ボイトレも終わり、今日も1人で帰宅する。

 

 

 

井上「さくらさん、今日この後空いてますか?」

 

遠藤「うん、空いてるよ。どうした?」

 

井上「この前美味しそうなお店見つけたんですけど、一緒にどうかなぁって。」

 

遠藤「いいよ、行こっか!」

 

井上「やったぁ!ありがとうございます!」

 

 

 

 可愛い後輩からのお誘いを断るわけがない。

 

 最近1人で過ごしていた私は、久しぶりのメンバーと一緒のご飯でとてもワクワクしていた。

 

 

 

遠藤「お店どこらへん?」

 

井上「えーっと…○○駅の近くですね。」

 

 

 

 その駅名を聞いた途端、私の心がキュッと苦しくなった。

 

 ○○駅から徒歩数分の所にかっきーの家がある。

 

 今、一番会いたいようで会いたくない人だ。

 

 その店に向かえば、もしかしたらかっきーに会えるんじゃないかという気持ちと、会いたくない、どうしようという気持ちが交差する。

 

 それぐらい、私の中ではかっきーに対する気持ちがわからなくなっているのだ。

 

 

 

井上「さくら…さん?」

 

遠藤「ごめんごめん。ちょっと考え事してた。行こっか。」

 

 

 

 せっかく和ちゃんが誘ってくれたんだ。

 

 今はかっきーのことを一旦忘れ、和ちゃんとのご飯を楽しもう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

井上「すごく美味しかったですね。」

 

遠藤「ね。また今度来よ?」

 

井上「いいんですか?めっちゃ楽しみ〜!」

 

 

 

 和ちゃんとのご飯はすごく楽しかった。

 

 グループのこれからについてや5期生の面白い話など色々ゆっくりお話しすることができた。

 

 

 

遠藤「今度さ、私も気になってるお店あるんだけどどお?」

 

井上「行きたいです!どこにでもついて行きます!」

 

遠藤「嬉しい笑」

 

 

 

 ん?

 

 和ちゃんの肩越しに見える、見覚えのある2人組の人達。

 

 

 

井上「どうしました?あ、賀喜さんと田村さんだ。」

 

 

 

 和ちゃんが振り返ったことでそれが誰だか確信に変わり、それと同時にかっきーへの私の気持ちが完全に切れた。

 

 とても楽しそうに並んで歩く2人。

 

 しかもスーパーかどこかで買い物をしたであろうエコバッグを仲良く2人で持っている。

 

 明日朝早いから無理なんじゃないの?

 

 なんで真佑ちゃんはいいのに私はダメなの?

 

 もしかして昨日の用事も本当は真佑ちゃんと一緒にいたの?

 

 考えれば考えるほどどんどん気持ち悪くなっていく。

 

 

 

井上「さくらさん大丈夫ですか?!」

 

遠藤「大丈夫…。今日はありがとうね。また今度ご飯行こ!」

 

 

 

 できる限り明るく振る舞い、その場をすぐに離れる。

 

 あのお店に行けば近くでかっきーと会えるかもしれないと期待した自分を呪ってやりたい。

 

 期待なんかせず、違うお店に行こうと提案すればよかった。

 

 

 

遠藤「ハァハァ…」

 

 

 

 走ったわけでもないのに呼吸が荒くなり、気持ち悪さが増していく。

 

 ほぼ気合いだけで駅に向かい、電車を乗り換え、家に着いた頃にはもう限界を超えていた。

 

 いつもならちゃんと揃える靴も、今日はそのまま脱ぎ捨てる。

 

 

 

遠藤「ハァ…」

 

 

 

 私はそのままソファに倒れ込み、落ち着くまで数時間かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ち着いた頃には日付が変わろうとしていた。

 

 気持ち悪さの原因がかっきーへの怒りなのか悲しみなのかはわからない。

 

 一つだけ言えるのは、私がかっきーのことを好きという気持ちは一切なくなったということ。

 

 もう理由を聞こうとすら思わなくなってしまった。

 

 私はLINEを開き、かっきーの連絡先をブロックし、トーク履歴も全て消去した。

 

 

 

 

 

 幸い翌日は仕事もレッスンも何もない日だった。

 

 外に出る気持ちにもなれず、ただベッドの上でゴロゴロし続ける。

 

 

ピコン!

 

 

 スマホの通知が鳴り、一瞬かっきーからかと身構えたが昨日ブロックしたことを思い出し、安心してLINEを開く。

 

 

 

和:昨日はごちそうさまでした。とてもおいしかったです!

 

 

 

 どうやら昨日のお礼のようだ。

 

 

 

さくら:誘ってくれてありがとうね〜。また今度違うお店行こ!

 

 

 

 可愛い後輩を持ったもんだ、と心が温かくなる。

 

 一応仕事の連絡が入っていないかと他の通知も確認していると、公式アカウントに紛れて1通だけ見つけた。

 

 はぁ…、今2番目に話したくない人だ。

 

 私は既読を付けないように真佑ちゃんのトーク画面を開く。

 

 

 

真佑:さくー、明日の夕方って空いてる?

 

 

 

 私からかっきーを奪った人とは話したくない、と思ってしまう自分は心が狭いのだろうか。

 

 私はそのまま既読すら付けず、スマホの電源を切った。