44皿目:鰆の焼き物 | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。

      — 音は、そこで止まる —


焼き台の上で、皮が少しだけ持ち上がる。

ロクは箸を入れず、
そのまま見ている。

しばらくして、
小さく、はじけた。

「……」

ロクは何も言わない。

それが合図だったのかどうか、
そのまま裏返す。

音は、続かなかった。


「今の、聞こえました?」

クゥーが振り返る。

ロクは火を見たまま、
少しだけ首を傾ける。

「さあな」

クゥーは笑う。

「絶対鳴りましたよ」

でも、もう一度は鳴らない。

「一回だけって、ずるくないですか」

ロクは答えない。
火を、少しだけ弱める。


皿がカウンターに置かれる。

コト、と音がした気がする。

箸か、器か、
それとも、ただの気配か。

カウンターの端、いつもの席。

客は少しだけ手を止めて、
それから何もなかったように箸を入れる。

外で、誰かが通った気がする。

それも、確かめるほどではない。


「……まあ、うちはこんなもんです。
 お腹も心も、また明日で。」


■今日の注意書き

・音は一度しか鳴らないことがあります
・聞こえたかどうかは、人によります
・静かな日は、だいたい見逃します