金木犀が薫ったのは9月11日だった。ボストンバッグを担いだ成田でも、降り立った博多でも同じ匂いがしていたから、どこもかしこも同じ秋だと思った。それから何日かして黄色い花は落ち尽くして、金木犀2021は絶滅した。はずだった。
10月1日のおおきなおおきな台風のあと、嘘みたいに、一回最盛期を迎えて終えたのを忘れてしまったように、また一斉に金木犀は薫りはじめたらしい。にわかには信じられないのだけれど、彼らは示し合わせて匂い立つようで、わたしが「あ」と思ったその数時間後にTwitterのトレンドに『金木犀』が入っていた。彼らだけのなにかしらの信号か合図があって、せーの、で東西南北津々浦々2回目の秋を咲き誇っているのかなあと思うと、あの許しがたいおおきなおおきな台風が一旦まっさらにした地平もギリ憎まずにいられる気がした。
「あ」と、立ち止まって、まわりをうかがいながら少しだけマスクを下げる。思いっきり吸い込んだらわたしも金木犀になる。好きなひとが住んでる遠いまちも、きっと同じ秋であれ。わたしたちの2021年10月が馥郁たる豊かな日々でありますように。