PLUTO KISS -20ページ目

0個目の夢

2010/08/26 完結済みの作品。

正直gdgd。




深い闇。何処までも続く闇。

ああ、とても暗い。暗い。暗い。

暗いのは嫌だ。何故か、自分まで飲み込まれてしまいそうで。

ただの闇なのに。

どうしてか、闇は好きにはなれないんだ。

闇は悪くないのに。




「人はいつだって闇を嫌う。彼だってそう。」

モノクロームの室内で、水面に向って喋りかける黒いローブを着た死に神はそう言った。

黒い爪が映える指で、チェスのナイトを掴み、投げ捨てる。

何故か捨てられたナイトは4つ。

「4人のナイト。しかし彼らはもう存在しない。もう、私の死亡者リストにも載っていない。」

そして捨てられたナイトの上へポトリと落とされたキング。

「その4人のナイトと共に過ごした名も無きキング。彼ももうこのリストに載っていない。」

死に神は死亡者リストを開きながら、載らない5人のことを考えた。

「果たして彼らはこれでよかったのか・・・。私としては、死亡証明書を受け取っていただきたかったのですけれどね・・・。」

死に神が彼らに渡すはずだった死亡証明書。

それは、とても重要な意味を成している。

しかし彼らをそれを受け取らなかった。

だから彼らの死亡証明書は死に神の手元に残ったまま。

「・・・そうだ。貴方の魂が旅立つ前に、彼らについてお話を致しましょう。私も長いこと生きていますと、時に世間話とか色々したくなるのですよ。どうぞ、私のお相手をしてください。」

