8皿目 今日は、最初から決まってた ― 昭和ロール | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

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町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。

休みの日に厨房にいるやつは、だいたい何か始める。


火の入っていない厨房は、音が抜けて別の場所みたいだ。


俺はコーヒーだけ入れて、作業台の端に座っていた。


奥で、冷蔵庫の扉が開く音。


「何してるんです?」


トレーに並んでいたのは、卵、牛乳、バター、粉。


ロクが言う。

「再現だ」


「何の?」


「昔のやつだ」


それ以上は言わない。


生地を混ぜる手が、迷わない。


 測っているのか、覚えているのか分からない。


「レシピは?」


「ない」


「じゃあどうやって」


「食べた」


少しだけ間が空く。


「覚えてるもんだけでいい」



焼き上がる。

少しだけ膨らんで、少しだけ軽い。


ロクが小さく言う。


「……近いな」


黒豆を並べる。


「多くないですか」


「こんなもんだった」

記憶は、少しだけ曖昧だ。

でも、手は止まらない。

巻く

ためらわない。

一気に。

「止まると割れる」

切る。


断面に、黒豆がぎっしり詰まっている。

派手じゃない。

でも、妙に強い。



クゥーが食べる。

「地味だな」

もう一口いく。


「……でも止まらん」


ロクがうなずく。


「それでいい」


少しだけ、静けさが戻る。

ロクがぽつりと言う。


「最初で決まる」


クゥーが顔を上げる。


「改造していい?」


ロク「ダメだ」


俺「やめとけ」


たぶんやる。


次回

9皿目「最後で、なんとかしようとするな」 〜触るなは合図〜