El Despacho Desordenado ~散らかった事務室より~

El Despacho Desordenado ~散らかった事務室より~

2015年1月4日から「Diario de Libros」より改名しました。
メインは本の紹介、あとその他諸々というごっちゃな内容です。
2016年4月13日にタイトル訂正。事務机じゃなくて「事務室」です(泣)。

もし、本ブログ記事内で張られたリンクが切れていてつながらない場合はコメントでお知らせください。コメントは全ての記事で受け付け、かつ即公開される仕様ではございませんので、気兼ねなくお教えいただければ幸いです。どの記事でも構いませんが、当該記事にコメントをつけていただければありがたいです。

こんにちは。大河ドラマ「新選組!」、序盤と終盤を見た覚えが残っている、エドゥアルド・ルイスです。中盤がなんか中だるみしたような感じがしたせいか記憶にないんですよね。まぁ三谷さんも成長し続けているということで。

さてそんな枕から今日は『美ジュアル日本 動乱の幕末に青春を賭けた男たちがいた 新選組が京都で見た夢』を紹介します。最近の世間は平安・鎌倉時代よりになってますけどたまにはね?

 

本書が属する「美ジュアル日本」シリーズは写真に重点をおいています。本書はふんだんなカラーページに印刷されているくっきりとした写真を通して、かつて確かに存在した隊士の見ていた光景を視覚でたどり、あれから変わってしまっただろう風景に儚さを感じる構成です。

 

新選組という組織の知識の入門書としてもグッド。時系列に沿って前身の浪士組が京に向けて出立するところから(本筋が近藤勇たちの生い立ちから始めていないのがさりげにグッド)その終焉までを端折り過ぎず詳し過ぎず、ツボはきちんと押さえた丁度良い塩梅で解説しています。

「新選組」の隊名が「もともと会津藩の軍制のなかにみられる名で、本陣の藩主護衛役のために諸芸に秀でた藩士の子弟三十人を選抜して作られた組織名」(p.52)だったのは知りませんでした。武士でもない者達へ譜代大名がかけた期待の大きさがうかがえます。

奉公が認められて「正式に幕府直参となった」(p.104)のに合わせて豪華な作りの新屯所に移転したのが、慶応三(1867)年六月。この数字は本人達が知らなかっただろうすぐ後の悲劇の悲劇性を高めていますね。夢がかなったすぐあとで、なのですから。新屯所についてのページには新屯所の跡を示す石碑の写真もないのが、何とも寂しいものです。そんな調子で115ページ目からはモノクロに、というのは演出ではなく予算の都合で、と思いたいです。

 

巻末には主要隊員の略歴をつづった名簿と新選組ゆかりの地を示した地図も掲載。若干古いですが、幕末京都のメジャーな切り口にしてプレーヤーのあらましを知るのにピッタリの一冊と言えるでしょう。

 

 

El Shinsengumi era una fuerza de policía especial del último período del shogunato en Japón.

(新選組とは幕末日本にあった特殊警察部隊である。)

 

 

『美ジュアル日本 動乱の幕末に青春を賭けた男たちがいた 新選組が京都で見た夢』

中田昭(写真)

学研グラフィックブックス

高さ:21.7cm 幅:16.9cm(カバー参考)

厚さ:0.9cm

重さ:315g

ページ数:145

本文の文字の大きさ:3mm強

こんにちは、エドゥアルド・ルイスです。今さら本格的な梅雨が到来している中、皆様いかがお過ごしでしょうか。私は、いまのうちに生活スタイルを立て直さないと、すぐ来るだろう猛暑に勝てないかも……うん、なんとかしよう(一番ダメな結論)。

さてでは本ブログの月頭恒例、先月買った本リストを始めていきましょう。

 

まずは、このブログ一年目に紹介した本の増補改訂版。懐かしい! 正直、増補改訂版には二の足を踏んでいたのですがページを開いてみて、最新事情についての記述の充実ぶりから購入しました。

 

『コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった [増補改訂版]』

マルク・レビンソン(著) 村井章子(訳)

日経BP

 

 

 