そう言って死に神は薄く微笑みながら貴方が座るテーブルの向かい側に腰かけた。

魔法でも使ったのか、何処からかお菓子と紅茶が飛んできて、貴方と死に神の前に舞い降りる。

「貴方には死亡証明書を受け取る意味を知っていただきたい。彼らの話しが参考になるといいのですが。」

死に神は頬杖をつくと、人型クッキーをつまみあげ、語りだす。

「物語の主人公は、何処にでもいるような普通の高校生男子。でも彼にはひとつだけ欠点があった。彼の欠点とはなんだと思いますか?」

くるくると回る人型クッキーを死に神はひょいっと、口の中へ放る。

バキッ という音と共に口から出てきた人型クッキーは頭と同体が切り離されていた。

「彼はね、記憶がないのです。何も覚えていない。まるで白紙のような存在。」

そして、4つの人型クッキーを「彼」の周りに囲むように並べる。

「そこに現れた4人のナイト。彼らも大切なことを忘れている。けれど、それを繋ぎとめたのは、「彼」。」

クスクスと笑う死に神は、そっと貴方に視線を向ける。



「魂は1人1個限り。その魂をどうするかは貴方次第。さぁ、それでは物語をお話しましょう。」




彼は言いました。

超えられない壁なんてない。

開けられない扉なんてない。

じゃあ境界線なんてない。

信じられないならとことん付き合う。

闇は確かに怖いよ。

けれどそれは、闇が悪いわけじゃない。

闇を怖がる俺たちが悪いんだ。

闇は・・・――。

舞台4

第4舞:繋がり

「・・・私は・・・」
そうライトが主語だけ呟いたと同時にピアスに仕込まれていた通信機から雅さんの声が響いた。
『昶!今すぐそこを離れて!そいつこそ今回の裏情報の正体!昶の目の前にいるそいつは・・・――!!』
何者からか追われているらしい。通信機の向こう側から複数の追いかける足音と、銃声。
そして目の前で真剣を構えて言葉を紡ごうとするライト。そして狙われている俺。
『「社長の最高傑作、殺戮兵器のアンドロイドだ!」』
雅さんとライトの声が被ると同時に、ライトが一気に攻めてくる。ピアスの向こう側では雅さんが撃たれたのか、呻き声をあげた。同時に起こる危機に頭が上手く回ることができず、何とか避けたのだが、肩を少し斬られた。
「っく・・・。」
『にげ・・・ろ・・・!』
雅さんも苦戦しているようだったが、俺に最後にそう連絡を入れると通信を切られた。
・・・なんとか逃げなくちゃ。目の前の相手がロボットとわかれば、どんなにがんばっても勝ち目はない。
どうやって皮膚の下の鉄の体をこんなちっぽけな銃弾で打ちぬけというんだ。
「・・・死ねない。俺は、まだ死ねない。」
ライトとは反対方向にある窓に向って走り出し、窓ガラスを破ってビルから飛び出す。
丁度下にあった電線の上に着地し、その上を駆け抜ける。
あの狭い空間から脱出できたためこれで生存確率は多少あがったかもしれないけれど、まだ大丈夫ではない。
ライトもビルから飛び降りて、電線の上を追いかけてきた。
「くそっ・・・!!」
死ねるかよ・・・。俺はまだ死にたくない!
明日は卒業式なんだ。クラスの皆揃って卒業しなきゃ、意味ないだろ!!
電線からビルの屋上へ飛び移ると、ビルの上を駆け抜けて、次へ次へと飛び移る。
そうやっているうちに、いつの間にかライトの姿は見えなくなっていた。あいつにプログラムされているシステムがどの範囲まで追えとか、そういう風に組み込まれているか、もしくはマスターの命令を受信して戻ったか・・・。
とりあえず、一休みをしよう・・・肩をやられたし、腹を殴られたけれど、肺の辺りが痛い・・・肋骨何本か逝ったなこりゃ・・・。
夜空を見上げ、気がつけばもう朝はそこに来ていた。
ああ・・・この任務式開始までに終わるだろうか・・・。
俺はとりあえず雅さんに連絡を入れてみる。しかし、雅さんの通信機はなかなか通信を受け入れてくれない。
なんのための通信機だよ・・・これじゃ雅さんが生きているか、捕まってしまったか・・・わからないじゃないか。
「・・・雅さん・・・。」
初めてだ。こんなに不安になるのは。
いつもはまわりに友達がいて、母さんがいて、理沙も遊びに来て、達也もすぐそばにいて、雅さんともいて・・・。
いつもそこに俺がいて、俺のすぐそばには皆がいることが当たり前だと思ってた。
