問答無用のタイトル買い。
映画を撮る中島哲也監督も「まず題名にやられました」と発言している。
あらすじ紹介とタイトルから、かなり重たい満足感があった桐野夏生『グロテスク』のような展開を想像して怖いもの見たさもあって読み始めたのだが、読後の感想はかなり異なるものだった。
転落人生、のち、殺人事件の被害者となった叔母の一生を、お気楽大学生がたどるうちに見つけたものとは…だし、“嫌われ松子”…だし、つらい運命を歩んでしまった女性が主人公という意味では、『グロテスク』と似ている。
しかしあちらが人生の救いのなさで読ませる凄みを帯びた小説であったのに対し、もしかしたら、この小説、結構ハートウォーミングな読後感だったりする。
昭和の閉鎖的な田舎で起きた事件をきっかけに松子の人生は転がり落ち始めるのだが、彼女が殺された後にその存在を知らされて生き様を調べ始める甥っ子は、今を生きている。その時代の書き分けがうまくて、裁判記録や証言から見えてくる部分は、松本清張の骨太な小説を彷彿とさせる。一方、次第に松子の生き方に影響を受け始める甥っ子とそのガールフレンドのストーリーは、今時の青春小説の軽さ、爽やかさがあり、生前は重なることのなかった松子と甥という二人の主人公がキチンと小説のなかに収まっている。
じつはこの松子、特別にイヤな奴ではない。確かに“嫌われ松子”ではあるけれど、嫌っていたのは閉鎖的な風土と時代に生きた一部の人間だけだ。
人生のなかで、どちらに転んでもおかしくないというシーンは多々ある。あの時、あれをしていれば、若しくは、していなければ…、というシーンは、ボク自身にもいくつか思い浮かぶ。
ちょっとした無知、性格の弱さで、松子はいくつかの岐路で判断を誤る。誰もが陥る可能性のある転落の人生に、作者はちゃんと救いの手を差し伸べている。
こんなタイトルなのに、そしてタイトルを裏切らない内容なのに、最後にはとっても優しい気持ちになることができた。
■ 嫌われ松子の一生(上・下) / 山田 宗樹 ■
*余談だが、本当に余談だが、この文庫版の巻末の解説は、読む前はもちろん、読後もいっさい読む必要はない。こんな最低な解説は初めて。いまでも不愉快だ。