この一冊、光文社古典新訳文庫の古株ではないでしょうか。随分前に『白い牙』を買ったのですが、この本の続編と知ってからずっと封印していたんです。読み始めているんですが、人でない者の視点がよくある物語手法のはずなのに斬新。殺伐とした雰囲気がどこにいざなうのか楽しみです。

 

『野性の呼び声』

ジャック・ロンドン 深町眞理子(訳)

光文社古典新訳文庫

今日は『世界の傑作機 No. 205 F2Yシーダート/P6Mシーマスター』を紹介します。世傑シリーズの一冊ですが、正直“徒花”という言葉がこれほど似合う飛行機も珍しいでしょう。

1950年代初期、冷戦構造が固まるなか米海軍で採用されたのがSSF構想でした。Seaplane Striking Forceの略の通り、飛行艇を前線の海上に展開して機雷敷設や核攻撃を行なうものです。支援用の水上機母艦を改造・整備するなど、計画実現に向けてかなり具体化されていたのがメイン記事の一つ「SSF構想と、F2Y、P6Mの位置づけ」から解ります。本書の主役、F2YシーダートとP6Mシーマスターはその中核に据えられる……はずでした。

 

しかしこの構想、後の素人目から見ても無理のある計画と言わざるを得ません。支援艦艇の運用方法からして、最も小規模な展開方法として専用に改造した潜水艦を用いるとあったのを読んで、K作戦の焼き直しか?と感じました。飛行艇と潜水艦の現地集合・現地解散を基軸とする運用が上手くいくなら、日本海軍が馬鹿の一つ覚えとばかりに何度もやったはずです。搭載機雷の補充も使用機器や手順が込み入っていて揺れる洋上でこれができたのか?これで核爆弾も扱うの?と図を見て疑問に思いました。どうにも、海の上を“無限に伸びる重量制限が緩い滑走路”と見たてて強引に推し進めた机上の空論にしか見えないのです。

 

戦闘機として計画されたF2Yシーダートは完成度が低すぎて構想の一部として具体化しなかったとありますが、かりに“飛行機”として完成しても“戦闘機”として完成できたのか大いに疑問です。後に出てくる空対空ミサイルは到底積めなかったのでは。機関銃とてそれを積む余裕を確保するためにまた図面の引き直し、なんてことが起こったかもしれません。

まだ芽のあったのが爆撃機のP6Mシーマスターでしたが、機雷敷設や爆撃を行うための機構がどう見ても複雑。陸上機で成功例があるからって「投下にあたっては機雷倉扉全体が一体となって前後軸のまわりに180°回転、搭載した兵装を外部気流のなかに晒した状態で切り離すロータリー」(p.51)方式は、果たして海水に晒された状態で十全に動くのかと疑問に思います。これ以前に水上飛行機として基本的な諸問題を抱えていましたが、先走ったような量産化決定や原子力化(!)への具体的な検討まで行われています。捕らぬ狸の皮算用というべきでしょう。

 

結局、両機はターボジェットエンジンや超音速化といった新時代の航空トレンドを追うのは水上飛行機にはとても無理ということを証明しただけとなってしまいました。だいたい、離着水で発生する飛沫が足を引っ張り過ぎるのです。ざっと40年は時代が下っても飛沫対策が困難を極めるのはUS-2開発の例を見てもよくわかります。

加えて開発に難航している間に蒸気カタパルトとアングルドデッキを備えた次世代空母と高性能艦上機、原子力潜水艦と潜水艦発射弾道弾(SLBM)の組み合わせが実用化したため開発の意義が失われたのも大きかったでしょう。この軍備が極めて強力で実用性が高いのはいまの米海軍が証明しています。

 

従来の飛行艇には無い両機の未来的なフォルムは、水上から飛び立ち活躍する様子を想像したり絵に描く分には楽しいものです。しかしその活躍への道筋は計画当初から狭く、不確かだったのです。

 

本書は誤字脱字が多く目立ちました。定期刊行物の側面のある世傑シリーズには程度の差はあれ毎度あるんですが、今回は粗の目立つ計画に合わせたのかよ、というくらいのひどさでした。新資料発見といった改訂版の出る契機もそう訪れないでしょうから、せめてこうした部分は気をつけてほしかったです。

 

 

La Operación K tuvo lugar el 4 de marzo de 1942, con un bombardeo infructuoso llevado a cabo por dos hidroaviones pesados Kawanishi H8K.

