2018年9月30日(日曜日)、この日は大型の台風が日本列島を縦断していた。東京は深夜になっても雨と強風がつづき、ところによっては短い停電がなんどもくりかえすような不安な夜だった。

 

 時計の針が深夜0時をすぎ、10月1日をむかえたところで、ひとつのツイートがタイムライン上に現れる。

 

 「SUPER☆GiRLSメンバーに関して重要なお知らせ」(※1)

 

 アイドルファンに限らず、ひろくアーティストやタレントを継続的に応援している人々にとって、この「重要なお知らせ」や「大切なお知らせ」には嫌な予感しかしない。

 

 そして時は2018年だ。アイドル業界以外からも注目されるほどに、アイドルグループの解散や、重要メンバーの卒業があいついでいた。

 

 『SUPER☆GiRLS』もなのか……

 

公式ツイッターを目にした人々は、恐る恐る添付された公式ホームページへのURLをタップする。そしてそこに見たのは、渡邉ひかる、宮崎理奈、溝手るか、浅川梨奈、内村莉彩の卒業のお知らせだった。(※2)

 

 公式からはまず、SUPER☆GiRLSをつづけていくとのアナウンスがあり、そのあとに卒業する5人のメンバーのコメントが掲載されていた。

 

 読みながら、多すぎないか? と気づく。9人のメンバーから、5人が卒業? 残るほうが少ないじゃないか! そんな話、聞いたことがない……

 

 スパガは7月から新メンバーの公募オーディションをはじめていた。その兼ね合いもあるのだろうか。

 

 運営はその意図として、──卒業が毎年あり、体制が不安定な中では、結成10週年にかかげた武道館公演の達成が難しい、そのために2020年までの2年間、メンバーを固定するための施策だ、と書いていた。

 

 言っていることはわかるが、少し冷たく感じる。くだけた言い方をすれば、これから2年間、スパガのためにその身をささげられるか? と踏み絵を迫ったことになる。

 

 年長組は、とうぜんこれからの2年間をどう使うのか、真剣に考えるだろう。10代後半から、20代前半のメンバーにとって、その2年間は重い。

 

 グループやメンバーにたいする愛着は誰もがもっている。そして、自分自身の目標や夢と、さらにシリアスにいえば、今後のグループにとって、どれだけ自分が貢献できるのか、必要とされているのか、そう考えつめることになる。

 

 これまで身を挺して戦ってきたメンバーに、踏み絵をせまるようなやりかたや、充実した経験者を放出して、新メンバーを入れたところで、2年で何ができるのかと、ファンは疑問に感じたはずだ。

 

 しかも運営会社であるエイベックスは、2018年になってから、同じレーベルのアイドルグループを2組も解散させている。SUPER☆GiRLSを応援してきた人々も疑心暗鬼になってあたりまえだ。

 

 そして、関東は暴風雨で、わが家は停電をくりかえしていた。暗い気持ちにならないはずがない。

 

 公式のツイッターが上がったあとに、SUPER☆GiRLSメンバーたちのツイートがつぎつぎと現れる。彼女たちは「皆様へ」と題して、卒業の報告をし、感謝をつたえ、自分の気持をつづったブログへと誘導していた。

 

 そんなブログを読んでいると、ひとりだけ奇妙なことを書いているメンバーがいた。

 

「──今回の卒業ですが、1ヶ月前まで、私もその卒業メンバーの中にいました…」

 

 えっ、と驚いて、読みすすめると、じつは1期2期の6人全員が卒業する予定だったという。

 

 しかし、まだグループのためにできることがある、3期の後輩を残していくのが嫌だ、と思いなおし、卒業することをやめたと彼女は書いていた。(※3)

 

 要約してしまうとシンプルなのだけれど、嵐の夜に、メンバーの過半数が去っていくという悲しい知らせをうけたあと、彼女のブログを読んだときには、正直、胸を打たれた。そして、どうして彼女だけが卒業することをやめたのか、と考えたとき、思い当たることがあった。

 

 彼女は過去にも一度、仲間を置き去りにしていた。

 

 彼女の名前は渡邉幸愛(わたなべこうめ)。このときにはスパガのセンターでエースは渡邉幸愛だとメンバーからも推されていた彼女だが、SUPER☆GiRLSに2期メンバーとして加入するまでは、別のアイドルグループでリーダーとして活躍しメジャーデビューまでしていた。そんな、ちょっと複雑な経歴の持ち主でもある。

 

 渡邉幸愛はどこからきたのか? そして、どうして彼女だけが卒業を決意しながら、翻意してアイドルの世界にとどまったのか?

