年上の女性と恋愛する二十歳前後の若い男のコが一人称で語る小説を、立て続けに読んだことになる。
『天使の卵』、続編の『天使の梯子』(村山由佳)、『東京タワー』(江國香織)、そしてこの『人のセックスを笑うな』。
主人公の男のコの年代を通り過ぎた男として、もしかしたら、女性たちに“裏切られる”夫やパートナーの立場で読んでいたのかもしれない。
同じような設定だけれど、結局、同じ事を書きたかったのかもしれないけれど、そこから感じとられる印象は、それぞれにまったく異なったものだった。
『天使の卵』や『天使の梯子』の世界は、夢に近い。あくまでも小説の世界。
ひたすら美しく進行していき、あり得そうにない『東京タワー』の恋は、本質的にはじつは世間では普通に繰り広げられている恋愛なのはないか、という気がする。ただし、キャストを俳優に置き換え、舞台を港区の高層マンションに置き換える必要があるけれど。
そして『人のセックスを笑うな』は、それをより現実に近づけたらこうなった、というリアルさがある。たとえば、主人公の男のコが夫の留守に初めて彼女の自宅を訪ねるとき、ふたりはたまプラーザの駅で待ち合わせ、スーパーに寄って夕食の買い物をする。ワインやチーズを買うのではなく、白菜、豆腐、プリン、春菊、ネギ、白たき、うどん、鱈! そして、こたつで紅白を見ながら鍋を食べるのだ。
ついて行けます? こんな39歳の女性と19歳の男のコの恋愛を、直視できますか?
でもね、なんとなく分かる気がするんだな。このふたりの気持ちの流れ。
主人公の男のコは、当初「人間関係は常に一対一だ」と思うことで、ダンナのいる39歳の女性と恋にのめり込んでいく。たとえ、夫が居ようが、年の差があろうが、世間がどう思うが、大切なのは、彼女と自分の気持で、それ以外の要素は必要ないんじゃないか、と。
もちろん、そうではないことを、39歳のオトナは知っているワケで、そんな自分の気持ちとの付き合い方も、分かっている。
生活感のある恋愛とリアルな感情の流れが、著者の透明感のある文章で、表層からはうかがい知ることのできない芯のある恋を表現していく。
読み進むうちに、実年齢39歳で、見た目も年相応の女性が、19歳の男のコの目にも、ボクにもいとおしく見えてくる。そう、彼らはお互いを人間として求め合っている。そこが、この小説に描かれた恋愛としてのリアルさだと思う。
Amazonのカスタマーレビューでは、散々に書かれてる。
でも、結論を言えば、面白い。ボクは、このふたりを祝福する。
小説に何を求めるか、恋愛に何を求めるか、によるとは思うけれど、でも、このふたりの恋愛を認めなくてどうする。
この小説を読むまで、ボクは、たぶんこれら小説の恋愛に嫉妬を感じていたのだと思う。
男として過ぎ去った年齢への嫉妬、裏切られる立場からの嫉妬。
そして何よりも、彼女や彼らの恋愛に参加できない嫉妬。
他の小説では分からなかった自分のなかにある嫉妬を、山崎ナオコーラ氏は気づかせてくれた。
神様でもないのに、他人の恋愛をとやかく言うな、人のセックスを笑うな。
そういうことだ。
人のセックスを笑うな/山崎 ナオコーラ
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