今をときめく男性作家陣の恋愛短編アンソロジーである。
すべて、書き下ろしである。
祥伝社創立35周年記念特別出版である…。
これが読まずにいられるか。
さてさて、実生活で他人の恋愛話を聞くのは、申し訳ないけど概ね退屈なものだ。
聞き始めた当初はワクワク興味津々ではあるのだが、それでもそんなにスペシャルなエピソードが続くハズもなく、10分もつき合うとそれが失恋話で死ぬの生きるのという展開になろうが、熱々デレデレの自慢話になろうが、まあ、あっという間にお腹いっぱいになるは必定。
それなのに名手の手によって小説になった途端に、赤の他人の恋愛が上質なテーマとなるから不思議だ。
主人公たちの馴れ初めを知りたい、行く末を見守りたい。
このアンソロジーはそれぞれが50~60ページ程度の短編だから、出逢いも別れも、それほどのスペクタクルはない。
が、しかしかえってそれが自分の懐かしい思い出と重なったり、憧れだったりする身近なシチュエーションで、短編ではあるけれど、すぐに感情移入ができる。
恋愛小説は、どれだけ感情移入ができるかによって、その楽しみ方に大きく差が出ると思うが、まして短編小説では、いかに素早く主人公とイメージを共有できるか、舞台を想像できるか、が必要となる。
その点でもさすがに、この6人の作家たちは上手い。
ボクはよく、言葉によるスケッチを試みる。
風景をスケッチするように、街の光景を文章にしてみるのだ。
たとえば、電車のなかで見かけた人々の所作をその場でノートに書き留める。街で見つけた新しいお店のショーウィンドを文章で表現してみる。食べた料理を伝える工夫をしてみる。
何を書いて、何を省略するのか。やってみると、なかなか楽しくて、そして難しい。
いつも一緒にいるパートナーや友人が相手であれば、文章でも会話でも、共通する何らかのイメージを持っているのでボクが見たシーンを伝えることも比較的容易いが、たとえば全国の皆さんが訪れてくれるこのブログでは、しっかりとスケッチをしてキチンと描写しないと本当に真意が伝わっているのかどうか、怪しいものだ。
それに比べて、プロの技。
たとえば離婚を決意し、レストランで最後の食事をする夫婦を書いた本多孝好氏『Sidewalk Talk』のあるシーン。
“思わず笑みを交わしてから、その場違いさに気づき、僕らは互いの笑みを持て余した。気詰まりになって、僕はテーブルの真ん中にある一輪挿しに挿された白い花に目を向けた。彼女はすっとピアノの方に一度視線を外すことで、笑みを収めた。"
彼女の描写にボクは脱帽。
もうこれだけで映像が思い浮かぶし、この二人の気持ちが伝わってくるではないか。
どちらかといえば、それぞれ軽めの恋愛小説だ。
もしかしたら、皆さん、肩の力を抜いて書かれたのかな、とも思う。だから部屋でじっくりと読むよりも、カフェで恋人を待っている時とか、ひとりでランチをする時なんかにちょうど良い小説集かもしれない。
イチバン好きだったのは…、それはここでは書かないでおこう。きっと読者の恋愛経験によって、それぞれ感想が異なるような気がする。
■I LOVE YOU / 伊坂幸太郎、石田衣良、市川拓司、中田永一、中村航、本多孝好■