瀬尾まいこ 『そして、バトンは渡された』は、2019年の本屋大賞受賞作。
映画は2021年公開
監督:前田哲 脚本:橋本裕志
出演:永野芽郁 田中圭 石原さとみ
AmazonPrimeVideoのカスタマーレビューが☆4.5 なので、楽しみに観始めた。
2つの家族の物語が並行して描かれる。
幼くして母親を亡くし、パパ(大森南朋)と暮らすみいたん(稲垣来泉:子役)。
そこにあらわれた新しいママ梨花さん(石原さとみ)は、派手好きでズボラなところもあるが、超楽天家でお菓子やきれいな服に満ちあふれたハッピーな生活を、みいたんにプレゼントしてくれる。
もう一つ。高校3年生の優子(永野芽郁)は料理の道を目指し、志望する短大の栄養科は合格圏。
合唱祭のピアノ伴奏をクラスで押し付けれられる形になっても、笑顔でそれを引き受ける。
家では、30代の父親を「森宮さん」と呼ぶ。森宮さん(田中圭)は「父親らしく」といっていそいそと料理をつくったりする。ときにピントがずれているが、優子はそれに感謝して暮らしている。
一方みいたんは、パパが突然ブラジルへ行くと言い出し、梨花さんと二人暮らしになる。
だが、梨花さんの派手好きと楽天家ぶりは変わらず、お金がなくても、無料のパンの耳でケーキを作ったりしてみいたんを喜ばせる。
例によって30分ほどで映画を中断し、小説を読み始めた。
瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文春文庫)
すると……
小説は優子の一人称で書かれているが、映画との間にまったく違和感がない。
まるで “映画を観ているみたいに小説が読める!” (笑)
映画では、梨花さんがもたらす世界がカラフルでキラキラして、みいたんの幸福感が伝わる。
その記憶があるので、みいたんの場面は読んでいてもワクワクしてくる。
そして、優子と森宮さんのコミカルだが、優しさに満ちた暮らし。
優子の無理しない生き方。
読み進みながら映画ではどうだろうと、ときどき映画を観たくなって30分ほど観ては、また小説に戻り、最後まで読み切った。
ユーモラスで、ほのぼのとして、じわっときて、元気をもらえる。
「いろんな家族の形があっていい」というメッセージが、スッと心に入ってくる。
好感度100%の小説。
そして、映画の続きを楽しみに観た。すると……。
終盤45分の展開がほぼ原作に沿いながら、いくつかのアレンジを加えて、より感動的な物語に仕上げている。
それでいて、原作のテイストはしっかり残している。
この脚色は、見事というほかない。
瀬尾まいこの文章はとてもイメージしやすく、映画化に向いている。
しかし、映画と小説に違和感がないのは、原作通りに映画を作ったからではない。
映画製作者側が原作をリスペクトし、その世界を尊重しつつ、映画表現ならではのオリジナリティを追求したからだ。
例えば、優子と森宮さんのああいえばこういうの掛け合いが小説では長く続くが、映画では俳優の演技で自然に伝わるように、かなり会話を書き直している。
そのおかげで、永野芽郁と田中圭のちょっとずれたやりとりから、愛情と感謝がじわりと染みてくる。
映画と小説の表現の違いについてこのブログでも何度か書いてきたが、小説も映画もそれぞれの持ち味を存分に発揮することによって、こんなにも見事なコラボ作品ができあがる。
何と幸せな出会いであろう。
その稀有な例を、今回は見せられた気がする。
この作品こそ、「観ながら読む」のが断然おススメだ。
①まず映画の前半(1時間15分 優子の卒業式まで)を観る。
②次に小説を読む。最後まで。
③それから映画の残りを楽しみに観る。
これで映画も小説もネタバレなく、両方の良さを存分に楽しむことができると思う。
もちろん、私のようにどきどき映画をつまみ食いしながら小説を読み進むのも、また一興である。
ぜひ、お試しあれ。