〜触るなは合図〜
聞いて。休み明けの厨房って、静かなんだ。
でもね、静かな日はだいたいクゥーが何かやらかしてる。
これ、経験則。間違いない。
ロール生地の端が、冷蔵庫にきれいに残ってた。
……嫌な予感しかしない。
クゥーが先に来てる。
「ちょうどいい」
いや、ちょうどよくないって。
「何してる?」
「改良」
その言葉、信用したことないよ。
見てよ、これ。
クリーム倍+追いクリーム。
黒豆の存在感ゼロ。
ただの白い甘いロールになってる。
「黒豆どこ行った?」
「甘さに就職した」
もうツッコミどころが多すぎる。
さらに黒豆に豆豉を混ぜるって。
完全に惣菜だ。
お茶が主役になるやつ。
「デザートが昼飯になった」
「箸、持ってこい」
クリームにポン酢。
口に入れたら、乳と酸がケンカしてる。
味が割れる。
「協調性ゼロ」
「チーム解散」
いや、ほんとその通りだわ。
生姜を強める。
健康食品みたいなロール完成。
「効能はありそう」
「楽しさはない」
ナンプラーを数滴。
焼き上がった瞬間、全員振り向く。
香りの威力、すごい。
それでも巻く。
もう誰も止めない。
切る。
試食。
沈黙。
クゥーがひとこと。
「三口目はない」
……二口いったのか。
ロクが言う。
「これは別物だ」
「成功?」
「新ジャンル事故だ」
作業台の上は残骸だらけ。
でも、可能性は残ってる。
ロクがまた言う。
「設計し直す」
その日、わかったことがある。
黒豆ロールは繊細だ。
理屈より、静かさを好む。
そしてもう一つ。
触るなと言われたクゥーは、必ず触る。
次は……先に見張りを置くしかないな。
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第10話「設計は裏切らない」
―― 完成は設計で決まる