休みの日に厨房にいるやつは、だいたい何か始める。
火の入っていない厨房は、音が抜けて別の場所みたいだ。
俺はコーヒーだけ入れて、作業台の端に座っていた。
奥で、冷蔵庫の扉が開く音。
「何してるんです?」
トレーに並んでいたのは、卵、牛乳、バター、粉。
ロクが言う。
「再現だ」
「何の?」
「昔のやつだ」
それ以上は言わない。
生地を混ぜる手が、迷わない。
測っているのか、覚えているのか分からない。
「レシピは?」
「ない」
「じゃあどうやって」
「食べた」
少しだけ間が空く。
「覚えてるもんだけでいい」
焼き上がる。
少しだけ膨らんで、少しだけ軽い。
ロクが小さく言う。
「……近いな」
黒豆を並べる。
「多くないですか」
「こんなもんだった」
記憶は、少しだけ曖昧だ。
でも、手は止まらない。
巻く。
ためらわない。
一気に。
「止まると割れる」
切る。
断面に、黒豆がぎっしり詰まっている。
派手じゃない。
でも、妙に強い。
クゥーが食べる。
「地味だな」
もう一口いく。
「……でも止まらん」
ロクがうなずく。
「それでいい」
少しだけ、静けさが戻る。
ロクがぽつりと言う。
「最初で決まる」
クゥーが顔を上げる。
「改造していい?」
ロク「ダメだ」
俺「やめとけ」
たぶんやる。
次回

