獣ツアー(東京)/吉澤嘉代子 | quarters

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いろんなライブの記録。二丁目の魁カミングアウト・きのホ。・ONIGAWARA・ RAG FAIR・ズボンドズボンなど。

SET LIST

ユートピア
ラブラブ
ねえ中学生
らりるれりん

えらばれし子供たちの密話
屋根裏
人魚
綺麗
地獄タクシー

麻婆
カフェテリア
ぶらんこ乗り
一角獣

[encore]
月曜日戦争
ストッキング

[W encore]
フレフレフラレ



会場入ったらもうすごい。ときめく。ステージの上の鏡台に光が落ちてシェードに灯が点って、キラキラした音の猫ふんじゃったとかが流れてて、1時間の客入れの時間が全然長く感じない。始まる前から胸がきゅうきゅうする。



地獄タクシーのオケでスタート。楽器隊が入ってきて、シルエットの嘉代子が両手を滑らかに、たおやかに伸ばして、それはもう歌手というより、淑女の身のこなしでした。最初に言っておきますけど!今日ずっと嘉代子に見蕩れてたから!!一瞬も目逸らしてないから!!逸らしてないっていうか、目が離せなかった。

SEから地獄タクシーで始まるのかなと思ったら、ぶくぶく……って泡の音が鳴って、水の中に落ちていくような透ける青の照明に『ユートピア』。あんな虫も殺せぬようなレディーの仕草を見せたのにギター背負ってもうそのギャップで目眩する。イントロのギュンギュン感やばい。
衣装の花柄ワンピースもかわいいかわいいかわいい。目の上の金色のラメが15列目でも分かる。最初曲に合わせてゴーグルでもしてるのかと思ったくらい。

全部終わった後に改めてこの歌詞を思い起こすと、『何度でも生まれ変わる』でヤラレタって思う。


ギター下ろしてエプロンを掛ける嘉代子。『嘉代子は平凡な主婦。夫を愛しすぎている以外は……』ってナレーション。嘉「あの人ったらまた爪切りっぱなしにして!コレクションコレクション♡」るんるん、って軽妙な足取りでステージを跳ねる。ハリキリ奥様がとても愛らしくて、きゅんきゅんしてしまう。ただものすごい危うさを感じで、そわそわもする。

そこから『ラブラブ』でうわぁ!ってなる。2曲目にして世界観に飲み込まれる。引きずり込まれる。ステージの真ん中に若奥様がいるんです。表情、仕草、嘉代子だけど嘉代子じゃなくて。タンバリンかわいかった。


『ねえ中学生』は泣きそうになる。聴くたびに、あの女の子のことを思いだす。嘉代子が呼びかけるみたいに歌う。右のポケットを叩いてリップクリームの形を確かめるように。
この演出で聴くと、奥様は旦那様と結婚してもなお “女” じゃなくて “娘” だったんだなぁと思う。


嘉「会社に着いたら1時間おきに電話してって言ってるのにまだ掛かってこない……

『らりるれりん』。歌詞と物語のシンクロ~!


「(電話のベル音) あなた!?」
『あなたじゃないわよ嘉代子さん』
「お義母さん……!」
『あなた麻婆豆腐とか麻婆茄子とか麻婆春雨ばっかり作ってるんですって?』
「スミマセン、喜んでもらえるものでつい…」

『それに嘉代子さん、あなたまだ「獣ツアーにようこそ」ですとか「吉澤嘉代子のライブはこういう小芝居が挟まります」とか何にも説明してないじゃない。これじゃあ初見の人がついてこれないじゃないの!』
「あっ、そうだった!獣ツアーにようこそ!吉澤嘉代子のライブはこういう小芝居が入ります」
『あなた言ったことそのままじゃないの!』
「お義母さん、また今度」
『ちょっと嘉代子さんまだ言いたいことがあるのよ……!(ガチャン』

「ババァうっせーな!」奥様ー!!!

とまあこんな感じの掛け合いがありまして、サングラスを掛けたラッパー嘉代子が「イカしたメンバーを紹介するぜ!」ってメンバー紹介。「目が合ったらメロメロだぜ!」とか。内容は特になかった(笑)
嘉「獣ツアー後半戦いくぜっ!」えっまだ4曲しかやってないのに!?!?