 

 それを考えるためにも、SUPER☆GiRLSからも大量の卒業者を出すことになった、2018年のアイドル界に何が起こっていたのか、まずは俯瞰してみたい。

 

 

 ──「2018年、アイドル界の乱気流」につづく 

 

 

(※1)SUPER☆GiRLS・公式のツイート: "SUPER☆GiRLSメンバーに関して重要なお知らせ https://t.co/wY5nyK107w"

 

(※2)SUPER☆GiRLSメンバーに関して重要なお知らせ|NEWS|SUPER☆GiRLS(スパガ) Official Website

 

(※3)皆様へ | 渡邉幸愛(SUPER☆GiRLS)オフィシャルブログ 「幸愛のはぴらぶろぐ♪」 Powered by Ameba(2018-10-01 00:43:31)

 

 

 

 なんとか『東京女子流』編がおわりました。

 

 この文章を書くきっかけが、TIF2017のスマイル・ガーデンだったので、当初の目的地まではたどり着いたことになる。

 

 ただ、この文章を書いているあいだに、2018年の一年間をとおして、多くのアイドルの卒業や、グループの解散があり、いったい何が起こっているんだろうと思っていた。

 

 そして、あるブログを読んでとても胸を打たれたので、2018年のアイドル界についても書きながら考えてみることになった。

 

 まずは、現在までの「目次」とともに、2018年編の「予定」を書いてみます。(2019年11月19日時点)

 

 

マニファクチャード・ガールズ・クロニクル

manufactured girls chronicle

 

 [目次]

 

1.マニファクチャード・ガールズ・クロニクル はじまりに

 ブログを書くきっかけと、「manufactured girls chronicle」の意味について。

 

2.「アイドル」と「アーティスト」のはざまで  ──東京女子流 TIF 2017

 ブログの入り口として、2017年の東京アイドルフェスティバルでのパフォーマンスと「アーティスト宣言」について。

 

 

 ■ 1970年代──

 

3.「アイドル」って、なんだっけ? ──1970年代の山口百恵とキャンディーズ

 

 

 ■ 1980年代──

 

4.松田聖子の登場 ──80年代のはじまり

 

5.山口百恵と松田聖子  それぞれの選択

 

6.「おニャン子クラブ」 その可能性と限界

 

7.1986年の岡田有希子

 

8.80年代の終わり【1】 中森明菜と小泉今日子

 

9.80年代の終わり【2】「オタク」「バブル」「森高千里」

 

 

 ■ 1990年代──

 

10.「アーティスト」ってなんだっけ? ──坂井泉水『ZARD』

 

11. アーティストは自作自演?

 

12. 90年代 安室奈美恵の登場

 

13. ダンス・ダンス・ダンス 安室奈美恵の発見

 

14. 神の子どもたちはみな踊る 『SPEED』の衝撃

 

15. 彼女が水着に着がえたら ──CMとグラビアと深夜番組と

 

16. 王子様の魔法「TKプロデュース」 小室哲哉と華原朋美

 

17. 「1998年」音楽CD、史上最高の売上 ──宇多田とあゆとモーニング娘。

 

18. 「Automatic」それは自動的に  宇多田ヒカルの偉業

 

19. 「SEASONS」季節はめぐる 浜崎あゆみへの共感

 

20. 落ちこぼれたちの逆襲  『モーニング娘。』誕生

 

21. 「アイドル冬の時代」の終わり? 広末涼子と鈴木亜美とモーニング娘。

 

22. つんく♂は無慈悲な歌の教師 『モーニング娘。』の成功

 

 

 ■ 2000年代──

 

23. 辺境とアンダーグラウンド【1】 Perfumeの苦闘

 

24. 辺境とアンダーグラウンド【2】 「地下アイドル」とは?

