ホメロスの『イリアス』のトロイアを掘り当てた男、ハインリヒ・シュリーマンのその人生を知る『古代への情熱 シュリーマン自伝 (新潮文庫 新潮文庫) [ シュリーマン ] 』
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レビュー
タイトルの「古代への情熱」について
日本ではシュリーマンの自伝と言えば「古代への情熱」で通っているのですが、訳者によると原著にはそのような表題はないそうです。原著のタイトルを直訳すると「死までを補完した自叙伝」なんだそうです。訳者は本書については「古代への情熱」が原著にはないので変えたかったそうですが、編集部から定着してしまっていて変えがたいとのことでそのままになったそうです。
本書を読み、シュリーマンの幼少期のトロイアを発掘するという誓いから、そのためにもと商人となって財を築き、考古学や発掘については素人とはいえ、ついに成し遂げたことを知ると「古代への情熱」こそタイトルにふさわしいと思いました。
本書について
本書は、シュリーマンが幼少期からトロイア発掘を決意するも、牧師の父のスキャンダルに引退から商人となって生計を立てながら、いつに日か発掘するぞと情熱を持ち続ける人生行路と、トロイア戦争関連の発掘をしていく話で構成されています。
まずは、ハインリヒ・シュリーマンによる簡単な自叙伝部分について
シュリーマンは1822年に生まれます。幼少期に父からの贈り物『子どものための世界史(ゲオルグ・ルートヴィヒ・イェラー著』のトロイア戦争の挿絵を見て、父にトロイアがあるはずで、それを発掘するという夢を持ちます。ただその夢について遊び仲間に話してもバカにして笑うだけでした。そんな中、近くの村の小作人の娘でシュリーマンと同じ年の女の子はよき理解者で、結婚して一緒にトロイアを見つけようと誓い合ったそうです。その後、父のスキャンダルなどもあって働かざる得なくなり、働いて一人前になったら誓い合った女の子を迎えにいき、一緒にトロイア発掘をとがんばったそうですが、ロシアで一人前の商人になり迎えに行こうとしたときにはその女の子は結婚してしまっていました。失意に落ちますが、それでもトロイアを発掘する情熱は冷めず、1868年ついにその夢を始動させることや、独学で英、フランス語、オランダ語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、アラビア語、古代ギリシア語などを短期間で習得したその方法などが描かれており、語学の習得方法について非常に役立つのではと思いました。
次に、第2章以下の発掘については、シュリーマンの死後、妻のソフィアが依頼して執筆してもらった形になっています。
発掘からについては、まずはイタケー、ペロポネソス半島などトロイアに攻め込むギリシア側の旅行やトロイアの旅、そして1871年からの第1回トロイア発掘、1874年からのギリシア軍総大将アガメムノンのミュケーナイ発掘、1878年からの第2次、第3次トロイア発掘などが続きます。シュリーマンは私費を投入して発掘作業に取り組みます。情熱無くしてはできない行為です。
トロイアの発掘については、学者たちの間ではピナルバシの丘こそがトロイアという定説になっていたそうですが、シュリーマンは旅行して、ホメロスの『イリアス』のトロイア軍とギリシア軍の対陣風景や、ギリシアの英雄アキレウスがトロイア軍総大将ヘクトルを一騎打ちで討ち取る前にトロイアを3周追いかけっこした記述から、定説の地ではなくヒサルリクの丘こそトロイアだということで発掘します。
学者が長年研究してきた学説よりも、このホメロスの『イリアス』を信じたことがトロイア発掘につながったわけですが、ホメロスの『イリアス』もトロイア戦争から400年後、トロイア戦争自体は3000年前と本当に見たわけではない伝説の物語を史実と信じ込む凄さも、まさに情熱というしかないものだと思います。
ホメロスの『イリアス』を幼き頃から史実と信じ、それを見つけるという夢を持ち続け、私費を投じて死ぬまで発掘を続けたその異常なほどの情熱に神が応えてくれたんだろうなという思いがする1冊でした。
やはり、タイトルは「古代への情熱」こそ、ふさわしい!
〈書籍データ〉
『古代への情熱‐シュリーマン自伝』
著 者:ハインリヒ・シュリーマン
訳 者:関楠生
発 行:株式会社新潮社
価 格:362円+税
1977年 8月30日 発行
2004年 9月 5日 35刷改版
図書館で借りてきた本のデータです。