もう一度電話のベル音。シークレットコール。受話器を取った嘉代子の囁きから『えらばれし子供たちの密話』。
アルバムで一番好きな曲です。(でもついさっきまで “楽園へは行けないけれど” を “楽に上へは行けないけれど” だと思ってた)
とても良かった。仄暗い、夜の匂いが立ち込めていた。


『屋根裏』は照明がものすごかった……!!めちゃくちゃかっこよかった。そして『人魚』。


(義母)『やっぱり嘉代子さんは駄目ねぇ、うちの家柄に合わないと言うか……』

嘉「でもいいの。あの人が綺麗って言ってくれたから」


ステージの真ん中でスポット浴びて婉然と佇むんでそう言って『綺麗』。泣きそうになった。こんなに、こんなに美しいステージを今まで生きてきて何回見たことがあったかな。何を言っても無粋になるな、口惜しい。



強い雨の音。帰宅した旦那様。

「あなた!」
『……お前、駄目だな』
「あなた愛してるっ!」

鎌を振り下ろす奥様。サイレン音。『地獄タクシー』。
左手にはボストンバッグ。赤の照明バッて入ってサビの明滅。青赤。なんだこれかっこよすぎるだろ!!!ここまでの物語と、パーッと華やかな音とのギャップでもう完全にショーだった。完璧なエンターテインメントで。


嘉代子掃け。下手にあるラジカセから流れるニュースは『世田谷区で午後3時頃、男性が死亡しているのが見つかりました』との報。このニュースすごいリアルな言い回しで、SEなんかもちゃんと作ってて、その中で『首がない』って淡々と伝えられる事実がとても異質に浮かび上がってきてゾクゾクした。

時報を挟んで日本昔ばなし的な番組のスタート。今日のお話は『麻婆』。辛い辛い麻婆の話。これもすごい “それっぽい” つくりで、細かいところまで本当に素晴らしい。

『王様がどうしても食べたいと言ったもんだからさあ大変。一口食べると、目玉が飛び出し、肌は鱗になって、火を吹いて天に登ったとさ。めでたしめでたし』みたいな、歌詞をそのまま短編にした不思議なお話。


『麻婆』はあれは何て言うんだ……横浜中華街の春節みたいに、黒子2人を引き連れて、龍を掲げて客席を練り歩く嘉代子。衣装もどことなく中華なサテンっぽい黄色のタイトなワンピースになって、これもめちゃめちゃかわいかった。正直突然の展開にしばし茫然としてしまった。


そしてまたステージへ。

「あの人との出会いはまだわたしがカフェで働いていた頃だった」

『いつも元気ですね』
「えっ、そうですか?わたしいつも駄目で……」
『駄目なところも素敵ですよ』


『カフェテリア』。ギターと鏡台の前に座った嘉代子の2人だけで。この曲までスクリーン使ってて、空?雲の上が描かれていたのが何でなんだろうなって気になって、“海が見える” じゃないのは意味があるのかな~とか、色々考えてた。

『ぶらんこ乗り』はベロアみたいな照明で、光が宝石みたいに降り注いでてめちゃくちゃ綺麗だった。ウッベ。



「読みかけの本がある間は、その本に守られてる気がした」

この言葉は物語にのるというよりも、ただ吉澤嘉代子の言葉として入ってきた。敢えて今までMC入れず現実感薄めてたのに、(たしか)歌詞そのままじゃなくて少し言い回し変えて、ここで現実をつなぐというか、引き戻すような、なんとも言えない曲振りでした。

最後の最後『一角獣』でもっかい嘉代子ギター背負うのかっこよすぎやしませんか。現実から夢に焦がれる歌だから、この立ち位置なんだろうなと思う。もう全然うまく言えないけど、とても良かった。



アンコ。ここからはもう通常の吉澤嘉代子としてグッズ紹介など。Tシャツは背面に嘉代子をモデルにしたイラスト。「素朴な顔がよく似てます」

麻婆キャップの色はスタイリストさん(だっけ?)のイチオシらしく、「オシャレな人が良いって言うなら良いんだろうなって思って…最終的には自分で決めました!」

スマホケースはmちゃんが白買ってたんですがほんとにかわいくて!「歌詞に “連絡網” って入れたかったんですけど文字数が足りなくて」ってことで、グッズで取り入れたそうです。背面のあれは連絡網だったのか。
「(これを買って)えらばれし子どもたちになってください」


グッズTのバンドメンバー登場。ここら辺曖昧なんですが、ギターのKashifさんがナレーションの旦那役だったんだっけ?
K「(ステージで自分の声聞くのは)複雑な気持ちでした」嘉「楽しかったですね」K「たのしかったです」嘉「『言わせてる』って言った?」


