このほど朝日新聞 WEBRONZA に東京大学早野龍五教授へのインタビュー記事「福島の放射線の量を正しく理解してほしい」が掲載されました。福島県伊達市の放射線量と住民の被曝の関係について論じた最新の早野論文から、福島原発事故後に政府が提示した「1時間あたり 0.23マイクロシーベルト(0.23μSv/h)」という除染基準について、「1時間あたり0.23マイクロシーベルト(0.23μSv/h)の空間線量がある地域で生活しても、年間の追加被曝線量は1ミリシーベルト(1mSv)に達しないこと」が関係者に衝撃を与えているそうです(第1論文)。
福島原発から北西60kmにある福島県伊達市では2011年8月より外部被ばく線量を記録できるガラスバッジが市民に配布され始めました。ガラスバッジは3か月ごとに提出・更新される仕組みです(放射能対策 vol.11)。さらに住民が暮らす地域の空間線量は、上空を飛ぶ航空機モニタリングによって調べられます。これにより事故後5ヶ月から51ヶ月目の個人積算線量と空間線量との関係データがそろいました。
長年政府が示してきた「追加被ばく線量年間1ミリシーベルトの考え方」(参考)が実態とかけ離れていることは早くから知られていました。また事故直後から1年ほどテレビU福島の社員30名がガラスバッジを持ち続けていましたが「テレビ局員の積算線量は1mSvにも達していませんでした」。ただ各個人がどのような生活を送っていたのかは不明だったので、論文で理由は「分からない」としたそうです。
その一方で産業技術総合研究所の内藤航さんらが時間別の線量データが取得できる線量計「Dシャトル」とGPSを使って個人の行動記録を組み合わせて調査(Isotope News 2015年11月号「個人線量と空間線量、行動パターンとの関係」)しており、「内藤さんらのデータと、私たちの伊達市でのデータに、それほど大きな違いはありませんでした」。また南相馬市立総合病院の坪倉正治医師によるガラスバッジのデータも利用することができました。こうした様々なデータを利用することで、自信をもって論文を執筆することができたそうで、「福島で人々が生活している地域の被曝線量が、チェルノブイリ事故などから予測された数値よりも、かなりの程度で低かったのは、幸いであったと思います」と述べられています。
さらに伊達市で配布されたガラスバッジデータの実測をみると「被曝線量の増加量は時間とともに減少する」ことが分かりますが、その理由として物理的な半減期の放射性物質の減少よりも効果があったのは環境中からのセシウムの移動が考えられると述べられています。そこで航空機モニタリングによる空間線量データの変化や、ガラスバッジが配布されるまでの4か月間について県民健康調査の行動記録からデータを補足して、伊達市民の生涯積算線量を推計したところ、「伊達市のほぼ全域で、もともと自然界にある放射能からの被曝線量よりも、福島第一原発事故によって放出された放射能による追加被曝のほうが、途中から小さくなります」(第2論文)。これらから導き出されるのは「多大な予算をかけて進められる除染作業の効果」に対する疑問です。とはいえ除染しない選択がとれたかは疑問とし、世の中は科学的事実だけでは動かないし、「ではどうするか」を提示するのは科学者の役目ではないとしています。
そういえば伊達市のガラスバッジについて、かつて週刊朝日がスクープとして「個人線量計が最大4割低く表示」福島県内の子供が危ない!」を掲載していましたが、北海道がんセンター名誉院長の西尾正道氏に同調する側の意見も聞いてみたいものですね。
また一連の議論が分かりにくい方は、除染に関する有識者との意見交換会(平成26年6月15日)にある資料4-2「伊達市の除染について」(PDF)が助けになるかもしれません。
【2017.4/2 19:00追記】ところで週刊アサヒのスクープ記事だけをよりどころに「ガラスバッジが3-4割低めに検出する」と批判するブログ記事がとても多い(以下はその一部)のですが、
除染に関する有識者との意見交換会(平成26年6月15日)にある参考資料①「実効線量を理解するために」(PDF)にはこうありました。
放射性セシウム汚染を受けた地域では、放射線はあらゆる方向からやって来ます。標準人が四方八方から均等に放射性セシウムのγ線を受けた時の実効線量は、同じ量のγ線を正面から受けた場合の実効線量に対して3割近く小さくなります。つまりサーベイメータで測定される空間線量は、周囲の放射性セシウム汚染から受ける放射線に関して、常に3割くらい過大評価した”実効線量の近似値”を示していることになります。
一方、個人線量計(ガラスバッジやクイックセルや電子式ポケット線量計など)は(略)それを着用した人の体から散乱される放射線も併せて測定したとき実効線量の良い近似値を示すーつまり個人線量計と人の体が一体となって測定器を構成したときに適切な性能を発揮するーよう設計されています。(略)したがって、個人線量計を体の前面に着用していれば、放射性セシウムのγ線を体の正面だけから受ける場合も、四方八方から受ける場合も、あまり過大評価や過小評価にならない実効線量の近似値を測定できることになります。
つまりサーベイメータの数値のほうが過大表示なのであって、重要な臓器が体の前面にあるというヒトの構造を踏まえたガラスバッジはううまくできているということ。さらにこの続きには、政府の「追加被ばく線量年間1ミリシーベルトの考え方」(参考)で示された「屋外に8時間、木造家屋に16時間滞在する」という仮定した生活パターンが多くの人の生活実態とかけ離れていることが指摘されています。つまり同じ場所に8時間留まっている人はいませんし、車で移動もする、鉄筋コンクリートの家に住んでいる人もいる、そういうことです(この場合ガラスバッジを家に置きっぱなしにした人は除外して考えています)。
つまり70万円で雇われたプロ市民が千代田テクノルの説明員に確認発言させたところで、科学的考察が覆るわけでも除染に対する知見が変わるわけでもありません。







