目の前の机の上には白いかみ。

白いかみをただじっと見つめる。

見ているうちにだんだん頭がふわふわしてくる。

見ようとすればするほどに、ぼんやり重くなっていく。

白い白い、真っ白なかみ。

何が見える?白いかみに何を見る?

白いかみの向こう側。

何があった?何がいた?

何にもないはずの向こう側。

私には見えた。ぼんやり見えた何かの影が。

もやのような何かの影が。

じっと見つめる。ぼんやり見つめる。

だんだんだんだん形をもって、かみの裏側で蠢き出す。

徐々に焦点が合わなくなって、世界が遠くに感じてくる。

でもね、まだまだ大丈夫。

今はまだ、瞬きをすれば戻るから。

白いかみの向こう側。

何かの影に手を伸ばす。伸ばせど探せど届かない。

ただじっと、白いかみを見続ける。

近づいているような遠くなっているような。

影はただただ蠢くだけ。

影をじっと見続ける。白いかみを見続ける。

頭の奥がじんと痺れて何も考えられなくなる。

白いかみがある。真っ白なかみ。

これは窓?違う。これは扉?違う。

これは入口?違う。これは出口?違う。

これはただの白いかみ。真っ白なただのかみ。

本当にただの白いかみ?これはただの白いかみ?

蠢く影は消えないままで、それでもこれは白いかみ。

何かがこちらへ来ることは出来ないはずの白いかみ。

白いかみをじっと見ている。

ただの白いかみをじっとずっと。




無知は罪であると人は言う。

ならば何も知らないままで天寿を全うして欲しいと祈る私を、無知であれと我が子らに願う私を、人はきっと罪人だと言うのだろう。


世界の真実を知らなくても生きていける。

過去の事実を知らなくても生きていける。

自身の正体を知らなくても生きていける。

我らのことを知らなくても生きていける。

未来を。幸せな未来を。


我々の想いを押し付けるこの行為はもしかしたら間違っているのかもしれない。しかしこの方法しかないのだ。何千何万と思考しても、結局ここに行き着いてしまうのだ。


このまま我らの手の中で微睡んでいて欲しい。

無垢で無邪気な笑顔のままでいて欲しい。

泣いたり怒ったり様々な感情を知って欲しい。

この箱庭の中で少しでも長く、自由に、生きて欲しい。


我らの願いも言葉も伝えることは出来ない。もう二度と会うことさえ出来ないけれどそれでも。

私の命が尽きるまではどうか何も知らないままで幸せな夢を。


この方法だと君に届くって彼に聞いたんだけど、ちゃんと届いてるかな。一方通行だからこっちから届いたか確認できないのが辛いね。

君がここからいなくなってから、いったいどれくらい経ってしまっただろう。

もう数えるのにも飽きてきたな。

ねぇ、いつになったらもどってくるの?

必ず帰るって言葉は嘘なんかじゃないことを

 、僕らはちゃんと知ってるから。そこは安心してね。

でも、なんていったらいいんだろう。君がいないと紅茶の味も香りも感じられないんだ。

あの人秘蔵の茶葉を使ってもダメだった。どうしてだろう?絶対美味しいはずなのにおかしいよね。

僕は病気になったのかな。やだなぁ

いや、こんな事を言う為にこれを使ってるわけじゃないんだよ。

あのさ、君はいま元気?毎日楽しい?

僕らはそれが一番気になってるんだ。いつもそればかり考えてるんだ。

ねぇ、そっちでもちゃんと笑えてる?

僕らのように君を守る人が愛す人がいない世界だって聞いていたから、心配なんだよ。みんなみんな。

葉の陰で泣いてない?木のうろに吐き出したりしてない?

辛くなる前に、苦しくなる前に、少しでもいいから帰っておいでね。

大丈夫。あの時みたいにこの世界に閉じ込めたりしないから。ちゃんと待ってるからさ。ね。

ああ、長く話しすぎたな。もうそろそろお茶会の時間だ。

うん。まだ話し足りないけれどこれ以上喋っても同じ事しか言えないだろうしそれに

いや、これは言わないでおこう。言わない方がいいだろうから。

気になるなら帰っておいでよ?なんてね。

それじゃあ、いつになるかわかんないけどまたね。