アンコは『月曜日戦争』。「『月曜日戦争』をやろうと思うんですけど、月曜日と戦う宇宙戦争の歌です。ジャケットをたなかみさきさんが描いてくださって、色っぽくて、レトロで素敵な絵を描く方で……わたしは “レトロ” って言われるのちょっと『ん~?』って感じなんですけど、どうなんでしょう」
たなかさんは以前から好きでTwitterもフォローしてたので、ジャケ見た瞬間とても嬉しかったです。ちょっといやらしくて、ちょうかわいい。

「今日は何曜日ですか?」客「「にちようびー」」「ちょーどですね。明日に向かって歌います」


照明が虹色で、そのまま水金地火木土天海冥みたいな、ピカピカととても素敵。ステージにいるのは本編とは違う女の子だった。流鏑馬で射ってくるし。


『屋根裏獣』がデビュー前から決めてた3部作の最後で、「また3枚くらいやりたいなって思ってるんですけど、全部やり尽くしたなって思って。今までの曲で、全部宝物で愛してるんですけど、……“愛してる”だって」
自分の言葉を、舌に載せて吟味して、ちゃんと味わっているのが分かる。音楽と、お客さんに対して真摯な女の子なんだなとしみじみ思う。


今までの “愛してる” 曲の中でも、ひときわ特別な曲を最後に。『ストッキング』

イントロで「あっ」て思った。最後に最初がやってきて全部つながった感覚。わたしはこの吉澤嘉代子ちゃんを好きになって、ここに来たんだってちゃんと思い出した。とても綺麗で、このステージはやっぱり物語だった。


掃けかけて、袖の直前でくるっとターンして戻ってきて、にこにこ笑いながら客席をゆっくり見回して、最後に袖に戻っていく、その足つきがなんだかとてもいとおしかったです。


これで終わりかなって思ったらWアンコありました。「お疲れ様でした~。もう一曲歌っても良いですか?目が悪いんで眼鏡、見えない……」ってさっきの1stアンコ以上にふにゃふにゃな嘉代子。ガチ眼鏡。あーかわいいんじゃー!!

下手のラジカセの前に行って、「ありがとうございました」ってへたっと座り込んでしまった。「明るくしてもらえますか?」客電点いて、嘉代子と客席がフラットになる。

嘉「2階!」
2階客「「(わー)」」
嘉「言ってみるもんだね。3階!」
3階客「「(わー)」」
嘉「ふふっ」
1階客「1階はー?」
嘉「1階!」
1階客「「(わー)」」
嘉「わたしも呼んで~」
客「「嘉代子ー!」」
嘉「はーい」

ゆるい。かわいい。

高校生の頃に作ったという曲。『月曜日戦争』のカップリングの『フレフレフラレ』。ラジカセから音出して。


リリース前なので正確な歌詞とか分かんないですけど、『ネイルが剥げたら色気がなくなった。ヒールに傷が付いたら美人じゃなくなった』みたいな1メロでもうやられた。わかる……めかしこみは魔法だからな。

客席降りて、お客さんと目を合わせて、とりわけおじさんたちの頭を撫でていく姿は控えめに言っても聖母だった。

2階席に上がって、「初めて聴いたけどもう歌えますか!?……歌ってないじゃん!」無茶ぶりもかわいかったです。


そのまま2階で最後まで歌いきって、「吉澤嘉代子でした。おやすみなさーい!!チュッチュッチュッ!!」って投げキッスして帰っていくのもうなんなんだ、えっ、もう、なに(語彙)


そんなこんなで終演なんですけど、終わった直後はあまりに素晴らしいショーの余韻であんまり物考えられなくて、でもじわじわと、奥様には救いがないなって、わたしの想像力では彼女を救えなくて、うわーーってなんかこみ上げてきた。
だけど、これが『読みかけの本』であるならば、この光景をずっと胸に抱えるわたしはこの物語に守られていて、それはわたしの希望だと思った。


国フォホールCは彼女のための劇場だったけれど、これ書いてるの9日後なんですけど、いま思い出すと水槽の中にいたような感覚もあって、それはたぶん『ユートピア』を引きずってるんだけど、あの2時間弱、あそこにいた1500人は水の中で息をしていたなって思う。それこそ密話のように、閉じ込められた世界で。苦しいことを忘れて、たまに思い出して。

とても美しかったです。また来ます。素晴らしいステージをありがとうございました