 

25. 辺境とアンダーグラウンド【3】 ローカルとしての木村カエラ そして「ポリリズム」の奇跡

 

26. 辺境とアンダーグラウンド【4】 「秋葉原」都市の重力

 

27. 辺境とアンダーグラウンド【5】『秋葉原48』始動

 

28. 起業としての『AKB48』【1】 三人の若者

 

29. 起業としての『AKB48』【2】 CMとインディーズ・デビュー

 

30. 起業としての『AKB48』【3】 テレビは必要?

 

31. 起業としての『AKB48』【4】 音楽CDの衰退

 

32. 起業としての『AKB48』【5】 秋元康、青春の場

 

33. 成長する『AKB48』 前田敦子は14歳だった

 

34. 「帝国の逆襲」と「新たなる希望」たち【1】AKB48とアイドリング!!!

 

35. 「帝国の逆襲」と「新たなる希望」たち【2】挫折からの反転攻勢

 

36. 「帝国の逆襲」と「新たなる希望」たち【3】総選挙から戦国時代へ

 

 

 ■ 2010年代──

 

37. 2010年「アイドル戦国時代」【1】 戦うアイドル

 

38. 2010年「アイドル戦国時代」【2】 群雄割拠

 

39. アイドルとアーティストのはざまで【1】東京女子流

 

40. アイドルとアーティストのはざまで【2】二度の武道館

 

41. アイドルとアーティストのはざまで【3】アーティスト宣言

 

42. アイドルとアーティストのはざまで【4】もうひとつの理由

 

43. アイドルとアーティストのはざまで【5】停滞ときざし

 

44. アイドルとアーティストのはざまで【6】アイドル性、その光と影

 

45. アイドルとアーティストのはざまで【7】再建のサマー

 

46. アイドルとアーティストのはざまで【8】TIF2016「斥候」

 

47. アイドルとアーティストのはざまで【9】 深海 

 

48. アイドルとアーティストのはざまで【10】おんなじキモチ

 

49. アイドルとアーティストのはざまで【11】TIF2017「帰還」

 

 

 これからの「予定」(あくまで目安です)

 

 ■ マニファクチャード・ガールズ・クロニクル 2018

  (2018年のアイドルと『SUPER☆GiRLS』について)

  • 2018年の渡邉幸愛|mikio EG|note 「嵐の夜に」
  • アイドル界の2018年
  • 『ももいろクローバーZ』は突然に
  • 『乃木坂46』卒業の風景
  • AKB48グループの変遷
  • 秋葉原『ディアステージ』の挑戦
  • グループの解散 「アイドルネッサンス」「PASSPO☆」「ベイビーレイズJapan」「バニラビーンズ」
  • manufactured girl group(企画された女の子たち)
  • SUPER☆GiRLSの成り立ち
  • iDOL Street(アイドルストリート)
  • 新メンバーのサプライズ
  • 渡邉幸愛はどこから来たのか
  • SUPER☆GiRLS 第二章
  • SUPER☆GiRLS 第三章
  • 灰色の雲が近づいている
  • 撤退戦Ⅰ(GEM)
  • 撤退戦Ⅱ(Cheeky Parade)
  • SUPER☆GiRLS『汗と涙のシンデレラ・ストーリー』
  • (追いつめられて)
  • 獅子奮迅 浅川梨奈(あさかわなな)
  • アイドルヲタがアイドルに 浅川梨奈(2)
  • 「1000年に1度の童顔巨乳」浅川梨奈(3)
  • 浅川梨奈と渡邉幸愛
  • 2018年のスーパーガールズ(1)オーディション
  • 2018年のスーパーガールズ(2)金澤有希
  • 2018年のスーパーガールズ(3)大量卒業
  • 2018年のスーパーガールズ(4)それぞれの決断
  • 2018年のスーパーガールズ(5)#夏スパガ
  • そして、2018年の渡邉幸愛
  • コングラCHUレーション!!!!

