新年1月の中学生コースでは、藤沢周平の『時雨のあと』(新潮文庫)を扱っている。
文学書の中に1冊は「時代物」を配当すべきだと思い、選んだ短編集だ。
だが一体、中学生達に藤沢周平の描く「人情」が分かってもらえるのか、という不安はある。
昨年の今頃は、この「時代物」の選書で迷っていた。
山本周五郎か?池波正太郎か?藤沢周平か?・・・と。
私は藤沢周平ファンなので、藤沢作品にしたかったが、個人的な嗜好で決めることに気が引けていた。
その頃、児童文学者の斎藤惇夫さんに出会った。
「藤沢周平の作品を、どう思われますか?」と正直に尋ねると、「ああ、私も藤沢周平は好きですよ」と答えて下さった。
そして、きめたのがこの短編集だった。
今月6日は、中学生達との今年最初の授業。
中学生コースで文学作品を扱う時には、自由に〝書評〟を書いてもらっている。
先ず、読んできた作品の感想を出してもらった。
その中でもK(中1・女子)の感想は象徴的だと思えるので、紹介したい。
*作品「雪明かり」に対して
後妻の連れ子だった妹の由乃が、父母の違う兄を愛してしまったことは分かるが、
どうして江戸に一人だけで行こうなんて思ったんだろう。
それに、どうして一人で決めてしまったんだろう?
由乃に夫がいて、兄に婚約者がいたとしても、兄と相談して決めれば良いのに・・・・・。
*作品「時雨のあと」に対して
最後のほんの僅かな時間で、一瞬に兄・安蔵が改心するけれど、
そうした心が安蔵の中にあったのなら、もっと前に、もう少し反省できたのではないか?
やはり、江戸時代にあった旧い因習や旧い考え方を理解することが、難しいのではないか?と私には思える。
「雪明かり」で言えば、兄・菊四郎は、三十五石の実家・古谷家から二百八十石の芳賀家の養子に入ったため、家柄の違う実家や、(父の後妻の連れ子である)妹・由乃の嫁ぎ先との交流を禁じられる。そして、「家」を守るためにふさわしい相手と祝言をあげる話が進んでいく。
また、由乃は、嫁ぎ先の「家」の中でひたすら家事に従事させられ、流産しても身を休めることが許されないまま、重い病気に臥すようになる。妹と兄は、何年かぶりに町でばったり出会ったことがきっかけで、お互いの気持ちに気づき、ついに、兄は病床の妹を背負い、命を救い出す。
二人は互いに許されない状況下で、それでも二人の情愛を遂げようとする。
妹は、住んでいる土地から離れた江戸に行くことで、跳びきれないでいる兄を誘う。
その妹の意図を受け止めた兄は江戸に行くことを決意してこの作品は終わる。
今の時代の男女が、苦境を乗り越えて情愛を遂げるストーリーであれば、中学生にも(実感は伴わないが)それなりの「理解」はできる。
だが、江戸時代の「家柄」や「男女」に関する旧い因習の中で、「個」と「個」が互いの情愛を成就することの難しさを理解することは簡単ではない。
作品に描かれた江戸時代の描写と、「個」を貫く生き方との双方を重ね合わせねばならないからだ。
主人公達は、ある状況では、追い詰められた感情を抱かざるを得ないだろう。
或いは逆に、「慎ましさ」を装うことになるのかもしれない。
しかし、そうした状況下でも、ひたすらに己に忠実に生きようとする人々の姿が読み手に感動を与えるのだろう。
もしかすると、私が藤沢周平ファンなのも、そうした人々の生き様に共感するからなのかもしれない。
今を生きる中学生達が、藤沢周平の作品に抱いた疑問を曖昧にするのでなく、作品をより深く読み下すことで、江戸時代に人間らしく生きようとしていた人々の姿に、少しでも接してもらえたら・・・と期待したい。
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