#606 レビュー『エウリーピデースⅡ ギリシア悲劇全集6 』岩波書店 | 歴史に遊び!歴史に悩む!えびけんの積読・乱読、そして精読

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2024年の読書目標”とにかく読了 ギリシア悲劇”『エウリーピデース II ギリシア悲劇全集(6』を読みました。

トロイア戦争関連とへーラクレース伝説をネタにした、主人公などの心の動きを味わうことがポイントだなと感じるソポクレスの悲劇

エウリーピデース II ギリシア悲劇全集(6

絶版 新訳決定版 ギリシア悲劇全集 全14巻揃 岩波 古典劇 ギリシア哲学 思想 芸術 喜劇 ニーチェ プラトン アリストテレス

 

  レビュー

エウリーピデースの悲劇作品集その2についてです。「アンドロマケー」「ヘカベー」「ヒケティデス‐嘆願する女たち」「へーラクレース」の4作品となっています。初めの2作品はトロイア戦争の後日談的な話になります。戦争に負けることによってもたらされ続ける悲劇です。

 

「アンドロマケー」トロイア戦争後も続く悲劇

アンドロマケーはトロイア王子ヘクトールの妻だったが、ヘクトールは英雄アキレウスに討たれ、トロイアの敗戦で彼女は故アキレウスの息子ネオプトレモスの妾となり一子モロットスを設け、自らの国のプーティアーに戻ってきます。

 

そこでネオプトレモスはスパルタ王メネラーオスの娘のヘルミオネーと結婚しますが夫婦関係がうまくいかず、二人の間に子どもができないことから、ヘルミオネーはアンドロマケーを恨み、ネオプトレモスが出かけたときに、父メネラーオスを呼んでアンドロマケーとモロットスの殺害を試みます。アンドロマケーは子どもを隠して自らは女神テティスの神殿で嘆願しますが、メネラーオスが子どもを捕えて出てくることを求めます。そこに現れたのがネオプトレモスの祖父ぺーレウス(アキレウスの父、テティスの夫)で、彼がアンドロマケーを助けます。

 

このことがネオプトレモスに知られることを恐れるヘルミオネーのもとに、オレステースが現れます。彼は本当は自分がヘルミオネーと結婚するはずだったと、それをネオプトレモスに奪われたということで、彼が協力してデルポイにてネオプトレモスを殺害します。そこに女神テティスが現れ、息子と孫を失ったぺーレウスには、一度切れてしまっていた夫婦の関係を再構築しなおして、女神テティスのもとで暮らせるようにし、アンドロマケーには初めの夫ヘクトールの弟のヘレノスとの結婚、モロッシアーへの移住という予言がなされます。

 

ペロポネソス戦争が続く中、アテナイはスパルタとの戦争状態が続いているので、敵国スパルタの酷さを悲劇で描く狙いがあったのかなと思わせる作品でした。

 

「ヘカベー」 トロイア戦争後も引き続く王妃を襲う悲劇と復讐

トロイア戦争でトロイア王妃ヘカベーに降りかかる悲劇とその復讐劇。

主人公はトロイア王妃だったが敗北でギリシア軍総大将アガメムノーンの奴隷のヘカベー

トロイアの対岸の国トラキア王国のケルソーネスにて、船でギリシア帰国するための風を待っているところで順風になるには亡き英雄アキレウスに捧げる犠牲が必要ということで、ヘカベーの娘のポリュクセネーが選ばれ、ヘカベーはそれを許してもらおうと願うもかなわない悲劇が起こります。

 

そんなところに、もう一つの悲劇が起こります。トロイアは末の息子ポリュドーロスを養育費として黄金を持たせてこのトラキア王国に逃がしていました。トラキア王ポリュメーストールはトロイアが敗れるのを知ると、このポリュドーロスを殺害して黄金をせしめ、その死体を海に投げ捨てます。その死体がケルソーネスに流れ着き、ヘカベーは息子の死を知ります。末の息子と娘を失う悲劇に襲われます。

 

ヘカベーはアガメムノーンに事情を話し、自分たちで仇討ちをすることを許してほしいと願い、

ポリュメーストールとその子らを呼び出してもらいます。彼らにはトロイアの隠し財宝の秘密を話すということでヘカベーらトロイアの女性奴隷達のテントに誘い込み、そこでポリュメーストールの両目をつぶし、子どもらを殺し、その復讐を果たすという作品です。

