あなたへ/河崎愛美 | デジタル編集者は今日も夜更かし。

デジタル編集者は今日も夜更かし。

出版社に在籍していながら、仕事はネット、携帯などデジタル企画のプロデュース。

もし雑誌をやっていたら記事にしたかもしれない様々なネタを、ジャンルにこだわらずコラム風に書いてみる。アナログ志向のデジタル編集者は、相も変わらずジタバタと24時間営業中!

for_you

15歳の女のコが300枚の小説を書き上げたからって、そんなに大騒ぎするこたぁないんじゃないかなぁ。
書き上げたことは、誉めてあげたい。将来に可能性もあるだろう。

でも本音を言えば、彼女には、出版デビューまでの時間と習作のチャンスをもう少しあげたかった。

自分が中学生だった頃。こういう“小説”を書きそうな子を何人か思い浮かべることができるね。
もしかしたら、その子たちは実際に書いていたのかも知れない。

ボク自身がその当時書いた文章が手元に残っていたりするのだが、文章だけではなく生き方も、比喩やレトリックとは無縁のストレートな不器用さが鼻持ちならなかったりする。独りよがりと思い込みによる偏狭な押しつけ。でもそれは、経験の浅さからくる“角”のようなもので、その当時はそんなことには気付きもしなかった。だれも教えてくれなかったし。

この“小説”を読むと、そんな気恥ずかしさを感じる。同世代には支持されるかも知れない。リスペクトもされるだろう。もしかしたら、でも、オトナが読む本じゃないかも…。

綿谷りさら若手の芥川賞受賞に続いて、今年はライトノベル系の新人賞を総なめして5冠に輝き天才高校生作家・日日日(あきら)のデビューもあり、若い作家の台頭がクローズアップされている。
多くの小説やストーリーに接するチャンスがあり、パソコンや携帯で書くことにも慣れているなど、その原因が分析・解説される。
でも、太宰治だって17歳で習作『最後の太閤』を書いたし、柴田錬三郎は14歳で小説らしきものを書いていたという。もしかしたら、出版のハードルが低くなったとか、クォリティよりマーケティング主導…なんてことはないだろうか。昔は出版点数も格段に少なかったし、同人誌で揉まれないとデビューは適わなかったのだ。

若いデビューといえば、河崎愛美氏と同じく中学三年で書かれたのが(もう手に入れにくいかも知れないが)、85年の毎日新聞社主催の毎日児童小説特別賞を受賞した蜂屋誠一のSF『タイム・ウォーズ』
テーマも文章も『あなたへ』と比べると遥かに子どもっぽいが、こちらはちゃんと物語になっていた。36世紀(!)のタイムパトロールが活躍するスペースファンタジーで、一億年単位で舞台は飛ぶわ、四次元空間で恐竜人間と戦うわで、オトナの想像力を超える自由自在な展開が凄い。

さらにさらに米国生まれの中学生のモデルhanae*は、小6、12歳の時に『小学生日記』 出版している。この本は小説とは言わず、作文集とされているが、文章も構成も立派に小説&エッセイとして成立している。
作文コンクールで文部科学大臣賞を受賞した“ポテトサラダにさよなら”なんて、書き出しから1ページ読んだら、その才能に脱帽必至。
冷静で客観的で、それでいて子どもらしく素直。全体を通して描写力、表現力に裏打ちされたボキャブラリー豊かな“作文”に仕上がっている。
ボクがこの『小学生日記』 を読んだのは出版直後の昨年の正月だったのだが、いいオトナがいろんな意味で影響を受けてしまった。
たとえば、彼女が後書きに好きな本として紹介していた絵本、『はせがわくんきらいや』(長谷川 集平) と米国にいるとき初めて買ってもらったという『I Like Me!』(Nancy L. Carlson) をすぐに購入。どんな本を子どもの頃読むと(今でも彼女は子どもだけど…)、こんな文章が書けるのか知りたかったのだ。
そしてこのムスメ、なかなかの本の目利き、本当に読書が好きなんだなと嬉しくなった。
さらに彼女の兄が敬愛し、そのことで作家・hanae*が嫉妬するという“シゲマツ”(重松清)は、『ナイフ』
を皮切りに立て続けに読んだ。
『 小学生日記』(hanae*) にはいい大人が、十分に影響を受けるだけの力があった。


『あなたへ』(河崎愛美)
の感想を書くつもりが、大きく脇道に逸れてしまった。
それにしても、小学館文庫小生賞受賞作品が、どうして文庫じゃなくて、単行本で出版されたんだろう…。