けれど、今日、本気で殺されそうになって、雅さんを失いそうになって・・・初めて分かった。仲間がいる本当のありがたさ。
戦っている中、本当は足が竦みそうで、でもそんな中思うのは母さんや友達。そして雅さん。
もう会えなくなるなんて嫌だ。ここに達也がいたら、本当にお前は泣き虫で弱虫だなとかいわれてしまいそうだけれど、本当に不安で仕方なくなった。
「・・・・・・行かなきゃ・・・。」
それでも俺は恐れを知らない戦士のように戦い続ける。そうしなければ、きっとこの世界から悪い部分は取り除かれないのだろうから。何処の誰が、たった1人で何が出来る。もしそういわれたら。
確かに1人じゃなにもできない。できるとすりゃ、そりゃー募金活動とか、チャリティーの支援とか、その程度しか見つからないよ。それでもこうして、演じ屋として人のために、世の中のために俺は演じ続けよう。
そして、少なくとも俺の目の前に見える世界だけでも。それは本当に無意味に近いことなのかもしれない。
けれど、それで人が喜んでくれるなら。誰かが救えるなら。
「・・・戦い続けるさ。な、親父。アンタもそうだったんだろう?」
何処からか、爽やかな風が吹きぬけ、俺の頬を包み込むように撫でていった。
きっとそれは、親父だったんだと思う。
「・・・ターゲット確認。」
頭上から降ってきた声に俺は睨みつけ、銃を構えた。
やはり頭上にいたのはライトで、ビルから真剣を構えたままの体勢で一直線に降りてきた。
俺はそれを銃の仕込みナイフではじき返し、ライトと距離をとった。
「どうだい、私の最高傑作、ライトは。」
不意に聞こえてきた声に路地の方へ視線を送ると、そこには金髪とも茶髪ともいえないような色をした短髪の男性が立っていた。
「・・・マスター。」
ライトがそう呟いた。と、いうことは、この男性こそ、あの会社の社長であり、ライトを作った張本人。
「邑上匡弘か・・・。」
「ふぅん。私の名前を知っているのかい。」
俺が彼の名前を呟くと、何がおかしいのかは知らないが、くくっと笑っていた。
「そこにいるライトはね、私が作った最高傑作であり、創造と破壊の結晶なんだよ。」
「理解不能だ。」
「そうだね、まだ君にはわからないだろうな。でも、素晴らしいとは思わないかい?私は自らの手を汚すことなく、人を殺めることが出来るんだよ・・・。そしてライトを介して殺害する様子のデータを回収し、より殺戮のシーンにリアリティを求めることの出来るゲームを作る。それに、ライトがいれば、不要な者は簡単に壊せる。」
そう言う彼の顔はとても歪んでいた。もはや、思考回路が正常ではない。彼は二次元の世界に入り込みすぎて戻れなくなっているのかもしれない。
「狂ってる。そして、アンタは可哀想な存在だ。」
俺がそう言うと、彼は更に顔を歪め、ライトに命令を放った。
「殺せ。ライト。」
「御意のままに。」
ライトが再び真剣を構えて切りかかってくる。俺はソレを避けて、何とかならないものかと銃弾を打ち込んでいくが、やはりどうにもならない。
苦戦していると、横から発砲されて、わき腹を打ち抜かれた。
「・・・っく・・・はぁっ・・・。」
「ふふ。愉快だ。」
社長さんは拳銃を構えてこちらに銃口を向けていた。狙撃はどうやら彼だったらしい。
その間にも切りかかってくるライトの攻撃を避けながら、俺は社長さんの拳銃めがけて発砲した。
しかし、特に銃にこれといった変化が見られないためか、社長さんは腹を抱えて笑い出した。
「ははは!君は本当に愚かだな!まともにターゲットも狙えないなら、拳銃など持つな!」
そう言って社長さんが俺の頭目掛けて拳銃の引き金を引いた。
しかし、銃弾は飛び出すこともなく黙っている。
「な・・・に・・・?まだ銃弾は入っているはずだぞ・・・?」
困惑した様子で何度も何度も引き金を引く社長さんにおかしくなって、俺は笑いながら言ってやった。
「ふふ・・・社長さん。俺が打ち抜きたかったのはアンタでも拳銃でもない。その中だ。」
「な・・・っ!?」
そう、俺が銃弾を打ち込んだのは社長さんの銃口の中。俺の銃弾が詰まって、中の銃弾が飛び出すことが出来ずにいるってわけ。俺の銃撃の腕舐めんなよ?
そう余裕の表情で社長さんをみていると、ライトがまた切りかかってきた。
それをまた避けたのだが、俺は油断していた。ライトは仕込みナイフをグローブの下から飛び出させ、それで俺に切りかかってきた。

