9皿目「触るなと言ったのに」 | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

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町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。

         〜触るなは合図〜


聞いて。休み明けの厨房って、静かなんだ。

でもね、静かな日はだいたいクゥーが何かやらかしてる。

これ、経験則。間違いない。


ロール生地の端が、冷蔵庫にきれいに残ってた。

……嫌な予感しかしない。


クゥーが先に来てる。

「ちょうどいい」

いや、ちょうどよくないって。


「何してる?」

「改良」

その言葉、信用したことないよ。


見てよ、これ。

クリーム倍+追いクリーム。

黒豆の存在感ゼロ。

ただの白い甘いロールになってる。


「黒豆どこ行った?」

「甘さに就職した」

もうツッコミどころが多すぎる。


さらに黒豆に豆豉を混ぜるって。

完全に惣菜だ。

お茶が主役になるやつ。


「デザートが昼飯になった」

「箸、持ってこい」


クリームにポン酢。

口に入れたら、乳と酸がケンカしてる。

味が割れる。


「協調性ゼロ」

「チーム解散」

いや、ほんとその通りだわ。


生姜を強める。

健康食品みたいなロール完成。

「効能はありそう」

「楽しさはない」


ナンプラーを数滴。

焼き上がった瞬間、全員振り向く。

香りの威力、すごい。


それでも巻く。

もう誰も止めない。


切る。

試食。

沈黙。


クゥーがひとこと。

「三口目はない」

……二口いったのか。


ロクが言う。

「これは別物だ」

「成功?」

「新ジャンル事故だ」


作業台の上は残骸だらけ。

でも、可能性は残ってる。


ロクがまた言う。

「設計し直す」


その日、わかったことがある。


黒豆ロールは繊細だ。

理屈より、静かさを好む。


そしてもう一つ。

触るなと言われたクゥーは、必ず触る。

次は……先に見張りを置くしかないな。

第10話「設計は裏切らない」

―― 完成は設計で決まる