0皿目 暖簾のむこう側 ― はじまりの匂い | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。

         ― はじまりの匂い

古い暖簾は、今日も少しだけ曲がっている。
まっすぐ直しても、また曲がる。
どうして曲がるのかは、もう誰も気にしていない。
……まあ、気づいたら笑ってください。

店の奥では、鍋がことこと鳴っている。

火の音は大きくしない。
聞こえるか聞こえないかの、ちょうどいい場所に置いてある。

入口近くには椅子がひとつ、またひとつ。

座る人が来た順に、静かに埋まっていく。

ここは、料理を自慢する店ではないかもしれない。

それでも、湯気はちゃんと届くようにしている。
匂いで、少しだけお腹が鳴るくらいがいいと思っている。

うまくいく日もある。
同じだけ、うまくいかない日もある。

それでも火は落とさない。

今日も、ちゃんとやってます。

厨房の奥から、包丁がまな板を軽く叩く音がする。

今日も、何かを切っている。
野菜かもしれないし、時間かもしれない。

暖簾は少しだけ曲がったまま。

直そうとすると、また同じ角度に戻る。

まあ、うちはこんなもんです。

お腹も心も、また明日で。

――扉の向こうでは、クゥーが何かを運んでいる。

今日のまかないになるのか、
それとも明日の看板になるのかは、まだ分からない。

ただ、湯気だけが、ゆっくり厨房から流れてきた。

本日も、営業中。
次回