家庭の法と裁判27号で紹介された事例です(東京簡裁令和元年10月23日)。

 

出生届は出生から14日以内に届出することが定められており(戸籍法49条1項),この期限を「正当な理由」なくして徒過した場合,5万円以下の過料に処せられるということになっています(法137条)。

 

戸籍法第49条1項 出生の届出は、十四日以内(国外で出生があつたときは、三箇月以内)にこれをしなければならない。

戸籍法第137条 正当な理由がなくて期間内にすべき届出又は申請をしない者は、五万円以下の過料に処する。

 

ところで,離婚後300日以内に出生した子が戸籍上は前夫の子とされてしまうことから,出産した母親が出生届を出すのをためらい,子が無戸籍となってしまう離婚後300日問題と呼ばれる問題があります。

 

 

【離婚後300日問題】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12383852249.html

 

 

本件もこのような離婚後300日問題であり,前夫から「刺し殺してやる」などと恫喝されて別居となり,別居後,現夫と関係を持ち妊娠し,その後前夫から離婚届けが提出されたものの(現夫とは婚姻届けを提出),出産時期が離婚後300日以内であったことから出産した子(平成24年生)が前夫の戸籍に入ってしまうことを知らされたため,前夫が自分や子どもの所在を探し当てて危害を加えるのではないかと恐怖心を抱いたことから出生届を提出できなくなり,役所の法律相談に行くなどしていたがなかなかよい方法が見つからなかったが,平成30年になって無戸籍児についてのパンフレットを入手し,前夫の協力を得ずに現夫を相手とする強制認知の手続を取ることも可能であることを知らされ,手続きを経て,令和元年に至って出生届を提出したところ,過料5万円に処されたため,取消しを求めたというのが本件です。

 

 

裁判所は上記の経緯においては,届出期限を徒過したことについて「正当な理由」があるとしました。

ただ,仮定の法と裁判の解説においては,前夫の協力を得ずに認知の手続を行う方法もあり(但し,多くの裁判所では前夫も手続きに参加させる扱いをしていることが多いとされている),また,DV被害者の住所秘匿の制度も整えられていることからすると,危険の程度は必ずしも高いということはできず,このような手続きを取らずに出生届を期限内に出さなかったことについて正当化できる余地は限定されると評価しており,本件でも慎重な検討が必要であったのではないかと評釈されています。