 

「ヒケディデス‐嘆願する女たち」 嘆願を受け入れて戦争をするか、嘆願を受け入れないか

オイディプースの子のエテオクレースとポリュネイケースはテーバイの王位継承で争い、ポリュネイケースが追放されて、そのポリュネイケースに味方してアルゴス王アドラーストスは七人の将軍でテーバイを攻めますが、その七人の将すべてが死んでしまいます。その前提のもとにこの悲劇が始まります。

 

アルゴスの七将の母親らがアテーナイにやってきて、王のテーセウスの母であるアイトラーにテーバイで死んだままされされてしまっている息子たちの遺骸を引き取りたいので力を貸してほしいと嘆願します。まさに嘆願する女たちです。

遺体が野にさらされたままで埋葬禁止にされることは大いなる恥辱にあたるそうです。

 

そこにテーバイの使者がやってきます。テーバイの使者はアテーナイの政治の批判として民主政が衆愚政治に陥ることを批判します。ここら辺はペロポネソス戦争を経て没落していくアテーナイのその姿を批判しているのかもしれません。その批判を受けたテーセウスは専制政治への批判を行い、ついにテーセウスはアルゴスの人たちに味方することに決め、テーバイに遺骸を引き取りに行くため出陣し、遺骸を奪い返すことに成功します。これで終わればハッピーエンドです。

 

ここから、テーバイ攻めの時にゼウスの雷火で焼き滅ぼされたカパネウスの妻のエウアドネーが家を抜け出してきて、愛する夫と同じく死出の旅に出ようと自らもその火葬場で身を投げようとします。それをエウアドネーの父のイーピスが抜け出した娘エウアドネーを追いかけて止めにやってきますが、エウアドネーは火葬の炎の中に身を投げて死にます。

 

その後、女神アテーナ―が現れ、アテーナイと王のテーセウスはアルゴスのために役立たので、アルゴスはアテーナイに対していかなる場合でも武力で攻撃をしてはならないし、また、アテーナイが他国から攻撃を受けた場合は援軍を送らなければならないことを誓わせて話が終わります。

 

「へーラクレース」ゼウスの正妻ヘーラーによりもたらされる悲劇

へーラクレースはエウリュステウスに命じられる難業で、ついに冥府にいきケルベロスを連れて帰ってくることを命じられ、冥府に旅発っています。

 

テーバイでは、へーラクレースの妻のメガラ―とその子ども達、そして養父のアムピトリュオーンが居ました。メガラ―はテーバイ王の娘でしたが、そのテーバイではクーデターが起こり、メガラ―の父に代わってリュコスというものが王位を握り、冥府から帰ってこないへーラクレースのその不在を狙って、メガラ―や子ども達を処刑しようとします。

 

処刑が行われる寸前にへーラクレースが帰ってきて、リュコスらは逆に殺されてしまいます。これで終わればハッピーエンドなんですが、そこでゼウスの妻のヘーラーが、へーラクレースを狂わせるためにイーリスとリュッサ(狂気)を送り込みます。

 

ヘーラーはヘーラクレースが夫のゼウスがアルクメーネーという女性に手を出して妊娠させたことで生まれた子であることを知っているので、そのためとにかく彼を困らせる存在です。

 

今回は、イーリスとリュッサ(狂気)を彼のもとに使わせて、彼を狂わせてリュコス殺害後に、妻のメガラ―や子ども達を自分を困らせるエウリュステウスのその一族のように思わせて殺害させてしまいます。目が覚めてアムピトリュオーンからそのことを知らされ、ショックをうけますが、そこの友でアテーナイ王位テーセウスが現れて、二人で去っていくというストーリーです。

 

ヘーラーはとにかくへーラクレースに対する仕打ちがすさまじいものがあります。神の怒りを買うことの恐ろしさが表されています。

 

〈書籍データ〉

『エウリーピデースⅡ ギリシア悲劇全集6』

編 者:松平千秋・久保正彰・岡道男

発 行:株式会社岩波書店

価 格:4,500円

  1991年7月30日 第1刷発行

 図書館で借りた当時のデータです。

 
 
 
 

 

 

 

 

 

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