孤宿の人 / 宮部みゆき | デジタル編集者は今日も夜更かし。

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kosyuku no hito

この小説を読んでいるあいだ中、年相応の大人びた諦観と青臭い正義感が、アタマの中で喧嘩をしていた。いろんなことを考えた。考えさせられた。

だから、様々な書評で“泣ける!"とか“感動巨篇"とあっても、ボクはそういう小説ではないと思いながら読み進んでいった。
でも…、最後の最後で、泣かされてしまった。地下鉄の中で読んでいたのだけれど、ブワーッと涙が溢れてきて、慌ててサングラスを取り出して涙を隠した。

讃岐の小藩(丸亀藩がモデルだが架空の藩)に、大罪を犯した幕府要人が流されてくる。
これは妖怪と言われた幕臣鳥居耀蔵がモデルなのだが、共に史実とは関係なく自由な物語が展開する。
幕府の都合で押しつけられた形の厄介者はあまりの大罪ゆえに悪霊となり、小藩に人知を超えた災厄をもたらすとの噂が先走る。
実際に、流行病(はやりやまい)、天災などの不幸に見舞われるが、それを利用しようとする勢力もいて、為政者たちの様々な思惑が悪霊の名を借り、時に昔からその地を守る神様の名を借りて、日々を懸命に生きる子役人、町方、庶民たち、子どもたちを巻き込んでいく。

個々人の都合では回避できない政治の流れがある。現代ですらそうなのだから、江戸の時代、地方の小藩に生きる者にとって、その流れを変えることは不可能に近い。
それでも正義を貫くのか、真実を求めるのか。
宮部みゆきは、本来交わることのない庶民の階層と為政者側の人々を出会わせることで、人間的な繋がりを描き、官僚的な政治の“都合"を単純に“悪"と決めつけていない。
たくさんのエピソード、人の繋がりが語られているが、勧善懲悪の関係はひとつとしてないのだ。だから、悩みながら読んだ。だから、考えさせられた。

一気に読むことはできるけど、どっぷりと本格的な歴史小説に浸かってタイムスリップを楽しみながら、そして、宮部みゆき一流の優しいディテール描写を逐一イメージして、ゆっくりと時間を掛けて読んだ。
ボクには、ページの彼方にずっと瀬戸内の海が見えていた。
いろいろと考えさせられたけれど、
愛すべき人々がたくさん登場する、悲しくて、暖かくて、とっても素敵な小説。
架空の小藩、讃岐の丸海藩の今を訪ね、登場人物たちの墓参りをしながら、その後の町と海を見たくなった。郷土資料館には、庶民の歴史も残っているだろうか。

■孤宿の人(上・下) / 宮部みゆき■