 

 ──以上の予定です。

 年内には終わらせたい…^^;

 

 

 2017年6月26日、東京女子流はTIF2017(東京アイドルフェスティバル)にむけたコメントを発表する。メンバー4人による動画配信で、主にリーダーの庄司芽生が話している。(※1)

 

  要約すると、「──アーティスト宣言は当時のスタッフの旗振りで行ったが、結果的に活動の幅を狭めてしまった。活動できる場があればどんどん出ていきたい。アイドルか、アーティストかはどちらでもいい。見ていただくみなさんの感じ方しだいでいい」という内容だ。

 

 こういうことを演者みずからにやらせることの賛否の声もある。当時の状況を考えれば、彼女たちは不具合を被った側だ。

 

 それでも、ステージに立ち、観客の前に姿を現すのは彼女たち自身である。運営スタッフもふくめたチーム東京女子流を代表して、みずからのことばで、できるだけ不要なわだかまりを解消しておこうという姿勢は良かったのではないかと思う。

 

 なにより、「アーティスト宣言」は佐竹氏が前面に出て解説していた。こんかいはメンバーの庄司芽生がじぶんのことばで話している。にこやかに、穏やかに。

 

 この三年で彼女たちは成長した。それこそが「宣言」の成果だったと言っていい。

 

 もちろん「内容」はスタッフと練りに練ったものだろう。この時点で、佐竹氏はチーム東京女子流にはいない。彼は新しい楽曲を試み、過去曲の封印を解いてから、悪者を引き受けチームを去っていた。

 

 「どのつらさげて問題」も、ここまでやればもういいだろうという気がしてくる。ただ、やはりじっさいに観客の前に立つのは不安だったと思う。音楽フェスはワンマンライブとは違う。彼女たち以外のグループのファンが大勢いるのだ。

 

 東京女子流に好感をもっている人ばかりではない。「東京《アイドル》フェスティバル」である。かつての宣言によって、「アイドル」を貶められたと感じ、傷ついたり、憤ったりした人もいるはずだ。

 

「アイドルもプロレスも不当にナメられてるんですよ」とは吉田豪氏のことばだ。

 

 こんなに凄いのに、こんなに魅力的なのに、どうしてもそのファンサークルの外からは、理解されにくい。アーティストやアスリートに比べて、なにか劣ったものであるかのような視線がある。

 

 以前にも書いたけれど、アイドルとアーティストの違いは、プロモーションの違いでしかない。音楽の見せ方の違い。ショウビジネスにおける演出の違いにすぎない。

 

 アスリートだって同じだ。いまやそれがショウビジネスであることは、だれでも知っている。人間の限界に挑戦するのがアスリートだとすれば、プロレスラーは身体能力の限界までマットの上に立ちつづける。

 

 好き嫌いがあるのは当然だ。だからといって嫌いなものを貶める必要はない。人の世は偏見に満ちている。しかし、みずからの偏見の雲が晴れたとき、世界が広がり、より輝いて見えるはずだ。

 

 『もののけ姫』でアシタカが旅立つとき、長老のオババはこう言った。

 

「──その地におもむき、曇りない眼(まなこ)で物事を見定めるなら、あるいはその呪いを断つ道が見つかるかもしれぬ」

 

 

 2017年8月5日、東京女子流はTIF2017(東京アイドルフェスティバル)の1日目のステージに立つ。

 

 この日は赤いドレスのような新衣装に身を包んで登場した。まずは「頑張って いつだって 信じてる」を歌った。あのポンポンをもって踊るカワイイ曲だ。

 

 イントロが流れると観客からどよめきが起きた。その場にいた多くの人々が封印された曲であると知っていた。彼女たちは赤い衣装に金色のポンポンをもって踊った。

 

 つづいて、「Rock you!」「Limited addction」「鼓動の秘密」

「ヒマワリと星屑」と、かつての彼女たちを代表するカッコイイ楽曲をパフォーマンスした。

 

 そして最後は「おんなじキモチ」。会場全体に幸せな一体感をつくりだした。

 

 舞台を去るまえにメンバーの四人は深々と頭を下げた。それは20秒にもおよぶ異例の長さだった。その長さがこの三年間の重みを現していた。観客は彼女たちに温かい拍手を送った。(※2)

 

 よく考えられたセットリストであり、彼女たちのパフォーマンスは、あらためて評価された。

 

 ただ、いま現在の東京女子流を知っている者には、ちょっとした不満もあった。

 

「選曲が懐古的すぎるのではないか」「アイドル・イベント復帰の挨拶代わりとしてはしかたがないだろう」「逆に2日目は最新曲で責めすぎてドン引きされたらどうしよう」そんな心配の声まであった。

 

 8月6日、東京女子流の2日目、彼女たちにとっての最後のステージは、スマイル・ガーデンという野外ステージだった。前日の評判もあって、東京女子流を一目見ようと、観客席は最後尾まで人で埋めつくされていた。(※3)

