芸人だよ、バカヤロー

お笑い芸人としてのビートたけしと、その師匠、深見千三郎の青春時代を描いたNetflixオリジナル自伝映画『浅草キッド』をレビュー。


浅草キッド

制作年:2021年(日本)

ジャンル:コメディ/ドラマ

監督/脚本:劇団ひとり

原作:ビートたけし『浅草キッド』

主題歌:桑田佳祐『Soulコブラツイスト〜魂の悶絶』



キャスト:大泉洋柳楽優弥門脇麦、土屋信之(ナイツ)、鈴木保奈美、and more…


『浅草キッド』のあらすじ/概要

舞台は昭和40年代の浅草、大学を中退し、“ストリップとお笑いの殿堂”と呼ばれていた浅草フランス座に飛び込み、東八郎や萩本欽一ら数々の芸人を育ててきた・深見千三郎(大泉洋)に弟子入りしたタケシ(柳楽優弥)。舞台の上だけでなく日常生活においても芸人たる心構えを求める元、タケシは芸人としての成功を夢見て“笑い”の修行に励んでいたが、テレビの普及と共に演芸場に足を運ぶ人は減る一方…。お茶の間を席巻した大人気芸人を数々育てながら、自身はテレビに出演することがほぼなかったことから「幻の浅草芸人」と呼ばれた師匠・深見との日々、個性と才能に溢れる仲間たちとの出会い、そして芸人・ビートたけしが誕生するまでを描いた青春映画

Filmarksより抜粋


『浅草キッド』の感想/レビュー



ビートたけし原作自伝小説『浅草キッド』を、劇団ひとり監督/脚本、大泉洋(深見千三郎)・柳楽優弥(ビートたけし)のW主演で描いた青春ドラマ映画『浅草キッド』。たけしの演技指導と現代パートでのたけしの声は松村邦洋らしい。

個人的には原作の『浅草キッド』は未読。深見千三郎さんのこともまったく知りませんでした。



この映画は別にコメディ映画としては面白くもおかしくなかったです。けど、青春ヒューマンドラマとしては十分に楽しめました。

別に芸人ビートたけしのお笑いや、生き様に共感するわけでも憧れるわけでも感化されるわけでもないし、感動させられるわけでもないんだけれどね。(尚、私はお笑い自体は大好きです)

でも何故か知らんが、何故だかそこにはノスタルジーがあった。



金を出して観に来てるはずの客に何様だといちゃもんをつけられ、それに対して「芸人だよ、バカヤロー」って言い放つ狂気と言うか危うさは、たけしにしろ、深見千三郎にしろ、恥ずかしげもなく芸人たろうとしているプライドが透けて見えて、非常にカッコいい。

個人的な話をするなら、バンド、ギターで夢を追い青春時代を過ごしたけれど、金を出して観に来てるオーディエンスに対して、その態度の悪さにブチ切れることはあっても、自分が「ギタリストだよ。ミュージシャンだよ。アーティストだよ、バカヤロー」とは口が裂けても言えなかったもんね。

だから、私は未だに自分をギタリストとは言わず、ギター弾きだと言っている。そこにはやはり、自分はプロではないという本職のプロに対してのリスペクトや、逆に自信の無さ、自分自身納得いってない面があるからであろう。



それにしても大泉洋、柳楽優弥のW主演両名の演技は素晴らしい。特に大泉洋はね、前述の通り深見千三郎さんのことは全く存じ上げませんけれども、そのプロ意識であったり、ユーモア、そしてそこはかとなく漂う悲哀のようなものの表現が素晴らしい。

このユーモアとペーソスのコントラストは、チャップリン的と言ってもいいのかもしれない。

柳楽優弥に関しては、イイし上手いし、特に若き日のビートたけしの狂気に満ちた側面の演技は素晴らしいと思うんだけれど、何せ誇張が過ぎるのではないかなと思う場面があったりする。

特に顔面をひくつかせる癖に関しては、それはバイク事故起こして以降の癖やろっていう。

そういった面を始め、タップダンス等、演出的な過剰な誇張は否めないのではなかろうかと思うし、少々鼻に付く。エンタメとしてのわかり易さを追求した結果仕方のないことなのかもしれないけれど。



フランス座で夢を追いかけ、仲間と切磋琢磨している青春はとても微笑ましい。青春や夢を追いかけることは素晴らしいことだなと思わせる。

本当は歌手志望のストリッパー千春を演じた門脇麦に、なんかしらんが胸キュン。

なんでしょうかこれは。恋?(違)

途中、あれ?あいみょん?とか思ってみたり。なんせ一生懸命な姿は、男女問わず美しくカッコいいのである。



また深見千三郎とその妻である麻里さん(鈴木保奈美)の仲睦まじさも微笑ましい。いいよね。こう言う関係性。妻が最大の理解者。苦労しても貧乏暮らししても、幸せならそれでいいじゃない的なね。価値観は人それぞれだと。

これは、麻里のような存在が深見にとって都合がいいから羨ましいと思うのではなくて、お互い愛し合っているのが解るからこそ、微笑ましいと思えるし、あるシーンではジーンとくるものがあったりする。相手を敬い尊重し、時には衝突しながらも受け入れ、受け入れられるからこその愛なのだ。叱ったり叱られたりすることも、それは幸せなことである。深見とたけしの師弟関係にしろ、深見と麻里の夫婦関係にしろ、叱ってくれる相手、また、叱れる相手って、多分そんなに多く存在するものじゃないでしょう。怒りに任せて怒るのとはまた違うと思うから。


そう。この映画はビートたけしと深見千三郎を主軸に据えた映画ではあるのだけれど、その周りには沢山の人が居て協力や助け合い、時には鎬の削りあいがあってこそ、フランス座も、映画自体も存在している愛に溢れた作品だと思う。


「いいか?笑われるんじゃねーぞ。笑わせるんだ!


この印象的な言葉は、芸人としてというよりかは、支え合う人と人としての在り方を著した、素晴らしい名言なのではなかろうかと思う。


総評

別にお笑いに興味なかろうが、ビートたけしに興味なかろうが、人生讃歌、人間讃歌として素晴らしい、青春ヒューマンドラマなのではないでしょうか。

昭和のノスタルジーもさることながら、夢を見、追いかけたことのある人間であれば、シンパシーを感じる面もあるであろうと思います。


星4つ!