夕方の光が、鍋のふちでやわらかく止まっている。
まな板の上には、
竹の子、わらび、春キャベツ。
どれも、この数日で見慣れた顔だった。
クゥーが竹の子を持ち上げる。
「これ、この前よりやわらかいね。」
ロクはうなずくだけで、火をつける。
鍋に水と出汁を入れる音が、静かに広がる。
「ねえ、これ一緒にやるの?」
クゥーが少し首をかしげる。
ロクは、具材を順番に見てから言った。
「……普通は、野菜ごとに炊く。」
鍋に、竹の子が入る。
少し遅れて、わらび。
最後に、春キャベツ。
火は強くしない。
ただ、ゆっくり。
クゥーは鍋をのぞき込む。
「バラバラじゃない?」
ロクは何も言わない。
火だけを見ている。
しばらくして、湯気が変わる。
音はほとんどないのに、
さっきとは違う“なにか”がいる。
クゥーが小皿に取って、一口食べる。
「……あれ。」
もう一口。
「なんか、一緒になってる。」
ロクは、少しだけ火を弱める。
器に盛ると、見た目はそのままだった。
竹の子は竹の子、わらびはわらび、キャベツはキャベツ。
でも、箸を入れると、どこを食べても同じ場所に戻ってくる。
クゥーは最後に、竹の子をかじった。
ゆっくり噛んで、止まる。
「……これ、さっきよりうまい。」
ロクは視線を外して、短く言う。
「出てきたな。」
クゥーは笑う。
「なにが?」
ロクは答えない。
湯気が、少しだけ高く上がる。
「……まあ、うちはこんなもんです。お腹も心も、また明日で。」