58皿目:主役の登場、鉄板の喝采 | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。


夕方の店は、
いつもより静かだった。

客は窓際に座り、
冷めかけた水を見ている。

何かを諦めた顔だった。

クゥーが厨房をのぞく。

「まだー?」

次の瞬間。

鉄板の奥から、
じゅううううう……っ、と音が立ち上がる。

店の空気が揺れる。

ロクがソースを落とす。

さらに音が弾ける。

白い湯気が、
一気にカウンターの向こうへ膨らんだ。

見えないくらい。

でも音だけは、
ずっと近づいてくる。

じゅう、じゅう、と。

客が顔を上げる。

皿が置かれる。

厚切りの豚肉。
照り返すジンジャーソース。
鉄板の熱で揺れる湯気。

まだ音が生きていた。

客は少し呆けた顔で笑う。

「……すごいですね、これ」

クゥーが胸を張る。

「今日はうるさいやつ!」

箸が入る。

肉汁が跳ねる。

噛んだ瞬間、
熱と生姜の香りが広がった。

じゅうう……という音が、
まだ皿の下で鳴っている。

食べるたび、
客の背中が少しずつ起きていく。

ロクは鉄板を洗いながら言う。

「冷める前が、一番うまい」

客は黙ったまま頷いた。

さっきまで俯いていたことを、
少し忘れている顔だった。

【注意書き】
・鉄板が本気の日は会話が聞こえません
・湯気の向こうにロクが消える場合があります
・じゅうじゅう音で元気が出た方は仕様です