Assessing the Risks Associated with MRI in Patients with a Pacemaker or Defibrillator
N Engl J Med 2017; 376:755-764February 23, 2017DOI: 10.1056/NEJMoa1603265
Robert J. Russo, M.D., Ph.D.et ai.
ペースメーカーまたは除細動器をいれた患者さんにMRIをとることのリスクを評価する
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1603265
臨床疑問
心臓の悪い患者さんは、脳血管障害のリスクが高い。しかし、ペースメーカーやICDが入っていると、MRIをとりにくいのが大問題である。最近になってMRI対応型のペースメーカーやICDが販売されているが、非対応の機種もまだまだ多いのが現状である。こうした非対応型のペースメーカー/ICD植え込み患者に対してMRIを行うことは禁忌とされているが、実際本当に有害なのだろうか?
PICO
P:18歳以上で、2001年以降にMRI非対応型のペースメーカーかICDの植え込みを受けている患者
・デバイスのメーカーは問わない
・臨床的に1.5テスラのMRI検査が強く必要と判断された
除外基準
・機能していないデバイス
・ペースメーカー、ICD以外のデバイス
・胸郭以外に植え込まれている
・電池切れ間近
・ICDに依存状態の患者
I:胸部以外の1.5テスラのMRI検査
MRI検査前に、以下のような条件にデバイスを設定する。検査後に元の設定に戻す
² ペースメーカー
・依存状態:DOO or VOO(自脈に関係なく、非同期で刺激)
・非依存状態:ODO or OVO(ペーシング機能をオフ)
² ICD
・依存状態:除外
・非依存状態:除細動機能、ペーシング機能をオフ
C:なし
O:
² Primary end points
・死亡
・緊急での交換を必要とするジェネレータやリードの故障
・ペースメーカー依存患者において、キャプチャできない状態(刺激してるのに脈が出ない)
・新規の不整脈
・完全、または部分的なジェネレータの電気的リセット
<この論文の結論>
今回の研究では、MRI非対応のペースメーカーや除細動器をいれていてなおかつMRIを取ることが必要な患者さんで、胸部以外のMRI(1.5ステラ)をとってもデバイスやリードの不調は起こらなかった。
エビデンスの妥当性はOK?
1.患者群は,その疾患の経過中の共通時点で収集された,よく定義された代表的と言えるものだったか
評価 ( △ )
コメント:2009年〜2014年に、アメリカの19施設でリクルートされたとあるが、どのようなセッティングかの記載はない(外来か入院可も不明)。しかし、この場合デバイスの植え込みを受けていることが重要なので、セッティングは代表性に影響しないように思われる(P.757右下)。
【出た意見】患者さんの疾患の重症度がわからないので、どういう患者さんなのかイメージできない。軽症の患者さんでMRIとっても大丈夫だった、というのと、重症の患者さんでも大丈夫だった、というのは違うだろう。
2.患者のフォローアップは十分長くて十分完全にできていたか
評価 ( ○ )
コメント:1500例が登録され、一次エンドポイントについては1500全例に対して解析されている(P.760, table 2)。
3.他覚的尺度のアウトカムの定義は,ブラインドが守られていたか
評価 ( ○ )
コメント:ブラインドについては明記していないが、MRI検査中と直後に行われるので、不可能と思われる。しかし、アウトカムの評価への影響は無視できそう(デバイスの不調は機器で測定するもので主観の余地ははいらないから)。よってブラインドはされていないが、妥当性の点では○とした。
4.サブグループごとに異なる予後となった場合,1) 重要な予後因子の調整は統計学的にされていたか,2)その予後因子をサンプルサイズ計算して確かめた,その後の研究はあったか
評価 ( ○?△? )
コメント:ペースメーカーとICDは予後が異なる可能性があるが、これらはそもそも別個に解析される予定で、この比較を主目的とはしておらず、サンプルサイズ計算にも用いられていない。一次エンドポイントを生じた症例は、留置後長期間経過しているものが多かった。このため、留置後の経過時間とアウトカムとの関連を比較しているが、有意な相関を認めなかったとある(P.760、右下)。
【出た意見】
複数回MRIを取った患者さんでも変わらなかった、という記述がある。が、それ以外の予後に関連しそうな因子との関係はみていない。
治療効果は臨床的に重要?
Generator failure requiring immediate replacementが1例あり、これは重篤なアウトカムだが、この症例の経過を見ると、MRIの影響というよりはプロトコルの逸脱でもあるように思われる。
脱落はゼロなので、ITT分析、感度分析は不要。
自分の患者への適用はOK?
1.自分の患者や臨床のセッティングはコホート研究の患者と比較して,コホート研究の結果を適用できないぐらい異なっているか
コメント:
①MRI検査前後の設定変更や、緊急時の対応の備えは、専門性の高い人的資源を必要とし、ややハードルが高い。しかし、総合病院では循環器内科医や臨床工学技師は常駐していることが多い。彼らの協力を得られるのなら実施できそう。
②MRI対応モニタが必要だが、これはさほどのコストにはならないと思われる。
③どのようなセッティングや疾患の患者に行ったのかわからないのが問題である。どれくらい脳梗塞や脳炎が疑われている不安定な患者が含まれているのかがわからないので(ある程度はいそうだが)、こういった患者に適応できるとは断言できない。
④1.5テスラのMRIはまだまだ主流なので、適応できる。しかし、今後は3テスラのものが増えてくるであろうし、3テスラのMRIを採用している施設では本研究の結果を適応できるとは限らない。
【出た意見】
患者さんの状態が十分書いていないので、当てはまるかどうか判断しにくい
2.コホート研究の結果は,自分の患者の治療開始 / 治療のモニタリング / 追加検査の必要性の有無や種類を決定するような,臨床的に重要なインパクトを与えるか
コメント:基本的に有害事象は稀であり、臨床的な必要性が高ければMRIを考慮して良さそうである。しかし、電気的なリセットはペースメーカー群の1%強に起きる可能性があり、緊急時の対応や、ペースメーカーの設定変更がすぐにできるように前もって準備しておく必要がある。
さて,私の患者さんにはどのようにするのがよいだろうか?
安定した患者で、①、②、④を満たす環境なら実施してみたい。
不安定な患者では、上記に加え、適応をより厳しく検討してから実施したい。
【その他コメント】
- 研究の対象となった患者さんの重症度がわからないので、実際には使いづらいのではないか。