君を殺してあげようか?

なんの音のしない静かすぎる部屋に

立ち込めた薄暗い雰囲気を

薙ぎ払うかのように

響き渡るテノール。

その途端 少女はいや、

少女の形をしたナニカは

ゆっくりと笑み浮かべ

躊躇いもなく頷いた。

男は骨のようにゴツゴツとした黒い指を伸ばし

そっと女の首筋に触れる。

そして肌の感触を楽しむかのように

少女の首筋に指を這わせていく。

少女のなめらかで一点の曇もない

金を纏った白と

男の浅黒く穢れに染まった

錆び付いた黒が

美しいコントラストを描いていた。


少女は暖かだった。





貴方はきっと気づいてないんだろう

窓の外舞い散る桜吹雪も

店員がこぼした一滴の珈琲も

もういないあの娘のことのことばかり切ない瞳で話していることも

そして…私の熱のこもった視線にも


気づかれなくてもいい

溢れそうになったナニカを

そっと静かに胸の奥に仕舞う

そう 気づかれなくてもいいの

私は笑って貴方の話を聞く

いつものように いつものように


チャイムが鳴り響く

貴方は私に背を向けていく

その姿をしばらく見つめた後

冷めきった珈琲に角砂糖を1つ落とした


やっぱり溶けないかぁ…


暖かい春の午後 桜吹雪は舞い続ける





何かが落ちる音がかすかに聞こえた

ゆっくり瞼を開き 重たい頭を持ち上げる

視線をめぐらせると机の上には この部屋に不釣り合いな程に豪勢な封筒が置かれていた



親愛なる君へ

深夜十二時 いつもの場所で

伝えたいことがあるんだ

紅い林檎と穢れた白銀の剣

それから柔らかいパンを持っておいで

上質なワインを用意して君が来るのを待っているよ

沈黙の山羊より


追伸:くれぐれも羊飼いには見つからないように



手紙にライターで火をつける

火が舐めるように紙をつたっていく

熱さを感じ手を離すと欠片が燃え尽きた音がした