離婚後300日問題とは,離婚後300日以内に出生した子は前夫の嫡出子として推定され(民法772条),前夫が父親として戸籍に記載されてしまうことから,実体としては前夫との婚姻関係が破綻している状況の下で別の男性との間の子を懐胎出産したが,離婚した前夫とのかかわりを避けるため,生まれた子の出生届を出さずにいたままにして子が無戸籍になってしまうという問題のことをいいます。

 

 

(嫡出の推定)
民法第772条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

 

理屈から言えば,まず,この父親を前夫とする戸籍を届け出て後,前夫が嫡出否認の訴えを提起して父子関係を解消し,然る後に,真実の父親が認知するという方法が考えられます。

 

 

【嫡出否認制度】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12376357381.html

 

 

しかし,前夫が嫡出否認の訴えをするとは限らないし,また,そもそも出生した子が無戸籍の状態であるということが問題となっている以上,有効な手段であるとはいえません。

 

 

そこで,真実の父親により認知を行い届け出ることができるかということが問題となります。

この点,医師により,離婚後に懐胎したことが明らかであるとの証明書があれば,真実の父親の子として出生届を出すことは通達で認められています(法務省平成19年5月7日民一第1007号通達)。

 

 

問題は,離婚後ほどなくして出生したケースなど,そのような医師の証明書もない場合ということになります。

 

 

一つの方法としては,前夫を相手方として親子関係不存在確認の調停を申し立て,前夫との父子関係がないことが確認されて後,真実の父親が認知するということが考えられます。

 

 

ただ,特にDVなどの問題がある場合,前夫との間で調停をするということ自体が心理的に抵抗があるということもありますし(そうであるからこそ届出を躊躇して子が無戸籍となっているという実態もある),前夫が手続きに協力するかどうかも分からないということもあります。

 

 

そこで,前夫を手続きの相手方とする親子関係不存在調停ではなく,真実の父親を相手方とする認知調停(合意に相当する審判)を提起するということが考えられます。

この点に関し,最高裁判所では,前夫に対する親子不存在関係確認調停も,真実の父親を相手方とする認知調停も,どちらかを先にしなければならないということはなく,認知調停の受理を拒否してはならないとする旨の連絡を全国の家庭裁判所に対して行っています(平成27年11月5日最高裁家庭局第二課長事務連絡)。

 

 

【認知調停 裁判所HP】

http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_07_18/index.html

 

 

民法722条2項の推定が及ばない子については認知することが可能ですので(判例。但し,戸籍の担当者はこの点についての実質的審査ができないので,形式的に嫡出推定が及んでいる以上は戸籍窓口では前記の医師の証明書がない限りは認知届を受理できない),「推定が及ばない事情」について審理することになりますが,実務上は,母親と真実の父親の供述のみからでは母親と前夫との別居の事実が確認できない場合には前夫からも事情を聴くことがあるという取り扱いとなっています。また,併せて,真実の父親との間のDNA鑑定も行われることになっています。