推理漫画、といっても「名探偵コナン」と「金田一少年の事件簿」シリーズに絞られそうですけど、まだだれか判明していない時点での犯人の描き方って製作陣サイド自身にもネタにされてますよね。そう、あの頭まで全身黒タイツに覆われたみたいなシルエット。
しかし茶化し一切抜きで、このシルエットは本格ミステリー漫画に表現の幅、他媒体ではマネできないミステリーとしての深さを与える一大“アイテム”ではないでしょうか。確認できないですが、おそらくジャパニーズ・マンガの大発明の一つでしょう。
何せ隠す力の高さがハンパない。年齢、性別、そして人物や動機の同一性すらも。そこそこ優秀なはずの京都府警の警部補も結局は閉じた空間の3つの殺人に過度の関連性を見出したあまり袋小路に入ってしまった感があります。
これ以上書くと『金田一37歳の事件簿』の「京都美人華道家殺人事件」のネタバレになりますが、つまりはそういうことです。今回は焦燥や嫉妬や憎悪が生んだ惨劇の複雑な糸をはじめちゃんが一本いっぽん、偶然にも助けられつつほどいていく上質なミステリーとなっています。
惜しむらくは双子要素が“やっぱり活きてる”ところ。ミステリーに馴染みのない人でもアレは疑えたのでは。ただ、出したからには避けられない定番とも思います。道具を手に入れたら使いたくなる、みたいな。それに、あえて謎の一部に組み込まなかったら組み込まなかったで出した要素が活きてねぇなぁとかミステリーファンや評論家にボロクソ書かれそうだし。こう書いてる私も含めて創り手への最低限の尊厳を守りつつ感想をつづりたいものですね!
さて、京極薫子さんの首を切り落とした理由は、ある意味実に京都らしい。今は昔となってしまいましたが、京都府警本部には研究職でありながら積極的に現場に赴きわずかな証拠から犯人を見つけ出す伝説級の科捜研の女がいましたからねぇ。「(まずい!)」(p.110)と思った瞬間、犯人の脳裏に浮かんだのでは? 亜矢ちゃん、覚悟はあるのか?お母さんはマリコビームを受けたらああいうむごい扱いを受けたご遺体も念のため調べてたんだぞ。
はじめちゃんが今回最後に解いてみせたトリックは、西川貴教さんが受けてきたレベルのいけずだったかもしれません。ウチの母は「こんなのあり?」とブーたれてました。泉下のヒースロー先生はがっかりするんじゃないでしょうか。でも私は好きですよ?コレぞ現代京都って感じがして。京都では一般の御宅でも外壁の下の方に竹を曲げて並べた古風な柵のような構造物が付いているのを見かけますが(犬矢来と言います。覚えておきましょう!)、竹もいいけど茶色く塗ったアルミ製のを見ると生活に密着している感じがしてとても、良い。宮坂羊山先生が理想としてそうな、一般家庭のおばんざいを長年彩ってきた食器に宿っているのと似た美があります。中にエアコンの室外機やガスメーター、土いじりの道具が入っていればなおグッド。生活様式の変化と伝統文化の有機的融合に京都人の柔軟さを見出せます。
赤池流の人々に足りなかったのは、この柔軟さだったのかもしれません。
この間最終回を迎えた「京都人の密かな愉しみ rouge-継承-」のテーマは継承、の難しさでした。京都の街はしきたりだらけ、でもたたむ方が難しい、それでも時代の変化やら少子化やら人口減少やらでポツポツ老舗が消えていく……個人レベルでも話が進みかけたところで女将に胃癌が見つかって三八子さんが怒ったりと大波乱でした。
考えてみれば、赤池流の落ち目の始まりは先代の突然の死でした。聞く限り出来た人物だったようで、後継ぎをきちんと決めたうえでもう一方にもそれなりの道を示してあげられたのではないかと思います。そんな大黒柱が失われ、伝統の重圧に押しつぶされた末の殺人の連続は悲劇的です。「“みんな”色々“やり過ぎ”てた」(p.144、“”中傍点)とは、少年時代に色々見てきたであろうはじめちゃん。ジッチャンこと金田一耕助もこういうのを散々見てきたことは古参の横溝正史ファンからも同意が得られるのではないでしょうか。
まぁそれにしてもやっぱ元凶は雁流先生ですよなぁ。華道の家元以前に人としてアカンところまで堕ちてます。宮坂羊山先生の下でイチから叩き直してもらえばよかったのに。言っちゃなんですが、伊月譽太夫さんより酷い。てか花でダイイングメッセージ遺すなんて華道に詳しくないのにするはずがない!と東京の中年リーマンに看破されるって晩節汚れ過ぎじゃない!?
酷いと言えば、改めて確認させられたのが音羽ブラックPRのブラックぶり。先方で二人殺されてもプロジェクト進められるって判断してたくせに現宗家が死んだらアサイチで帰ってこい!って本当に酷い。ブラック企業って社外にもブラックに振る舞うんだね。まりんちゃん、転職を真剣に考えてくれ、フランス語も中国語もできる君なら一流企業でもやってけるから!
さてはて、この第5巻の終わりがけ、はじめちゃんが直近で解決した3つの殺人事件の資料と共に、ちょっと心配になるレベルにヌケた人物が登場します。真壁より頭いいのは確かなんですよ、自殺と思われたある現場の不自然さを見抜いたうえで密室トリックを暴き殺人の可能性を浮上させたんですから。
そんな現場で見つけた舞台のチケットがこの警視庁のエリートを函館に、はじめちゃん達の次の出張地に招くことになるのだった……というのが、次の「函館異人館ホテル新たなる殺人」のプロローグとなります。
Hay dos tipos de gente en Japón: los japoneses y los kiotenses.
―Edward Heathrow Le Charme discret des gens de Kyoto
(日本には2種類の人間が存在する。日本人と京都人だ。)
(―エドワード・ヒースロー「京都人の密かな愉しみ」)
『金田一37歳の事件簿』(5)
天樹征丸(原作) さとうふみや(漫画)
講談社イブニングKC
高さ:18.2cm 幅:13.1cm(B6、カバー参考)
厚さ:1.3cm
重さ:162g
ページ数:191
本文の文字の大きさ:不定