・・・カランッ・・・

そう音を立てて左目の部分だけ、仮面が欠けてしまい、変装用の特殊メイクもそこからはげ始めた。
「・・・その下に貴様の素顔があるのだな・・・楽しみだ。」
「・・・ライト。俺はお前を絶対に・・・解放してやる。」
「解放?ふん、何を馬鹿なことを・・・――」
余計なことを喋ってくる社長に向けて片方の銃で威嚇射撃をした。
すると、社長さんは素直なものですぐに黙り込んだ。
ライトが真剣を構え、俺が二丁銃を構え・・・同時に路地へと飛び出し、追いかけあいながらの攻防戦が始まった。
大分空も明るくなってきた。卒業式・・・間に合うかな。
通勤・通学をし始めた人がこちらをみているが、もうこの際通報されても構わない。
ライトは俺以外は狙う様子はないようだから、なるべく付近に人がいないのを確認しながら、人気のない場所へと誘い込んで行っていたのだが・・・そろそろ俺も限界、かも。
肩も切られてるし、脇腹からはかなり出血してるし・・・肺も苦しい。
「・・・っ・・・。」
目眩がしてきて、思わずよろけたのをライトは見逃さなかった。
「ぐああぁっ・・・!!」
彼の真剣が俺の腹に完全に貫通した。まるで串焼きのように。おいしくないって俺・・・。
「・・・。」
無言でライトが串刺しになったままの俺をそのまま真剣で持ち上げるものだから、もう悲鳴にならない痛みが走る。
痛いんだか熱いんだか・・・もうわけわかんない。
ただわかるのは、出血多量による感覚の麻痺と、こいつを、ライトを止めること。もうそれだけしか頭になかった。
「・・・ライト、・・・っ・・・アンタは、本当に・・・人・・・殺して・・・いい気持ち・・すん・・・のか・・・?」
「・・・私はそういう風にプログラムされている。」
「そう・・じゃない・・・・・・いくら、アンタが・・・人でなくて・・・も、・・・アンタにも・・・意思・・ある・・・違う・・か・・・?」
「意思・・・?」
訳がわからないといった様子でライトは眉を寄せた。
はは、確かにそうかも。この人ロボットなのにね。どうして俺、ロボットに説得してんだろ。自分でもよくわからないや。
ただ、もしかしたら、俺たち人間が気づいていないだけで、ロボットにも感情があるんじゃないかなって。なんかテレビで紹介されてた人型ロボットとか映画に出てくるロボットとか見てて、そう思ってたんだ。ずっと。
「そ・・・う、意思。」
「・・・私は・・・私・・・は・・・・・・。」
「ライト・・・。」
彼の名前を呼ぶと、彼は何処か悲しそうな表情でこちらを見つめた。やっぱりこいうの見てると、喜怒哀楽とかあるんだと思うんだよね。
そっと彼の頬に手を伸ばして、優しく触れた。そこから感じられるのは人間らしいほのかな体温と、少し違うけれど、似たような肌の感触。
「俺、アンタの・・・友達、に・・・なりたいな・・・。」
そう言葉をかけると、ライトの光りを失ったような瞳が何処か輝きを取り戻したように感じた。義眼だからそんなはずはないのかもしれないけれど。
「・・・人を殺めるのは・・・嫌だ。とても恐ろしい。殺めた事実がデリートされてしまえばいいのに。そう思うことがある。」
「うん・・・。」
ポツリポツリと、ライトが言葉を紡ぎだした。それを俺は吹っ飛びそうな意識のなかしっかりと聞いてやる。
「私の手は・・・真っ赤に染まってしまった・・・こんな私でも、許されるのだろうか・・・?」
「うん・・・。許される・・・よ・・・ライト・・・が悪い・・わけじゃ・・ない。」
「・・・私を友と呼んでくれるのか・・・?」
「・・・うん・・・・・・友達・・・だ・・・よ・・・――」
ああもう駄目だ。すごく眠くて敵わない。血が足りないんだよ・・・。ごめんなライト、最後まで話聞いてやれなくて。
ちょっとだけ寝かせてくれないか?本当、ちょっとだけだから。ああ、卒業式もうすぐだっけ・・・間に合うかなこれ・・・開式8時だからさー・・・5分前にでも起こしてよ。
「・・・おい、しっかりしろ・・・。」
ライトが揺さぶっている・・・と、思う。けど、俺の意識はそこでぷっつりと途切れた。

