映画『小説の神様』(2020)がAmazonPrimeVideoで公開されていたので、例によって“読んでから観よう”と思い、原作の相沢沙呼『小説の神様』(講談社タイガ)を開いた。
ライトノベルなので、映画の助けを借りず自由にイメージして読み、そのあとで映画を観ればいいと思ったのだ。
高校2年の千谷一也は、千谷一夜というペンネームを持つ覆面作家だ。
中学2年のとき、新人賞で「日本刀のような」切れ味を持つ文章の才能を称えられ、デビューを飾った。
しかし、その後、本を出すごとに売れ行きは落ち、読者レビューでも酷評されて、すっかり自信を無くしている。
そんなとき、編集者に共作の話を持ち掛けられる。
同じ高校生作家で、ベストセラーを連発し、華々しく活躍している不動詩凪(ふどうしいな)が考えるストーリーを一也が文章にする企画だという。
しかし、会ってみると、不動詩凪の正体は、同じクラスの転校生小余綾(こゆるぎ)詩凪だった。
……と、読み進む。 しかし、予想に反して、この小説はかなりしんどかった。
ストーリー自体は興味深い。この二人がこれからどうしていくのかと先が気になる。
だが、一也のあまりに自虐的で、全否定的な内面語りとか、それに対して、高飛車すぎる小余綾詩凪の言動など、読むのがだんだん苦痛になっていく。
歳のせいか、ライトノベルの世界との距離を感じた。
とうとうあきらめて本を閉じ、本棚に戻してしまった。
『キミスイ』を観てから読んだときは、その文章の軽さに少し違和感を感じたが、やがて慣れた。
しかし、この作品の文章は無理かもしれないと思った。
そして何日かが過ぎた。
……が、ふとひらめいた。
自分は、小説を読むのが苦手な人、もっと楽しく読みたいと思う人のため、『イメージ読書術』を広めているし、映画を観ながら読む方法も伝えている。
「読むのが苦痛」と感じた今こそ、自らそれを試すチャンスではないか。
そう思って、映画を観始めた。
『小説の神様 ~ 君としか描けない物語』 2020年
監督:久保茂昭 主演:佐藤大樹 橋本環奈
前半、ほぼ原作通りで映画は展開していく。
小説の中で私が抵抗を感じた主人公の自虐的独白やヒロインの高慢な言動も、あまり気にならない。実写人物たちの行動として、自然に観ることができた。
ただ、この映画、最初はモノクロで始まるが、それが長い。
どこかでカラーになるだろうと思って観ていくが、なかなかならない。
ヒロイン小余綾詩凪が共同で書く小説のストーリーを語るシーンから、世界は鮮やかな色彩に染め出される。その映像の変化は鮮烈で印象的だが、そこまでが長い(約20分)。
これから観る方は、そのつもりでいてほしい。
映画はとても楽しく、そのまま最後まで観たい気持ちになったが、約2時間の映画の半分でいったん観るのをやめた。
そこまでで、だいたい小説を中断したあたり(文庫本で約120ページ)だった。
そうして、小説の続きを読み始めた。――
物語はさらに紆余曲折の展開を見せていく。
主人公千谷一也とヒロイン小余綾詩凪の感情の浮き沈み、ぶつかり合いは激しく、共感しにくい点もあるが、最初のような苦痛はなく、自然に物語の流れに乗っていく。
そして、読み終えると、「なかなかいい話じゃないか」という読後感が残る。
実は、私のように小説が好きな人間、小説を書きたいと思っている人間には、とても共感できる世界がそこにはあった。
途中で投げ出しかけたが、最後まで読んでよかった。正直、そう思った。
その余韻を味わいながら、映画の残りを観た。
映画の後半も、よくできていた。
脇役の成瀬秋乃(文芸部新入部員)、九ノ里正樹(文芸部部長)にも光を当てる場面を作り、一也と詩凪の物語をより立体的に際立たせいている。
そして、一進一退の波をくり返しつつ、結末へと進んでいく終盤、セリフ回しだと冗長になりがちなストーリー展開を、声のない人物の映像と音楽でテンポよく見せていく。
主演の佐藤大樹はEXILEのパフォーマーだが、地味で内省的な高校生作家の雰囲気をうまく出している。
ヒロイン橋本環奈は、高飛車さの反面、優しく傷つきやすい内面をもつ複雑なキャラクター小余綾詩凪を、ツンデレに堕ちず、深みをもって演じている。豊かな喜怒哀楽の表情がとても魅力的だ。
最後まで観終えて、「なかなかいい映画じゃないか」という感慨が残る。
「小説を書く」というきわめて内面的で画になりにくい題材を、みごと興味深く、感動的な物語に仕立て上げた。
その意味で、小説も映画もよくできていると思う。
この作品、 やはりまず小説を読み、それから映画を観るのがおススメだ。
私と違って、この小説の文章タッチに違和感を感じることがないのであれば……。