芥川龍之介『羅生門』の授業。
カットイメージ・クイズのつづきです。
「ある日の暮れ方のことである。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた」で始まる冒頭のシーンで、
<2>次のうち、この場面にいるものに○をつけよ。
ア、市女笠(の女) イ、揉烏帽子(の男) ウ、狐狸 エ、盗人 オ、死人 カ、からす
心の中でしっかり場面をイメージしていくと、これらのクイズに正しく答えることができます。
これも、ひとつひとつ、選択肢をあげて、「ア、市女笠の女、いると思う人!」と、生徒に挙手させます。
すると、全部に手をあげる生徒もいれば、いくつかに手をあげる生徒もいます。
挙手のない選択肢はありません。
でも……
正解は、「すべていない」です。
ここで重要なのは、小説では、「今、ここ」の場面があり、常にそこに戻って物語が展開していくということです。
筆者は時代背景を説明するために、市女笠、揉烏帽子、狐狸、盗人、死人、からす……と、さまざまなものを提示しますが、それらは、すべてこの場には「いない」のです。
ただ、心の中のイメージとしては、それらの映像がリアルに浮かんだあとに、否定されて消えていくので、幻のような残像が残ります。あるいは、それらが醸し出した感情が残ります。
それが、羅生門の下の石段に腰かけた「今ここ」の下人のイメージに重なり、時代の空気やこの場の不気味な雰囲気を感じさせるのです。
だから、ここでも単に正解不正解で片づけることはしません。
ひとつひとつのイメージを確かめながら、それらが消えて残る、「今ここ」をしっかり押さえて、物語を読み進めていきます。
※ここで紹介したカットイメージによる『羅生門』の授業実践をまとめたレポートは、拙著『映画を観ているみたいに小説が読める 超簡単!イメージ読書術』の巻末読者プレゼントで差し上げています。