* * *

そこからのことはなにも覚えていないのだけれど、相変わらず無表情だが、一生懸命に俺を起こそうとしているライトの姿を、まだ生存していたらしい雅さんが見つけて病院へ搬送してくれたそうだ。雅さんもかなりの重症で、あったにも関わらず、自分より俺の心配をしてくれてたそうだ。ついでに、あの社長さんは捕まって、会社の方は勿論消滅したそうだ。まぁ、これは後日聞いた話なんだけれどね。
そして、今、目を開けば、白い天上と白いベッド。そしてベッドの横に置いてある椅子に座って俺の寝ているベッドにうつぶせになって眠っている・・・いや、多分これ寝てるんじゃなくて充電中か停止状態にあるのかもしれないけれど、ライトが視界に入った。
「・・・生きてる・・・。」
自分の体に触って確認をしていると、ライトが目を開けてこちらを見ていた。
「・・・おはよう、ライト。」
微笑んでそう挨拶をすると、ライトは何処か困ったようにオロオロを視線を泳がせた。
あ、でもとりあえずはナースコールを鳴らしてくれたよ。
「おはよ・・・う?」
「うん。おはよう、ライト。目覚めたときの挨拶だよ。」
「そうか・・・。」
理解したらしく、ライトは小声で、おはようと何度も呟いていた。
「全く・・・深手を負いすぎなんだよ君は。」
左のベッドとを仕切るカーテンが開いたかと思い、そちらを振り向けば、腕に包帯と目に眼帯をしている雅さんがいた。
「生きていたんですか!」
「まぁね。ちょっと負傷しちゃったけれど、僕、あの程度じゃ死なないよ。演じ屋の中で不死鳥の雅と呼ばれるこの僕がそう易々と散るわけがない。」
「あー・・・はいはい。」
「流したね。」
そうやって冗談をいい、笑いあっている間にお医者さんが駆けつけてきた。
俺の容態を確認しつつ、どういった状態で運ばれてきたのかとか何日寝ていたのかとか教えてもらった。
「・・・一週間デスト・・・?」
「そう。君は一週間も眠ったままだったんだよ。一時はどうなるかと冷や冷やしたよ。」
お医者さんがかなりマジな感じでそう言ったので、それほど俺はヤバイ状態だったということが推測される。
いや、本当・・・生きるって素晴らしいね。生き延びてよかった。
「あ・・・結局卒業式行けなかった・・・。」
深いため息をついて肩をがっくりと落とした様子の俺を見て、ライトが服を引っ張ったので何かと思い顔を上げれば・・・
「今から卒業証書を貰いに行くぞ。」
とか言われちゃったんだけど。
無理じゃね?え?ライトさん本気なんですか?いやいやいや。俺まだちょっと立てないんですけど。今確実に体動かしたら口から血の噴水だよ?傷口開いちゃうよ?
「案ずるな。私が連れて行く。」
「・・・うわぉ。王子様みたいな宣言。惚れていいですか?!」
「構わない。」
「・・・すみません。冗談です。真顔で答えないでください。」
小さくライトが笑った気がした。
ライトは軽々と俺を持ち上げて、車椅子に乗せると、何故かロビーで車椅子を止めた。
わけが分からずにいると、突然、肩をトントンと叩かれ、振り返ればそこには、達也とクラスメイトの皆がいた。よくみれば、母さんに担任の相沢先生、校長先生もいる。
「おはよう、昶。」
「・・・・・・おはよ・・・。」
キョトンとした様子で達也を見上げて、そう呟くと、達也は飛びっきりの笑顔を向けて、俺の頭を撫でくり回してきた。
嬉しいような、不愉快のような・・・。
「ったく!お前は本当に寝坊助だな!」
「・・・。」
でも、やっぱり嬉しい。本当に、あの日は死ぬかと思ったんだ。もう二度と皆に会えないかもしれないって思ってしまうほど恐ろしくて・・・でも、こうしてまた皆と会うことができたし、ライトももう大丈夫みたいだし、友達になれた。
「ちなみに、貴方が演じ屋とはばれていませんよ、ただ、事件に巻き込まれていた友人を助けようとしたらこうなったと、ごまかしておきました。」
背後で雅さんがそう呟いた。それの言葉を聞いてライトも隣で頷いた。
そっか・・・。2人ともありがとう。
「卒業証書授与。3年Ⅰ組、喰牙昶。」
病院のロビーだというのに、校長先生は高らかに卒業証書を読み上げた。
「はい!」
病院で受け取る卒業証書なんてなんか変な気分だったけれど、みんなの思いがとても嬉しかった。
俺一人だけ写真に写っていないのはおかしいということで、不謹慎ながらも病院側にお願いして写真を撮らせてもらった。
達也が貸してくれた制服の上着を羽織って、皆で卒業証書を持って、笑顔で一枚。
そして母さんと担任、校長先生に雅さんとライトも加わって、もう一枚。
何処の卒業生よりも強い絆で結ばれている素敵な写真ができた。これは、皆の宝物だねって、クラスの誰かがそう言った。

* * *






「さてさて。お仕事だね。」
「今回の任務は花嫁を逃がしましょう~♪大作戦ってか。」
「・・・問題ない。全力で応えよう。」
あれから数年後。俺たち演じ屋家業はまだ舞台から降りることなく、寧ろ、仲間にライトを加えて活動している。
どんなに危険だろうとも、せめて目の前に広がる世界が悲鳴を上げるのならそれだけでも。
ちっぽけな努力といわれようが構わない。それで誰かが喜ぶのなら。
「・・・さてさて。一発華麗にやりますか。」
「そうだね。」
「了承した。」


『よかった、あの子元気そうじゃない。ね、貴方。』
湖の水面を白い足でけりながら、白いワンピースを着た女性が、陸のほうで腰を下ろしている男性に問いかけると、男性はニッと笑ってみせて自慢げに言った。
『当たり前だろう。俺たちの息子だぞ!』
『でも最後まで伝えられなかったのは父親だけは、本当に昶の実の父親だってことくらいね。』
『そうだな・・・あの頃俺は狙われていたし、お前は病死で先に逝ったからな。施設に預けるしか安全な方法がなかったんだ。・・・あいつがこっちに来る日には謝らないとな。』
『そうね。』


俺、ちゃんとわかっていたよ。
いつも夢にでてくる女の人が母さんだって。心のどこかでずっとそう思っていたんだ。
いつも語りかけていたんだよね。夢の中では忠告していたんだろ?『危ない、気をつけて。』って。
親父もいつもすぐ側で見ていたこと知っていたよ。
いつも風になって俺の周りにいるもんな。
もう大丈夫だから。俺、1人じゃないからそんな過保護にならなくたっていいよ。





演じ屋になれてよかった。

だって、そうだろう?