 

 夏の夕暮れのステージに、東京女子流の四人が現れる。新井ひとみの「みんな行くよっ!」の掛け声とともに、パフォーマンスがはじまる。

 

 一曲目に「おんなじキモチ」で観客との一体感をつくりあげ、二曲目もカワイイ曲の「ちいさな奇跡」を披露した。

 

 庄司芽生の挨拶がはじまる。彼女はこのステージに帰ってこれたことの喜びと感謝をつたえ、四人でふかくお辞儀をする。そして、庄司芽生が、つぎの曲を紹介する。

 

「──つぎも私たちの大事な大切なオリジナル曲です」彼女の声は少し震えているようにも感じられる。「深海 Hi-ra Mix 」

 

 観客席からは歓声とどよめきが沸き起こる。東京女子流のファンならこう思ったはずだ。

 

「よし、いまの女子流をみせつけてやれ!」

 

 重い電子音が響き、彼女たちが軽くステップをはじめる。やがて軽快な音が集まってきて、彼女たちの華麗で力強いダンスがはじまる。静かに叙情的な新井ひとみの歌が現れ、やがて中江友梨の声がハーモニーを生みだす。

 

「──愛してると言えないで別れてしまったの、この想いが深い海に沈んでいくように…」

 

 そして、庄司芽生の切実な歌声から、山邊未夢の儚くて澄んだ歌声。

 

 間奏では彼女たちが跳ねるように踊り、メンバー同士が顔を見合わせながら交差していく。その表情は楽しげに見える。まるで夏の夜を舞う妖精のようだ。

 

 「深海」はほんとうに不思議な楽曲だ。切実な鎮魂歌でありながら、ときに楽しげな顔も見せる。この曲を歌うときの新井ひとみの表情がすべてを物語っている。切なく苦しい表情で歌いはじめ、間奏では楽しげに跳ね、舞い踊る。

 

「──サヨナラを言葉にできたら、僕は強くなれるような気がして、声さえ、かれるほどに、いま、このまま、あの空の向こうまで叫ぶよ」

 

 このステージで「おんなじキモチ」を見た観客のなかで、どのくらいの人が、その扇型の決めポーズに、翼が一枚欠けていることに気づいただろう。そのことに気づいた人たちには、より一層、「深海」の歌詞が切なく響いたはずだ。

 

 「深海」が終わると、盛大な拍手と歓声があがる。そのままつづけて「Attack Hyper Beat POP」へ。会場を最大限に盛り上げた。

 

 鳴り止まない拍手のなか、彼女たちは、観客、関係者すべてに感謝をつたえ、深く深く頭を下げた。

 

 去りぎわに、新井ひとみはマイクを口元にはこび、何かを言おうとしたが、声にはしなかった。その口元は、ありがとう、と動いたようにも見える。

 

 東京女子流のたった四曲の大冒険が終わった。彼女たちの復帰を「王の帰還」という者もいた。それほど感動的なステージだった。

 

 彼女たちを「王」だと言いたいわけではない。「王の帰還」はトルーキン原作の映画『ロード・オブ・ザ・リング』の最終章のタイトルだ。

 

 その、長い長い旅の物語が教えてくれるのは、仲間との信頼と協力によって困難をのりこえること、そして「小さく弱き者こそがほんとうの勇気をもつ」ということだ。

 

 ステージから降りた彼女たちは泣いていたという。(※4)

 

 もといた場所にもどるだけの旅だったが、それほどまでに大変な旅でもあった。だが、確かに成長もしていた。

 

 

 7月に東京女子流は23枚目のシングル「water lily ~睡蓮~」をリリースしていた。おそらく、ここまでが佐竹氏の制作にかかわった仕事だろう。

 

 「睡蓮」は水中から茎を伸ばし、水上で花を咲かせる。花は朝にひらき、夕方には閉じてしまうが、夜が明けると再び花をひらく。

 

 そんな事を考えながら、「深海」以降のシングルCDのタイトルを並べてみて気づいたことがある。

 

深い海の底へ沈んでしまったけれど(深海)

あきらめずに(Don't give it up)

いろいろ積み重ねて(ミルフィーユ)

夜が明けるころ(predawn)

