竜巻は怖い。特に私は実際に目の前で巨大竜巻に遭遇した経験があるので
本当に怖い。筑波での出来事です。本当に死ぬかと思いました。
しかし、竜巻の中にはもっと恐ろしいものがあるという。それが「火災旋風」
である。これはいわば「火の竜巻」。地震や空襲、山火事などで大火災が起こると
発生することがある。そして一端発生してしまうと、まるで大火の「酸素供給装置」
のような働きをして、あたり一面燃え尽すまでなかなか消滅しない。だからこれが
発生したときは「甚大なる被害」が多々起きる。例えば、関東大震災。死者10万人と
言われるが、そのうち東京本所の被服廠跡で発生した火災旋風が4万人近い人々を
焼き尽くした。この火災旋風で「人間」が「市川」まで15キロも飛ばされた、という記録が
あるくらいだからその威力のすさまじさがわかる。下の動画はユーチューブにアップされて
いたものだ。昔の人が大火のなかでこの火の竜巻を「火竜」がのたうって暴れていると
考えてもおかしくはないね。
こちらは、「火災旋風」の風の力が良くわかる動画だ。消火に使うホースがタコ糸のように
巻き上げられてなすすべもなくなっている。こうなったら消防士も逃げたほうが良い。
直撃されたら消防車だってひっくり返るからね。
今回はこの「火災旋風」のミニチュア版を実験で作ることに致しました。
「危険」とか「不謹慎」とかの意見もあるとは思うけど、いざ、こういう現場に遭遇したとき、
原理を知っているのと知らないとでは、「生死」を分かつことにつながる可能性があるからね。
だから「安全性」に十分な配慮をしつつ実験です。
というわけで「竜巻」のおさらい。これは、前に教室でやった竜巻実験だ。
つまり「竜巻」を作るには、「回転力」と、そのできた「回転」を「垂直方向へ
引き伸ばす力」の二つが必要になる。前回の竜巻の場合、これを「電動ファン」
の力を使った。
上部にある電動ファンが内部の空気を上に引き出し、「引き伸ばす力」を得る。
同時に内部の気圧が低くなり、サイドの隙間から空気が入り込んで「回転力」を
発生する。
今回は、これを「火力」で行い、炎の竜巻「火災旋風」とする。
いや~いろいろ考えましたよ。
いろんなものも買いそろえて試行錯誤を繰り返したし。
これは買ったけれど使わなかったドラム缶。まあ、あとでなんかつかうだろう。
で、トタン板を加工して一から装置を作ることにした。しかし、薄いトタン板を
金切りばさみで切るとめくれてあがって変形しやすいのだ。本来は業者は
大型の切断機を使って切る「シャーリング」という方法を取るのだが、
もちろんそんなマシンはもっていない。で、ネットの情報では「素人考え。
上手くいくはずがない。止めた方が良い」
と非難轟轟だった「カッターによる切断」を行う事にした。
で、100円ショップで購入したカッターで、何度も何度も(おそらく一切断に
40~50回)筋入れをしました。すると・・・・・とつぜん、「バキッ!」という
音とともに切れ込みが・・・・・。やってみるものですなあ。案ずるより産むが
安し、というは本当であった。
綺麗に切断完了。
で、30分くらいで切断加工終了。カッターの刃は3回くらい割ったけど、
まあ100円だからね。
ここで注意。トタンの切り口は「カミソリ並み」にとんでもなく切れる。絶対に
「紙やすり」等で切り口を丸める処理をして下さい。それでも危ないくらい。
関東大震災での火災旋風で恐ろしい話がある。「火災旋風で舞い上がった
焼けたトタン板で首を切られて死亡」だそうです。薄いトタンはそれくらい
切れ味鋭い。
さて、とりあえず切り出し成功。
で、ドリルで穴あけし、丸めてスペーサーを入れて完成。構造自体はすごく簡単。
人よんで「火災旋風発生装置」もしくは「火竜召喚筒」
このサイドのスペーサーを入れた「隙間」がミソ。
上から見た所。
さて、実験開始だ。と言っても液体燃料(ライターオイル等)を金属皿に入れて火をつけ、
これを被せるだけ。最初ちょろちょろだった炎がこれを被せたとたん、突然回転をはじめ
巨大化するのがわかるだろう。これをやる時
「火竜、召喚!」
とか、
「いでよ!ファイアードラゴン!」
とか言いながらやると、生徒もノリノリになる。
で、余興として、燃料を変える。今度は燃焼用アルコールにホウ酸を入れて炎に色を付ける。
炎色反応を利用しているが、このことについては、また後日詳しく面白い実験をやる予定。
この時は
「出でよ!グリーンドラゴン!」と言うと生徒は喜ぶ。
いや、生徒は大喜びでございました。
しかし、なぜこんなことが起こるのか。図解したから見てね。
この筒の中でオイルに火をつけると、筒内の空気は温められて上昇する。
ここで「引き伸ばす力」が発生するのだ。そして、筒内の気圧が減じる事で
筒サイドの隙間からどんどん空気が流入してくる。これが「回転力」になるのだ。
で、前回の竜巻発生装置と何が違うのか。そう、電動ファンという動力を持たない
のに自らの「火力」をエネルギーとして竜巻を発生させているのが決定的に違う。
そして、ここが自然界に発生する「竜巻」と「火災旋風」の違いでもあるのだ。
通常の「竜巻」は周りの風の状況という「外部環境」によって発生する。
(実験では「外部環境」=「電動ファン」だったわけだ。)
つまり風向きが変わったり、弱くなったりすると自然に収束するのだ。(実験では
「電動ファン」の電源を切る、ということだった。)
これに対し、「火災旋風」は大火によるエネルギーで発生し、周りの空気(酸素)を強制
供給して自己成長をとげる。いってみれば動力付き。もしくは「ターボチャージー」付き
と言える。だからあたり一帯の燃えるものを焼き尽くすまで消滅しない事もありうるのだ。
ここが怖い。
「こんな筒状の地形は実際にはないだろう。『火の竜巻』が起こることは考えられない。」
などというなかれ。
特に都心部ではビル等複雑な風の遮蔽物体がいろいろあって、結果的に「風を巻き込む」
地形になってしまっているところが多々ある。大火さえ起これば、予想もしなかった
ところで「火災旋風」は起こりえるのだ。
今の日本の状況だと、生徒たちが生きている間に大地震等による「大火」で
「火災旋風」に遭遇する可能性は決して低くはない。で、いくつか注意事項を。
① 火災旋風の移動速度は人間の走る速さをはるかに超える。もし万一近づいて
来たら、進行方向直角方向に(左右に)逃げる。(これは通常の竜巻も同じ)
ただし、突然向きを変えることもあるので万全とは言えないが・・・・
② だから、火災旋風が起きる可能性がある「大火」があったら、絶対に近づかない。
興味本位で見に行く、なんて絶対にダメだ。
という事くらいしか、対策はないが、それでも知っておいて損はないだろう。
ところで、この実験はかなり危険なので絶対に真似をしない事。
トタンの切り口で大けがをしかねないし、火のついたライターオイルを屋内で
ひっくり返したらまず間違いなく「火事」になるだろう。大火事になって、本当の
「火災旋風」を引き起こしたらシャレにならない。
それでもどうしてもやりたい人は自己責任で、それも専門知識のある大人の
人と一緒に野外でやって下さいね。(そうとう煙もでるし、ホウ酸の焼けた煙
はちょっと刺激臭もあるのでマスクは必ずつけてね。)