こうして皆と繋がれたから。

舞台3

第3舞:クライシス

最近頻繁に見るようになったよくわからない夢。
いつもそれは水面に落ちる一粒の雫から始まる。
儚い音を立てて雫は水面に落ち、一気に視界は広がり、湖の周りを木々が囲んでいる風景。
その湖の上に1人の女性は白いワンピース着て、ヴェールのようなものを被っているためその素顔はよくわからない。
けれどいつも何かを呟いている。
『          』
貴女は誰?どうしていつも俺の夢に出てくるんだ?俺に何を言いたいんだ?
そう問いかけようとするけれど、俺の口からは声は出ない。
強い風が吹き始め、視界が悪くなる。
その時が現実に戻るとき。
「・・・また、か。」
結局誰なのかわからない。ただ、何処か懐かしいと思うんだ。
「昶―!今日は昶が朝の当番だったでしょー!」
「・・・ヤバッ!!」
すっかり忘れていた。今日の朝食の当番は俺じゃないか。ちなみに俺の家では俺と母さんで交互で食事当番をしているんだ。ここのところ任務を詰めに詰めて働いていたため疲れていたのか、かなり熟睡してしまっていた。
普段起きる時間は7時でそれから朝食を作るようにしているのに今日はもうすでに8時。よかった学校休みで。
素早くその辺りに放置していた洋服に着替えると、キッチンへ向い素晴らしい速さで朝食を作り上げた。
今日のメニューは麦ご飯に切干大根の味噌汁、ほうれん草の胡麻和えにこの間作り置きしておいた一文字のぐるぐるがあったからそれを。うーん俺主婦に勝てる気がする。
「昶料理上手くなったわよねー・・・もう私料理放棄していいかしら?」
「止めてくれない?そういうの止めてくれない?母さん一度放棄すると他のことにも連鎖していくから嫌なんだよね。」
「もう、冗談よじょーだん。」
「母さんが言うと冗談に聞こえないんだよ・・・目がマジだしさ・・・。」
他愛もない朝の会話。これが成り立つまでにどれだけの時間を要しただろうか。
振り返れば、俺には親など存在しない。
出会った頃には喰牙の息子だと雅さんに言われていたけれど、親父は俺の実の父親ではないし、今目の前で幸せそうに朝食を食べている彼女も俺の実の母親ではない。
俺は元々孤児だ。施設に入ったのは物心つく前であったので自分の両親の顔とか全く持って知らない。つか、覚えているわけもない。
ママ先生がいる施設が俺の本当の家で、そこにいる子供とママ先生とパパ先生が自分たちの両親だと思っていたけれど、幼稚園へと通わせられている時、他の子供の母親から発せられた言葉を聞いて初めて分かった。
『あの子、捨てられていた子らしいわよ。』
『じゃあ両親もいないのね。』
俺には両親がいないということを。捨てられたという事実を。
それから塞ぎ込んだ俺にママ先生もパパ先生も手を焼いていたけど、ある日今の親父が来て、俺を引き取って、この家に連れてきた。
その時すでに母さんもこの家にいたんだ。普通なら男女間で夜の営みで子供を授かればいいのにと今では思うけれど、彼女にはそれができない理由があった。
なんでも元から子供が授かりにくく、授かっても流産が続いたそうだ。
そんなある日、親父が施設の前を通りかかった時、遊ぶ子供たちの中でただ1人、何処を眺めているのかわからないといった様子の俺に目が留まったらしい。
引き取られた当時は他にも子供はいただろうにと思っていたけれど、今では引き取られて良かったと思う。
きっと親父との出会いがなければ母さんとも出会えなかったし、雅さんにも、理沙にも、クラスの皆にも会えなかっただろう。
「・・・明日か・・・昶の卒業式。」
「あ・・・そうだったね。明日か・・・。」
早いものでもう高校を卒業しなければならない。
冬休みくらいから本当色々あったなー・・・とか思っていると、携帯が鳴った。
着信は雅さんからだった。
「最近携帯よく鳴るわねー・・・彼女?」
「うーん・・・彼氏?」
「うそっ!?昶いつからソッチの世界に飛び込んでたの!?」
「冗談だってば。ごめん、後片付けお願い。」
母さんは頷いて了承したので、食べ終わった食器を水につけておいて俺は急いで外へ出て電話に出た。
『おっそーい!!』
「すみません・・・。あの、それで何か?任務でしょうか?」
『うん。今回はもしかしたら苦戦するかもしれないんだけど・・・。』
今回の任務は大手ゲーム会社の裏事情を探るというもの。なんでも今夜がその会社の50周年記念らしく、パーティーが都心部のツインタワーで行われるということで、雅さんとの任務となった。
『ごめんね、明日卒業式なのに。うちの家業はたとえ表向きの仕事で明日重要な会議があろうと、取引先との打ち合わせがあろうと、関係ないらしいから・・・。』
「いえいえ、大丈夫ですよ。それじゃあまた夜に。」
俺はそこで電話を切り、自宅に戻って準備でもしておこうと踵をかえそうとしたのだけれど、聞きなれた声に呼び止められた。
「あっきらー♪」
「達也・・・!」
3年生だけは卒業式までしばらく休み期間に入っている常態なので、久しぶりに達也の姿を見た気がする。
しばらく見ないうちになんだか髪の毛のセットの進化が進んだ気がする。
何故Bボタンを押さなかった達也。
「なぁなぁ、昶今暇?暇だよね?引きこもり自宅警備員の昶くんは暇に決まってるさ!つーわけで、後ろに乗りなッ☆」
「俺何も言ってないよね。一言も暇なんていってないよね。つか引きこもり自宅警備員ってなんだよ馬鹿にしてんのか?別に引きこもってるわけじゃないパソコンで株の推移を見ているだけだ。」
「・・・普通の高校生はそんなことしませーん。もう早くしろよな!!」
痺れを切らしたのか達也は俺の腰をガッチリホールドすると、担ぎあげた。
流石の俺もこれは恥ずかしい。嫌だ!近所の奥様方が見ている!!ほら、ヒソヒソなんか言ってるじゃん!回覧板で口元隠してなんか言ってるじゃん!
「ちょ!馬鹿、止めろ!馬鹿達也!!」
「嫌よ嫌よも好きのうちってな?さぁお嬢様、しっかり掴まってないと落ちますよ、と。」
ゴーグルをして、達也はエンジンをかけ、バイクを運転し始めた。