水中から浮かび上がり、ふたたび華を咲かせる(water lily ~睡蓮~)

そう、なんどでも

 

 佐竹氏は東京女子流を愛していた。

 

 

 最後に「おんなじキモチ」からの引用でこの章を終えたい。

 

大好きなキミがそばにいる

それだけで大丈夫

どんな問題も解ける

 

 

 

 

──「アイドルとアーティストのはざまで」おわり

 

 

*次回からは「2018年のアイドル界、卒業と解散」について書いてみます。

よろしければ、おつきあいください。

 

 

(※1) 東京女子流 「アーティスト宣言撤回??これからの女子流は本気です!」(メンバーコメント映像) | 音楽 | 無料動画GYAO!

 

(※2)【TIF2017】東京女子流、3年ぶりのTIFに会場熱狂 「みんなと最高の時間を」 - ライブドアニュース

 

(※3)[Photo] The Triumphant Return of TOKYO GIRLS’ STYLE to Tokyo Idol Festival 2017! | Tokyo Girls Update

「アイドルなのか?アーティストなのか?答えを出した東京女子流の3年ぶりのTokyo Idol Festival」)

 

(※4)東京女子流「アイドルとアーティスト」の呪縛の先に:BuzzFeed 2018/03/04

 

 

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 2016年8月の終わりに「深海」をリリースしたあと、東京女子流はリリースイベントやライブハウスでの単独公演など、活動を活発化させる。

 

 11月には21枚目のシングル「ミルフィーユ」をリリース。12月にはチョコレート菓子『キットカット』のキャンペーンで「Don't give it up」を発表。年が明けて、2017年3月に「predawn」(プリドーン)をリリースする。

 

 音楽的に、「ミルフィーユ」は電子音を基調とするEDMで、フューチャーベースというこれも新しい曲調のものだ。

 

(僕の理解では、あの潰れたカエルの鳴き声のような音とか、ベッドの錆びたスプリングが軋むような音色が特徴なのだろうけれど、それが正解なのかはわからない)

 

 「Don't give it up」はロック調。「predawn」はやはりフューチャーベースだろう。ただ、「ミルフィーユ」のちょっとコミカルで楽しかった曲調と違い、「predawn」は「夜明け前」という意味にふさわしく、切なさと清々しさを感じる曲調だ。

 

 つぎつぎと出てくる楽曲を聴いていると、佐竹氏がいろいろと試しているのだな、と感じた。

 

 プロモーションビデオも、「深海」では前・後編10分ほどのショートドラマをつくり、「ミルフィーユ」ではメンバーで料理をしている可愛いバージョンと、キレの良いダンスバージョンをつくり、「predawn」のときは、ビルの屋上でのMVの撮影をネットでライブ中継していた。(※1)

 

 もともと佐竹氏はガジェット好きのアイデアマンらしく、ネットサイン会のやり方も彼が考案したと言われている。

 

 彼はさまざまな試行錯誤をしながら新しい東京女子流を探し、そして同時に、失ったものを取りもどすための試みをはじめる。

 

 「predawn」のリリースイベントにむけての話である。

 

 ネット配信のなかで、東京女子流の楽曲を投票で選び、人気上位の曲をリリイベのステージでパフォーマンスすると言いはじめた。

 

 メンバーの誰かが、「じゃあ、『おんなじキモチ』とか、きちゃったらどうします?」と画面の外の佐竹氏に問いかける。

 

「ああ、そうか」と佐竹氏は答える。「歌割りとか、修正したっけ?」

 

 え? と思いながら見ていると、佐竹氏は、「してないよな。まあ、考えます。基本的に、リクエストで決まった曲はやるつもりです」と言った。

 

 このあたりは記憶に基づいて書いているので、詳細については正確ではないかもしれない。

 

 ただ、リリイベで披露する曲をファンから募り、多かった曲をやるという方針をメンバーと話しながら、しれっと封印した過去曲のパフォーマンスを示唆する、そういったやりとりがあったことは間違いない。

 

 ああ、そうか、あまり大事(おおごと)にはせずに、リリイベのような場所で、ファンのリクエストがあったのでやりました、というさりげないかたちで、雪解けをさせようとしているんだな、と感じた。

 

 2017年3月4日、何日かつづいた「ららぽーと豊洲」でのリリースイベント最終日にそれは行われた。

 

 山邊未夢のブログから引用する──

 

「幸せな日をありがとう!」

 

(…)

 

そして今日はららぽーと豊洲にて

フリーライブありがとうございました!

