こんにちは。歳食ったせいか時間感覚が最近おかしくなっている、エドゥアルド・ルイスです。おかげでこのツイタチに投稿した先月買った本リストの文面がひと月ずれてるのに「投稿する」ボタンをクリックしてから気づいて2度も修正する羽目になり散々でした。体のあちこちに不調出てきてるし、そうこうしているうちに伊勢神宮の式年遷宮も10年切ったって聞くし、何ともはや。
そんな私は、金田一少年の20年後を描いた『金田一37歳の事件簿』との相性が案外いいのかもしれません。
少年時代に3度も殺人事件に巻き込まれた歌島を20年後、婚活ツアー遂行の仕事で訪れた金田一一37歳。そこで(案の定)2件の殺人に出くわしますが、残された手がかりからトリックを暴いていきます。剣持元警部(嗚呼懐かしや!)から警察の内部情報を手に入れた彼は、後輩の葉山まりんからある素朴な疑問を打ち明けられたのをきっかけに当初推量していた犯人像をガラリと変えつつ、決定的な証拠を探そうとシャンデリア落下殺人の起こった現場に向かうのですが……。
一(はじめ)「…そうか… 逆だったんだ」
まりん「え? 逆って…どういうことですか? 金田一主任」
一「どうしよう葉山くん…」
(p.19)
この直後、次のページまるごと一コマで『37歳』シリーズを特徴づける決め台詞が続き出版社側からもプッシュされていますが、私としてはここに引用したはじめちゃんの最初の台詞を強調したい。シビれました。難解なパズルに最後のピースがはまったかのように、残された手がかりから事件の全体像が彼の脳内で再構築された瞬間を垣間見たような。古くからのファンも同意していただけるのではないでしょうか。ここから彼自身の口よりその事が宣言されるまでのわずかな時間、タメとも言うべき一瞬が、推理漫画としての『金田一一』シリーズ一番の見せ場と言えましょう。こっからなんですよねぇ。20年後、そして擦れた21世紀前半の世相がモロに出てくるのが。
『金田一少年の事件簿』シリーズは、それ自体パロディの側面があります。昭和の名探偵・金田一耕助の孫という二次創作的かほりのする主人公からしてそうです。横溝正史先生は金田一一を認めてなかった?そらそーだ、発表前に亡くなったんだから。ここで今取り上げている37歳の事件簿は、自身の少年時代もパロディ対象にしている点がさらにおかしみと深みを増しています。
世に出回る推理モノの事件、特に殺人は計画性の高いものが多いです。特に昔の伝承や創作をなぞって殺害方法や現場に工夫を凝らし当事者をさらなる恐怖に陥れる劇的な見立て殺人ともなれば備品を外から持ち込むところからコツコツ準備するのが普通です。が、今回の“ファントム”はその場にあったモノだけでやってのけてます。一流シェフは手元の材料から優れた料理を作るといいますが、行った先に転がってるブツからアリバイトリックを即製して2人殺すとか、手慣れすぎてて嫌すぎる。
あと、動機ね。私が今まで見聞きしてきた推理モノでもかなり短絡的な部類に入ります。荒んでるなあ。20年前はこうじゃなかったよ。犯人達は聞くも涙の晴らせぬ怨みを抱いて、知恵の限りを絞ったトリックを使って復讐殺人をして、はじめちゃんに見抜かれたら自殺なりなんなりして殺人犯なりに自分のしたことにケリをつけてたよ。それが今じゃあんな軽い理由で人を殺めるとか、ハァ、昔は良かった……良くねえよ、あの頃は事件一回起こるごとに軽く3、4人は死んでたぞ。
終盤、はじめちゃんは関係者を一堂に集めて謎解きを披露しようとするのですが、やってきたのは全身黒ベタの犯人だけ。ああいう場面ってポワロのドラマでも見ますけど、よく考えたら犯人も他の人も素直に顔出さないよなぁ。皆さんだったら行けます?殺人犯がうろついてる孤島で唐突に集まってくれと探偵みたいにふるまってる赤の他人に言われて?
そして謎解きが披露された後キレた、いやキレ切った犯人が、はじめちゃんとまりんちゃんを崖に追い詰めます。船越英一郎さんも追い詰められたことはないんじゃないかなぁ。これもまた推理モノあるあるに対するキツいパロディですな。明智警視長が来なかったらどうなってたか……かなり思考飛びますけど、彼があの場にいたら甲斐峯秋さんももっと早く本土の病院に移送されたことでしょう。
反面、20年という時も変化を与えられていない奴もいます。覚えてるぞ、初登場した事件はアニメで見たことある。お前、体重不足からトリック見抜かれてそっから芋づる式に捕まってたよな?どんなトリックだったか忘れたけど! つーか一声も出さずに塀の外の手下に命じて失態を犯した弟子に死の制裁を加えるとかシンプルに怖い。
こんな彼との対話や、まりんちゃんと犯人しか居ない場で推理を披露するときにはじめちゃんの頭によぎったものが、徐々にではなく一つの事件が彼の心に決定的一撃を与え謎解きから遠ざけたことが示唆されています。シリーズ全体の隠し事として気になるところです。
37歳にして久しぶりに事件簿に加わったこの一件は、20年の時を経て変わったもの、変わってないものを古参新参の読者に確認させる役割を担っています。歌島という舞台はこの役割を更に補強していると言えましょう。
さて、そんな「歌島リゾート殺人事件」はここまで。“相性の良さ”から今後問題案件を回されることとなり職場のブラックぶり、更なる波乱の予感を改めて確認させられつつ、第2巻の最後から「タワマンマダム殺人事件」が始まります。被害者(予定)はタワマンマダムの1人、犯人はそのマダムを心底憎むタワマンマダム3人組。推理モノ業界で言う「ハウダニット」ですね。どす黒いものが渦巻き犯人の顔も黒ベタ塗りになるタワマンに、お隣さんの仕事のお手伝いという形ではじめちゃんは又しても何も知らぬまま飛び込みます。彼を先輩として以上に慕うまりんちゃんも合流するのですが、そうとも知らぬあの3人組はどう殺すつもりなのやら。にしてもはじめちゃん、有給はきちっと消化してるのか……そういうところは見習いたい。
¡Se me han resuelto todos los misterios......!
(謎がすべて解けちまった……!)(p.20)
『金田一37歳の事件簿』(2)
天樹征丸(原作) さとうふみや(漫画)
講談社イブニングKC
高さ:18.2cm 幅:13.1cm(B6、カバー参考)
厚さ:1.3cm
重さ:158g
ページ数:191
本文の文字の大きさ:不定