流石に降りれないので、仕方なく、俺は達也の腰に掴まったのだけれど、掴まると同時に後方から奥様方から黄色い悲鳴が・・・否、雄たけび声が聞こえた。あれだ。多分あの人たち貴腐人だ。なんか受けとか攻めとか聞こえるもん。
なんだか嫌になってきた・・・。もう俺この町から消えたいかもしれない。
はぁ・・・と、大きなため息をついて俺は仕方なく達也に掴まって、流れに身を任せた。
しばらくして、体を揺さぶられている感覚がして、目を開くと、呆れた様子の達也が背中で眠りこけていた俺を片手で支えていた。
「おいおい、いくらなんでも眠り姫にはなるなよな。急に体が傾いたからビビッたぞ。」
「ごめん、なんか最近疲れててさー・・・。」
「俺は子供を向えに行ったお母さんじゃないんだぞ。ったく。」
バイクから鍵を抜いて、達也が降りたので、もう着いてしまったのだろう。
辺りを見渡せばなんだか見慣れたような場所だけれど、暗くてよくわからない。
きょろきょろと辺りを見ていると、突然後ろから目隠しをされたものだから、ビックリしてバイクから落ちそうになったが、達也が受け止めたらしく衝撃はなかった。というか、なんか抱き上げられているのかな・・・体浮いている。
「達也?なにこれ?ドッキリ?ドッキリなのかな?つか降ろして欲しいなー・・・みたいな。」
「まぁまぁ。ちょっとしたサプライズ?」
意外と達也は力が強いな・・・腕から抜け出せない・・・。
仕方なくそのままの状態でいると、何処かの扉がガラガラと音を立てて開かれるのが聞こえた。
降ろされたのは多分椅子。うん、多分これ椅子だよ、パイプ椅子かなんか。
「さて、じゃあ目隠しさん取り外しまーす!」
何処か楽しそうな達也の声と同時に目隠しは取り払われた。
若干ぼやける視界がしだいにはっきりしてくると、そこは学校の教室だと分かった。
「そんじゃーこれより、喰牙昶ちゃんのー!お誕生日をお祝いしちゃいまーす!!」
そう達也が叫ぶと同時に、廊下からクラスメイトが雪崩れのように入ってきて、クラッカーを鳴らしたり風船を飛ばしたりしてきたものだから、すぐに状況を理解できなかった俺はクラッカーの音にビックリしたまま固まってしまった。
「・・・た・・・誕生日?」
「そう。お前今日誕生日だろう?」
「・・・あ、ああ、そっか。忘れてた。」
任務続きの日々だったもんだから、今日が何日なのかすらよくわかっていなかった。
よく考えたら明日が卒業式なんだから、2月の最後って今日だもんな。そうだよ。俺今日誕生日だった。
「昶、誕生日おめでとう!!」
「・・・ありがとう。」
まさか皆で祝ってくれるとは思わなかったから、嬉しさは倍増だ。
思わず知らず知らずのうちに微笑んでしまう。
「そんじゃ、今日の主役は昶だかんな。Happy Birth Day!!My Sweet Honey!!」
「俺お前の愛人とかじゃないから。」
相変わらずふざけたままの達也に一発グーで頭を殴った。が、正直嬉しくて照れ隠しなのは多分達也にはばれているだろうな。くくっ、と変な笑いを漏らしながら、達也はなんだか随分不恰好で甘ったるそうなケーキを切り分けてくれた。
最初は俺の誕生日を皆祝ってくれていたけれど、やっぱり久々に皆会ったものだから、休み期間中にあった様々なことを話したくて、まるで休み時間のようになっていた。
その様子をまるで遠足にでて遊んでいる生徒を見守る先生みたいにしばらく眺めながら、他愛もない話を友達としていると、雅さんから着信が入った。
「・・・春風雅?何々彼女?」
「いや違うから・・・。」
否定した俺の声は女子の黄色い悲鳴でかき消された。
まぁ・・・とりあえず電話に出ることにした。
「はい、喰牙です。」
『さっき言い忘れていたんだけど、受付が午後6時からなんだけどさ、流石にそこから都心部に向うには時間かかるから早めに準備して。落ち合い場所は・・・――』
落ち合い場所を言おうとした雅さんの声が遠のくのを感じ、携帯が手から奪われたのが分かった。
横を向けば達也とその他男子が興味津々といった様子で耳を傾けている。
「雅さんですか!?昶の彼女ですか!!?」
『・・・・・・。』
電話越しに感じる雅さんの微妙な感じの気配というかなんというか。すごく怖い。後で起こられそう。
「あの・・・電話かえしt・・・」
「彼女ですか?!」
『ええ、私昶の彼女なのー♪』
えー?!この人乗っちゃったよ!声色女性に変えてこいつら騙しちゃったよ!ついでに俺の心もブレイブブレイクされちゃったよ!!
「ちょ・・・返せ!!」
達也から携帯を奪うと俺は足早に教室から出て、人気のない鶏舎の裏まで走って逃げた。
「彼女にされちゃったねー。」
「・・・!なんでここにいるんですか・・・。」
鶏舎の裏には何故か雅さんが黒のスーツをびしっと着込んで立っていた。というか、何故こんなところにいるんだ?
しかも何か準備万端といった様子でアタッシュケースが足元に2つ置いてあるし。
「何でといわれても・・・受付に間に合わなくなるから迎えに来たんだよ。ほら。」
ほら、といわれて投げ渡された片方のアタッシュケースを慌てて受け取る。なんだろう。アタッシュケースの重さを引いたとしたらかなり軽い。
「早々に着替えてください。近くのショッピングセンターの駐車場に車を待たせてあります。中身はスーツです。貴方の体形に合わせて作ってありますのでサイズはぴったりのはずですよ。」
「うわ・・・すげぇ。」
ケースを開けると俺専用らしい黒のスーツと仮面が入っていた。素早くそれに着替え終わると同時に雅さんが携帯で車を呼んでいるらしく、すぐに裏門に回るように促されて、荷物を持つを足早に移動した。
裏門に待っていたのは黒のリムジンで、今の俺の格好からぱっと見周りからはマフィアか何かじゃないのかと疑われそうだなとか思ったのは心のタンスにしまっておこう。
背中を押されてリムジンに乗り込み、俺たちはツインタワーに向って車を走らせた。
「・・・昶・・・?」
その時、1人の生徒が俺の後ろ姿を見ていたなど露知らず。

