— 音は、そこで止まる —
焼き台の上で、皮が少しだけ持ち上がる。
ロクは箸を入れず、
そのまま見ている。
しばらくして、
小さく、はじけた。
「……」
ロクは何も言わない。
それが合図だったのかどうか、
そのまま裏返す。
音は、続かなかった。
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「今の、聞こえました?」
クゥーが振り返る。
ロクは火を見たまま、
少しだけ首を傾ける。
「さあな」
クゥーは笑う。
「絶対鳴りましたよ」
でも、もう一度は鳴らない。
「一回だけって、ずるくないですか」
ロクは答えない。
火を、少しだけ弱める。
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皿がカウンターに置かれる。
コト、と音がした気がする。
箸か、器か、
それとも、ただの気配か。
カウンターの端、いつもの席。
客は少しだけ手を止めて、
それから何もなかったように箸を入れる。
外で、誰かが通った気がする。
それも、確かめるほどではない。
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「……まあ、うちはこんなもんです。
お腹も心も、また明日で。」
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■今日の注意書き
・音は一度しか鳴らないことがあります
・聞こえたかどうかは、人によります
・静かな日は、だいたい見逃します