(K作戦は1942年3月4日に実行された。2機の川西H8K(二式大艇)により遂行されたが、爆撃としては徒労というべきものだった。)

 

 

『世界の傑作機 No. 205 F2Yシーダート/P6Mシーマスター』

文林堂

高さ:25.7cm 幅:18.5cm(カバー参考)

厚さ:0.5cm

重さ:257g

ページ数:81

本文の文字の大きさ:3mm

こんにちは。最近「まいにちロシア語」入門編をウチの母と共に聞いている、エドゥアルド・ルイスです。本当にただ聞くだけなのですがなかなかに興味深い。ある場所にとどまっているのか移動しているのかによって格(文中の役割に応じた言葉尻)をたがえるとか。香住の漁師は日ソ漁業交渉で苦労したでしょうねぇ、今はどうあれ「家から仕事する」なるそっくり方言ありますから。

さて、今日紹介する『寄り道ふらふら外国語』は、有名ロシア語講師でありつつ語学全般を人生の一部とする黒田龍之助さんが、仏伊独西の四つの言語に関する自身の体験も交えたエピソードを綴った一冊。

序盤から衝撃だったのが「ロシア文学といえばフランス語。」(p.14)でしょうか。トルストイの『戦争と平和』の冒頭のパラグラフが丸ごとフランス語だってんですから、その浸透ぶりが分かります。
他にも、研究にはイタリア語が必須なスロヴェニア語の方言があったり、黒田先生の出身大学には「鬼のイスパ、地獄のロシア」なる帝國海軍かよ!とミリオタみたいなツッコミをしたくなる格言(?)があったり。「イスパ」とは「イスパニア」語、いわゆるスペイン語の略。なんでこんな独特のタームを使うのかは本書を参照してください。ただ、スペイン語は確かに動詞の活用が多いですが、ロシア語の格変化と比べるとまだ易しい方かなぁ、とは大きなお世話とはいえ申し添えておきます。ついでに言うと先生、エニュではなく、エニェです。

個人的に興味深かったのはドイツ語の、広さ。中・東欧にはドイツ語を生活の言葉としている人が実に多いのが分かります。ドイツにしても『東ドイツの新語』という同学社からの語彙集はいいですねぇ。ニッチな、というか痒い所に手が届くというか。チェコスロヴァキアの古書店に並んでいたドイツ語教科書にまつわる話には、なんというか、学生の生態の普遍性を垣間見たり。
さて、「主人公が外国語を学習する姿を克明に描く物語」(p.82)群に黒田先生が名付けた「外国語学習小説」のひとつに「カッツ先生」があります。チェコのヨゼフ・シュクヴォレツキーによる短編で、ときは第二次大戦期、ダニエルはユダヤ人のカッツ先生からドイツ語の個人レッスンを受けることになったのですが……というあらすじ。新しい教科書に触れる生徒の緊張、古臭い教育法(「これは玉子です」なんてThis is a pen.と何が違うのか?)を自然に思わせる教師の力量が表現されているようです。終盤、きな臭くなる世の中でユダヤ人の先生がチェコ人少年にドイツ語を学び続けなさいと諭す場面は、感動的かつ深いものがあります。「ドイツ語を習いたい人は、これからだっている」(p.129)し、ドイツ語はドイツのドイツ人だけのものではない。同じことが現代世界のロシア語にも言えるのではないでしょうか。そう言えばゼレンスキー大統領も元々ロシア語話者でしたし。
というわけで今度YouTubeを開いたら(たぶんこの記事上げたらすぐ)、まいにちロシア語入門編で紹介されていたゼムフィーラを聴いてみましょうかな。


El está escuchando una canción de Zemfira sobre la patria.
(彼は祖国についてのゼムフィーラの曲を聴いています。)


『寄り道ふらふら外国語』
黒田龍之助
白水社
高さ:18.9cm 幅:13.3cm(カバー参考)
厚さ:1.6cm
重さ:249g
ページ数:206
本文の文字の大きさ:3mm