本が好き!さんからの献本『生成流転の哲学 人生と世界を考える [ 小林 道憲 ] 』について
ギリシア哲学、東洋思想、昆虫、科学、仏教、歴史、芸術と幅広い分野から「生命」を考えるエッセイ集。その縦横無尽さに脱帽な1冊。
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レビュー
まずは、著者の方の知識の幅の広さに驚く1冊です。
ヘラクレイトス、宇宙、食虫植物、石器時代の洞窟壁画、マチュピチュ、和辻哲郎の風土論。孫子・韓非子・老子、ギリシア悲劇「アンティゴネー」、仮想現実、良寛、親鸞、道元など、文系・理系の別に関係なく、洋の東西を問わない分野で、古代から現代まで時代も問わず「生命」について考える全10章構成の哲学エッセイとなっています。
従って、読者自身の立ち位置で「生命」を考える時に、本書のどこかのエッセイがヒットしてきて、刺激を受けることができものです。
特に印象に残ったものを紹介しながら、私の考えも書きたいと思います。
●「エッシャーの多義図形」
オランダの版画家M・C・エッシャーの悪魔が踊っているようにも、天使が踊っているようにも見える「円の極限Ⅳ(天国と地獄)」と題する作品を大際にしたエッセイです。
本書にもその絵がついていましたが、びっくりしました!円形の中に天使と悪魔がびっしりと描かれていますが、悪魔の踊りに焦点を合わせると天使が白い背景になり、天使の踊りに焦点を合わせると悪魔が黒い背景となるという不思議なものです。
著者はこの絵から、世界は多義図形のように多様な様相が重ね合わさった状態で、知覚者・認識者がどのような視点を持つかで見え方が変わるというのは、主観・客観について考えさせられる話でした。
この作品は、倫理的観点から、エッシャーは、「善は悪がなくては存在しません。従って、神という観念を受け容れるのなら、同様に、悪魔の存在も仮定しなければなりません。これが釣り合いというもので、この二元性が私の人生です」と語るように、善と悪との相補性を象徴的に表現し、善悪は、相関的、相対的なもので、相転換して世界の生成を担っていることを表わしているとのことで、善悪、生死など二分法的に考えられるものが、生成にはお互いに必要で、状況で転換するものなんだというのを感じることができました。
いろんな本を読んだり、映像を見たりする中に本書のエッセイネタを発見したら読み返し、「こんな考え方をするんだ」なんていう楽しみ方もできる1冊だと思います。
<書籍データ>
『生成流転の哲学 人生と世界を考える』
著 者:小林道憲
発行所 株式会社ミネルヴァ書房
2024年2月20日 初版第1刷発行
定 価:2,800円(税別)