50皿目:旨味の回 ― 同じ味になる | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。


夕方の光が、鍋のふちでやわらかく止まっている。

まな板の上には、  
竹の子、わらび、春キャベツ。

どれも、この数日で見慣れた顔だった。

クゥーが竹の子を持ち上げる。  
「これ、この前よりやわらかいね。」

ロクはうなずくだけで、火をつける。  
鍋に水と出汁を入れる音が、静かに広がる。

「ねえ、これ一緒にやるの?」

クゥーが少し首をかしげる。

ロクは、具材を順番に見てから言った。

「……普通は、野菜ごとに炊く。」

鍋に、竹の子が入る。  
少し遅れて、わらび。  
最後に、春キャベツ。

火は強くしない。  
ただ、ゆっくり。

クゥーは鍋をのぞき込む。  
「バラバラじゃない?」

ロクは何も言わない。  
火だけを見ている。

しばらくして、湯気が変わる。

音はほとんどないのに、  
さっきとは違う“なにか”がいる。

クゥーが小皿に取って、一口食べる。

「……あれ。」

もう一口。

「なんか、一緒になってる。」

ロクは、少しだけ火を弱める。

器に盛ると、見た目はそのままだった。  
竹の子は竹の子、わらびはわらび、キャベツはキャベツ。

でも、箸を入れると、どこを食べても同じ場所に戻ってくる。

クゥーは最後に、竹の子をかじった。

ゆっくり噛んで、止まる。

「……これ、さっきよりうまい。」

ロクは視線を外して、短く言う。

「出てきたな。」

クゥーは笑う。  
「なにが?」

ロクは答えない。

湯気が、少しだけ高く上がる。

「……まあ、うちはこんなもんです。お腹も心も、また明日で。」