* * *

二時間後、丁度6時からの受付に間に合った俺たちは、偽名をスラスラと書き終えると、ホールへと足を向けた。
ホールへ向えばそこには豪華な料理と豪華な家具、貴族っぽいいかにも上層クラスの人間がうじゃうじゃと蟻のように群がっており、社長が訪れるのを今か今かと待っている。
なんつーかもう下心丸見えなんだよな。汚いよな上層クラスの人間は。
とりあえずまだ人気が少ない二階へ移り、互いにワインのグラスを片手にいかにも楽しそうに話をしていますよ。と、いった雰囲気をかもし出しながら、これからの流れを打ち合わせした。
この後社長が出てくると、しばらくの演説があり、その後ステージでは新作ゲームソフトの体験等が始まるそうだ。それと同時に1人はこのツインタワーの6階にあるメインコンピューターの中にアクセスし、情報を入手する。もう1人は会場にいる招待客の中からこの会社のことを色々聞き出す。そういうことになった。
後はどちらが会場か、本社6階かということだ。
「よし、僕が会場で情報を収集しよう。僕の女装で魅了されない人なんかいないんだから。それに君はハッキングできるだろう?」
「そうだな・・・じゃあ俺が本社へ乗り込もう。」
ワイングラスを鳴らす。それがミッションスタートの合図。
雅さんはすぐにスーツを翻し、女装した状態になるとホールへ降りていった。俺も、本社の入口手前までくると、トイレの中ですぐにビジネススーツに着替え、他人に扮装して本社へ乗り込んだ。
本社の社員が普段入ってくる正面玄関があるのはビルの3階だ。それ以下は先程のホール会場と、会議室・倉庫等があるだけで普段は使用しない。
一応一般社員に扮装しているのでこのままエレベーターで上がった際見つかってしまっては不味い。屋外の階段があるようなのでそちらから3階まで上った。
ちなみにこのツインタワー・・・屋外階段で登る1階分の階段の量は通常の2倍らしく、2階分登ってやっと1階らしい。
ある意味登るのが苦行だった。足が死ぬって。どういう構造してるんだよこのツインタワー。違法建築だろ。そうなんだろ?社員に対する優しさが感じられないよ。
ぶつぶつ文句を呟きながら3階・・・およそ6階分の階段を上り詰めると、扉に『Ⅲ』と書かれた扉がやっと現れた。
扉の向こうからは人の気配は感じられない。辺りにいる様子でもないようだ。
そっと扉を開けて、中へ入ると、俺は6階を目指して足を進めた。
なんというか、流石ゲームソフト会社というか。オフィスでは真面目にゲーム製作に取り組んでる様子の人もいれば、なんか・・・恋愛シュミレーションゲームをしながら「フラレタ・・・。」とか呟いて落ち込んでる様子の人もいる。
あ、あの背景グラフィック描いてる人のTシャツすごくシュールだな・・・『肉食獣?いいえ、草食獣です。』だって。ベジタリアン宣言のつもりかなあれ。
「・・・。」
かなりのほほんと通り抜けてエレベーターの前までたどり着いてしまった・・・。
いや、だってね、社員の皆さんオフィスから出る気配すらなければ、動く様子もないんだよ。
むしろ・・・皆さんゲームに熱中してるんだよね(;´∀`)
・・・まあ、とりあえず乗ろう・・・。
一方その頃の雅さんだけれど・・・―――
「ねぇ、社長の何処に貴方は惹かれていらっしゃるの・・・?」
艶やかな声色で男性共を魅了し、惜しみもなくふつくしい美脚をさらけだして女性を演じきっていたそうな。
その間に俺はもう6階についているわけでして、今現在メインコンピューターのある部屋を探しています。
廊下の左右に立ち並ぶ扉は3階のオフィスのように中が見えるような仕組みにはなっておらず、なんだかちょっとワンランクアップしたような素材の扉です。あれです、校長室の扉並みのレベルだと思います。
「・・・。」
とりあえずそれっぽい部屋を2、3開けていくうち、いかにもメインコンピューターといった感じのパソコンを発見した。
なんで分かるのか?そりゃそうだろ。だって学校のパソコン質にあるような普通のパソコンとは違い、一台だけなぜかタワーの部分が透明で中の部品見えてるし。
パソコンの電源を入れてしばらくいじっているとパスワード認証が出てきた。
俺は改造したプロスタイルの携帯とメインコンピューターをリンクさせてハッキングを始めたのだけれど・・・誰かの気配がした。
振り向けばそこには、1人の男性が立っている。整った顔に薄い青の瞳と灰色の髪の毛がとても印象的だったが、今はそれ以上感想を述べている場合ではない。見つかってしまったのだから。
「・・・部外者確認。排除します。」
「?!」
なんとも機械的な言葉を呟いたかと思えば、目にも止まらぬ速さで俺の懐まで踏み出して、拳で腹に重い一発を打ち込まれた。受身も取れずに俺はそのまま吹き飛ばされて、後方にあった別のデスクに強く体を打ち付けた。
「・・・っ・・・なんだ・・・アンタ・・・。」
「・・・私はこの会社の警備員、ライトだ。IDを持たない社員を1人認証した。それが君だったから排除しにきたまで。」
ID・・・?IDってなんだよ。ってか・・・スゲー痛い。人に殴られるのってこんなに痛くて、殴る拳もあんなに重いものだっただろうか・・・。何か変だぞこいつ。
ふらふらした状態で立ち上がり、俺は二丁銃を構えた。それを見てか、ライトの表情は変わることはなかったが、若干瞳が揺らいだように感じた。
「銃刀法違反です。」
「いやいや、アンタも何気に腰に真剣さしてるっぽいけど?」
「・・・そうですね。でもそれは私には関係ない。私はそうマスターに命令されているにすぎない。」
そう言うと、ライトは真剣を鞘から抜いて構えた。
俺も銃を構えなおして、戦闘態勢に入る。それと同時にライトは構えたままの状態で俺のほうへ物凄い速さで踏み込んできた。
それに対して俺は一発発砲をする。音を光り、それと多少の衝撃だけであったがそれだけでも十分だ。
俺は動きにくいビジネススーツを脱ぎ捨てて、戦闘用の動きやすいスーツに早着替えをし、顔を見られないように仮面を被った。
流石にメイクで他人の顔をしているとはいえ、さっきの衝撃で少々メイクがはげかけている。素顔を見られては大変だ。
「・・・貴様何者だ。」
「ナマモノだが、何か。」
そう言ってやると再び切りかかってきた。俺は二丁銃に仕込まれている近距離用のナイフを出して、刃を受け止めると、驚いた様子のライトの腹に蹴りをお見舞いしてやった。多少吹っ飛びはしたものの、やはり何か違和感がある。
人間の体ってこんなにも重いというか・・・。
「変わった武器なんだな。」
「そりゃどーもー!!」
余裕の表情でこちらを見ているライトの太ももに一発銃弾を打ち込んで、立てないようにしてやろうと発砲したのだが・・・ライトは平然とした表情でこちらをみている。
「・・・な・・・っ・・なんだと?!」
普通なら足の力が抜けて崩れ落ちるか、悲鳴を上げてのたうちまわるところだろうが、ライトはどちらでもない。
むしろ、弾は当たっていないとでも言った状態。
何なんだ。さっきからこいつなんかおかしいぞ。それに、銃弾を打ち込んだところから一切流血すらしていないだなんて・・・・・・・・・流血しないだと?
「お前・・・人間じゃないな?」
「やっと気がついたか。」
そう言ってライトは自分の腕の皮膚を剥いで見せた。
なんとも痛々しい光景に思わず目を瞑りたくなるが、そうも言っていられない状況下。
だが、見せられて驚いた。皮膚の下から見えたのは、筋肉でも流出する血でもない。鉄で出来た腕。
「・・・ロボットか・・・!」
「私は、マスターに部外者の排除を命令された始末用のアンドロイドだ。」
そう言ってライトは真剣を構えてこちらをじっと見つめてきた。
何だ。俺に何が言いたい。
「よかったな。私を見ることができて。」
「良かったなんて思ってないね。むしろ不運だ。最悪だ。つか、ロボットのくせにナルシストなんですか?」
なんだか・・・ナルシスト発言のように聞こえたのでそう言ってやったんだけれど、それを聞いてライトは何故か微笑していた。なんだか気持ち悪い・・・。あんまりいい気分はしないな。
「・・・私は・・・」
そうライトが主語だけ呟いたと同時にピアスに仕込まれていた通信機から雅さんの声が響いた。
『昶!今すぐそこを離れて!そいつは!昶の目の前にいるそいつは・・・――!!』