の素人である債務者が的確に手続きを取ることを期待することは難しいため,法改正により手続きの教示や不服申立期限の緩和が図られています。
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