 

(…)

 

今までにも何回かららぽーと豊洲で

フリーライブやらせてもらったことあるけど

一番多かったんじゃないかな??

天気にも恵まれて晴れてよかった~

 

(…)

 

ライブでは今回はリクエスト企画があるということで

みんなが投票してくれた中から順位をつけて

一番人気の曲をやらせていただきました! 

 

一番リクエストが多かったのは

 

ちいさな奇跡とおんなじキモチ😌

 

もうかれこれ何年もやってないっていうのも

あって投票の数が断トツで多くて

やっぱり自分達もできて楽しかったです

 

東京女子流 公式ブログ - 2017年03月4日 - Powered by LINE

 

 

 ──じつは、この現場に僕もいた。

 

 野外のステージはほんとうに人がいっぱいだった。

 

 彼女たちが、「リクエストで歌うのは『おんなじキモチ』です!」と言ったとき、歓声が上がり拍手が起こった。

 

 ライブで「おんなじキモチ」を観るのははじめてだった。

 

 その可愛らしい楽曲がはじまり、「みなさんもいっしょに踊ってください!」と声がかけられると、野外ステージを埋め尽くした観客の八割が両手を空に上げた。

 

 正直、驚いた。そして、ああ、みんな待ってたんだ、と思った。

 

 「おんなじキモチ」の振りつけはとてもシンプルで、はじめてでも、すぐに真似することができる。

 

 土曜日の午後のショッピングモールという場所がらもあり、親子連れで見ていた子どもたちも踊っていた。春のとてもうららかなお天気の日で、多幸感というのはこういう事を言うのだなと実感した。

 

 2010年当初の「アイドル戦国時代」といわれはじめた時期に、こんなにも平和な曲がアンセムとして支持されていたのだ。その封印に失望した人々の気持ちがよくわかった。そして復活を待っていた人々の気持ちも。

 

 その場を一瞬にして幸せで包んでくれる曲などそうはない。

 

 「おんなじキモチ」の振りつけには、新井ひとみを中心に全員が縦一列にならび、両手を上げて、それぞれが体を左右にたおすポーズがある。5人でやると扇型にひろがって完成する形だ。

 

 彼女たちの道のりを知って、いまその場面を見る者は、翼が一枚欠けていることを感じるだろう。これからもずっと。

 

 2017年3月の終わりに、佐竹氏が東京女子流の仕事から離れるという情報が流れた。女子流のリーダー庄司芽生のツイッターがきっかけだっただけに、少し混乱も見られた。(※2)

 

 佐竹氏は現在制作中のものを仕上げながら、引き継ぎをして、別のプロジェクトへと移動することになったと伝えた。

 

 彼はチーム東京女子流の責任者として、自身のつくりだした不具合を、あせらず慎重に解きほぐしていった。そして彼女たちが元いた場所に帰るための土台をつくり、チームからは離れた。

 

 それは会社の人事による移動だろう。ただ、最後の「どのつらさげて問題」を考えたとき、「宣言」当時の責任者がそばにいないほうがいいという判断もあったのかもしれない。

 

 そして6月、TIF2017(東京アイドルフェスティバル)への出演が発表された。じつに3年ぶりのことだった。(※3)

 

 

 ──「アイドルとアーティストのはざまで【11】TIF2017」につづく

 

 

(※1) 東京女子流 #0301predawnリリース #MV撮影 - YouTube

 

(※2) 東京女子流 公式ブログ - ▶︎▷🌙 - Powered by LINE :庄司芽生 2017/3/31

 

(※3) 東京女子流がTIFに3年ぶり復活 出演者第9弾に夢アド・BiSH・たこ虹ら (2017年6月10日) - エキサイトニュース

 

 

 

 

 2016年、「志田サマー新井サマー」の夏は9月いっぱいで終わった。彼女らの活動期間中にも、チーム東京女子流はつぎへの歩みをすすめている。

 

 6月にさかのぼるが、佐竹氏がすすめていると話していた楽曲が、少しずつ現れはじめる。

 

