#667 レビュー 『はじめてのギリシア悲劇』 | 歴史に遊び!歴史に悩む!えびけんの積読・乱読、そして精読

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今年はギリシア悲劇を読むのがテーマなので福徳本として『はじめてのギリシア悲劇 (講談社現代新書) [ 丹羽隆子 ] 』を読みました。

英文学者の著者がギリシア悲劇各作品で自ら楽しんだことや感じたことなどを交えながら、その作品を紹介してくれるギリシア悲劇を楽しむあんちょこ本的な1冊

 

 

  著者の丹羽隆子さんについて(本書より)

本書のデータによると、著者の丹羽隆子さんは、1942年生まれ、東京外語大学大学院を出て、英語、英文学を選考されている方です。著者には『ギリシア神話』『ローマ神話』などがある方です。

 

 

  レビュー

本書は、ギリシア悲劇三大作家のアイスキュロス、ソポクレス、エウリピデスの現存する作品のうちの17作品について、背景、あらすじ、ポイント、著者の感想をはじめ、後世の文学作品や演劇作品への影響や解釈に関する議論となっているところなどを解説してくれるものです。

 

本書で改めて確認したことは、ギリシアのアテナイ民主政の成立によるアテナイ市民社会の成立、対ペルシア帝国に対するギリシア世界の勝利とその中心的ポリス国家のアテナイの繁栄、アテナイとスパルタとの長年にわたる覇権争いのペロポネソス戦争での衰えながら、最終的に無条件降伏に追い込まれたアテナイの市民社会の堕落と、この状況とギリシア悲劇は切っても切れない歓迎であるということです。

 

僭主政が崩壊し、民主政アテナイの市民社会の盛り上がりと対ペルシアとの勝利で絶頂に向かっていくアテナイで活躍した貴族階級のアイスキュロスは、アテナイが打ち立てた新しい秩序を心から信じ、アテナイ主導のギリシア世界のすばらしさを実感している中で、その悲劇作品をつくることができました。

 

ソポクレスは、アテナイの富裕層出身で多くの国家的要職を歴任し、偉大な政治かペリクレスとともに国事に携わりアテナイの絶頂期を知るものです。90歳近くまで行き、その最晩年まで悲劇作品を生み出し続けました。アテナイの全盛期から、ペロポネソス戦争で疲弊していく時代を生きています。

 

エウリピデスは、アテナイの商人の息子で公職につかず、洞窟で隠遁生活を送ったといわれる先輩二人と比べるとアテナイ市民としてはかなり異色な方です。エウリピデスが活躍する頃は長年続くペロポネソス戦争で疲弊、衰退するアテナイという状況でした。

 

この前提に立って、3人ともが題材をギリシア神話に取りながら、それをどのように悲劇として仕上げるのかという違いを味わうこともギリシア悲劇を楽しむポイントと分かります。

 

取り上げられている作品は

 アイスキュロス

  ①ペルシアの人々

  ②縛められたプロメテウス

  ③アガメムノン

  ④供養する女たち

  ⑤恵み深い女神たち

 

 ソポクレス

  ①エレクトラ

  ②アイアース

  ③オイディプス王

  ④コロノスのオイディプス

  ⑤アンティゴネ

 

 エウリピデス

  ①メデイア

  ②ヒッポリュトス

  ③イオーン

  ④トロイアの女

  ⑤ヘレネ

  ⑥バッコスの信女たち

  ⑦キュクロプス

 

となっています。現存する全作品ではないですが、ギリシア悲劇の各作品を読む前に読めば、予備知識をもって楽しめるものですし、読んだ後ならばそんな観点があるのかとか、そういう意図だったのかとかが分かり味わいが深くなり、先でも後でも楽しめるものだと思います。

 

加えて、各作品ごとに、後世のシェイクスピア、ジョイス、フロイト、三島由紀夫などへの影響も知ることができるので、読書の関心の幅も広げることができるものになっているのもありがたいところです。

 

〈書籍データ〉

『はじめてのギリシア悲劇』

著 者:丹羽 隆子

発 行:株式会社講談社

価 格:660円+税

 1998年12月20日 第1刷発行

 講談社現代新書1433

 
 
 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

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