 6月15日に松井寛がリミックスした「リフレクション Royal Mirrorball Mix」が配信リリースされ、7月20日にも新曲「深海」の松井寛アレンジのバージョンが配信された。(※1)

 

 この「深海」という曲が、その後の東京女子流にとってキーポイントとなる。

 

 東京女子流の楽曲のカッコ良さは、松井寛のアレンジによって支えられていた。素人が聴いてもその特徴的なベースの旋律が耳に残る。(※2)

 

 「深海 Royal Mirrorball Mix」の松井寛アレンジも、硬質なベースの激しい運動から、電子音をふんだんに使って味付けをし、後半になると泣きのギターが現れたりする。面白く、カッコ良い。

 

 ただ、「僕の声は君に届かない……」と、はじまるこの曲は、愛を告げられずに離れてしまった人との、永遠の別れを歌っている。

 

 その内容に、松井寛のアレンジが寄りそっているかというと、そうではない。むしろ衝突をねらっている。だから後半に泣きのギターが現れる。音楽はそういうことができるから面白い。

 

 そして、8月31日に東京女子流の20枚目のシングル「深海」が発売されることになる。

 

 彼女たちにとって、新曲のシングルCDはじつに1年2ヶ月ぶりのリリースだった。

 

 ネットの配信番組で新井ひとみが「一年以上も新曲のCD、出してなかったんだねえ…」と、しみじみ言っていたのを覚えている。

 

 前作、2015年6月に19枚目のシングル「Never ever」がリリースされた直後に、小西彩乃が「活動休止」を発表して、グループを離れた。そのことを思うと感慨深い。

 

 「深海」は、シングルCDとしては四人組となった東京女子流がはじめてリリースする新曲だった。

 

 このシングルCD「深海」のファースト・トラックは松井寛アレンジではない。「深海 Hi-ra Mix」と銘打たれたバージョンが前面に出されている。

 

 発売に先立って、リリースイベントもかねたネット配信のなかで、この「Hi-ra Mix」の音源が披露されたと記憶している。はじめて聴いたとき、「おっ、新しい」と思った。

 

 EDMとよばれる、電子音で構成された音作りなのだけれど、どこか温かくて、切なさもある。部分的には楽しさも感じる。重さと軽さ、どちらも備えている。

 

 新しいと感じたのは、J-WAVEの日曜午後のクリス・ペプラー氏の番組で、このころよく耳にしていた洋楽の音の作りに似ていたからだ。とくにあの、ピンポン玉が跳ねるような軽快なリズム音が、どこかで聴いたこともあるようで、心地よかった。

 

 ネットのコメントの反応も上々で、「この曲はどういうジャンルなんですか?」という質問に、佐竹氏自身が「トロピカル・ハウスって言うんですよ」と答えていた。こういった曲調に、トロピカル・ハウスという名前がついていることをはじめて知った。

 

 この曲につけられたダンスも特徴的だった。佐竹氏がこの曲調を聴いたときに、「これはステップだな」と思ったそうで、足のステップを強調した振り付けになっている。この曲用の衣装のときは、光る靴まで履いていた。そしてクライマックスは2回転ターンからの反転ターン。彼女たちのターンはとても美しい。

 

 「深海」の歌詞にはこうある。

 

「──いとしい日にサヨナラの花束を贈ろう 振り返れば僕の気持ち揺れてしまうから……」

 

 果たされなかった恋心を、深い海の底に沈めてしまおう、という、悲しいラブソングのふりをしながら、彼女たちのこれまでの道のりを知っている人には、仲間とのつらい別れを抱いて、それでも前に進もうとする姿がイメージされるようにつくられている。

 

 そして彼女たち自身もまた、深海にいた。

 

 最新の音作りをしながら、悲しい歌詞に、切なさと温かさをあたえ、軽快に美しく踊ってみせる。「深海 Hi-ra Mix」には不思議な魅力がある。復活にかける東京女子流にふさわしい曲だった。

 

 この曲が多くの人の心に感動を呼ぶのは、もうすこし先の話だ。

 

 

 ──「アイドルとアーティストのはざまで【10】 おんなじキモチ」につづく

 

 

 

(※1)東京女子流、連続配信2弾は新曲の松井寛Mix - 音楽ナタリー

 

(※2)東京女子流サウンドを支える松井寛がソロアルバム『Mirrorball Flare』 | BARKS

 

 

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